冒険者達は見た!
結構お気に入りの冒険者パーティー登場です。
それでは、よろしくどうぞ!
夜の十時ーーその時間になれば、大概の街は外壁の門を閉めることになっている。
次に開くのは、緊急時か翌朝の五時。
閉門に間に合わなかった者は、門の近くで野営するのが当たり前になっていた。
そして、今日もーー。
レスション王国の王都から南に位置する街に、閉門に間に合わなかった者達の野営が行われていた。
「もぅっ……! 本当に信じられません!」
焚き火の前で文句を言うのは、魔女のようなとんがり帽子と衣服を纏った魔法使いの少女ニコラ。
彼女は焚き火を挟んだ向かい側に座った剣士の青年ブレイドを睨みつけた。
「分かってるんですかっ、ブレイド! 貴方が突っ走ってたから余計な怪我負って、帰還に時間がかかったんですよ!?」
「わ、悪かったよ……」
「悪かったじゃありません! 本当ならちゃんと閉門時間に間に合うはずだったのにっ……!」
「まぁ、落ち着け。ニコラ」
「そうよぉ〜。怒ったところで野営するのは変わりないんだから〜」
怒られるブレイドと怒るニコラの隣に座って溜息を零すのは、真面目そうな雰囲気を纏った青年、槍士のスートと……どことなく退廃的な色気を纏う治癒師ディアーナ。
ギスギスしたパーティーのように見えるが、実際はそうでもない。
全員がまだ十代と若々しいながら、中堅パーティーとして有名な《シャインブレイド》ーーそれが彼らの正体であった。
「………ふぅ」
ある程度怒って気持ちが晴れたのか、ニコラは大きく息を吐く。彼女が怒る時は、パーティーメンバーが無茶をした時だけだ。つまり、仲間を大切に思ってくれているからで。
ブレイドはそんな彼女に頭を下げて、もう一度謝罪した。
「無茶してごめん、ニコラ」
「本当ですよ。もう無理しないでください。貴方が倒れたら、アタシ達も大変になるんですから」
「あぁ」
「……ふふっ。どうやらひと段落ついたみたいね? じゃあ、遅くなっちゃったけど夕食としましょうか」
話をまとめたディアーナは、焚き火にかけていた鍋からスープを器によそり、メンバーへと配っていく。見た目に反した機敏な動きである。
そして、四人はさっきとは打って変わって……穏やかな空気で食事を始めた。
「ところで……明日はどうする? あの地下洞窟ダンジョンも明日からは潜れるはずだが」
スートの言葉に三人は考え込む。
約三日間ーー王都に向かった方角にある地下洞窟のダンジョンに入ることが禁止されていた。
それは、王都にある貴族の令息令嬢達が通う学園が戦闘訓練の実習に使っていたからだった。
地上にも魔物はいるのだが、ダンジョン産の魔物の方が倒した際の経験値が高く……ドロップアイテムも良い物が手に入る。そのため、冒険者は基本的にダンジョン攻略で生計を立てている者が多い。三日間とはいえ、ダンジョンを貴族の学園に独占されていたのは中々の痛手だった。ここら辺にあるダンジョンは地下洞窟ダンジョンぐらいなので、尚更だろう。
しかし、そうは言っても身分で区別される国だ。いくら文句を言おうが、所詮平民でしかない冒険者ではどうしようも出来ない。
ニコラは〝こんなこと考えてもお金になりませんね〟と心の中で呟くと、気持ちを切り替えるように口を開いた。
「じゃあ、明日は地下洞窟ダンジョンーー〝牛闘士の洞窟〟にしましょう。三日分の稼ぎを取り戻すためにも!」
「うん、そうだね。オレも頑張るよ」
「えぇ。でも、無理は禁物よ? 治癒師の出番なんて、ない方がいいんだから」
「なら、決定だーー」
「「「「!!」」」」
四人はスープの器を床に落として、側においていたそれぞれの武器を手に取り構える。
王都の方角から向かってくる何か。
徐々に巨大になっていくその圧に……彼らは顔面蒼白になりながら、冷や汗を掻いた。
「な、な、何がっ……来てっ……」
歯をガチガチと鳴らしながら、ブレイドは叫ぶ。
まだ姿は見えていないというのに、本能で悟る。
きっと、これから来る存在には勝てやしないと。
冷静さを残していれば、直ぐに門を開けてもらい中に逃げ入ることもできただろう。しかし、そんな考えも飛ぶほどに……彼らは恐慌状態に陥っていて。
そして、その存在が遠くに見え始めたと思った瞬間ーー。
ーーーーザンッッ!!
四人の目の前に、見目麗しい二人の男女がいた。
「「「「…………は?」」」」
「あっ……」
「馬鹿っ……!」
カクンッと力が抜けたらしい黒髪の少女が倒れかける。
しかし、後から追いかけて来た空色の髪の青年が抱き止めることで、彼女は地面に座り込むことはなかった。
荒い呼吸を零す少女は、頬を赤く染めながら……そんな彼を見て、ムスッとした。
「はぁはぁ……離して下さいませ、タラシ」
「タラシじゃないって!」
「じゃあ、えっち」
「待って!? 変態って呼ばれるよりヤバい感じがするからそう呼ばないで!?」
「……もぅ……いいから離して、下さいませ……いつまで、抱き締めているつもりなの?」
青年はそこで自分の行動に気づいたのだろう。彼は動揺したように目を見開くと……ゆっくりと彼女を地面に座らせて、腰に装備していたマジックバックからタオルを取り出した。
「……その……ごめん。また無意識です……」
タオルを受け取りながら、彼女はジト目で睨みつける。
だが、直ぐに呆れたような溜息を零すと、ぱふぱふと首筋を拭き始めた。
「………はぁ……どうしてかしら。幾ら言ってもどうにもならない気がしてきましたわ……」
「………なんかごめん?」
「……今日はもう疲れましたから、この話は後にしましょう。野営の準備はお願いしても?」
「……体力ないな?」
「現役冒険者と一緒になさらないで」
「それもそうか。んじゃあ、休んでて」
先にいた彼らに気づかず会話をする二人。
しかし、野営の準備のために青年が立ち上がると、そこでやっとブレイド達に気づく。
彼は目を瞬かせると……にっこりと、人懐っこい笑みを浮かべた。
「こんばんは。煩くして悪かったな」
「い、いえ……」
「失礼ついでなんだが、火を共有しても良いか?」
「ど、どうぞ……」
街門付近の野営では、焚き火の数はなるべく少なくするのがセオリーだ。
門前に焚き火の焦げ跡が大量に残ると、外観が悪い。そのため、このように後から来た者が先の者に使わせてくれる礼に小魔石を渡して共有するのだ。
「ありがとう。これ、お礼の小魔石な」
彼はマジックバックから魔石を取り出すと、ブレイドに投げ渡す。
その後……何故か彼は、じっと《シャインブレイド》の方を見つめ始めた。
「…………」
ーーじっ……。
「「「「……………」」」」
ブレイド達は、不躾な彼からの視線に晒されて動揺する。
何をしているのか? 何があってこちらを見ているのか?
先ほどの圧の件も相まって、冷や汗が止まらない。
だが……そんなブレイド達の気持ちを知らずに、彼はだいぶ斜め上なことを質問してきた。
「あのさぁ」
「「「「ひゃいっ!?」」」」
「女の子がパーティーにいる時って、テントはあった方が良いのか?」
「「「「………はい?」」」」
話の意図が見えなくて、彼らは頭上にはてなマークを出現させる。
「いやさぁ〜……今までソロプレイしてたからテントなんて使ってなかったんだけど、今度からあの子が仲間になるからさ。君らはテント使ってるみたいじゃん?」
彼が指差す方向には、小さな折り畳みテントがある。
ニコラとディアーナはテントと彼の背後で休憩している美少女を交互に見て……やっと、彼が純粋な質問をしているのだと理解した。
「えっと……あった方が良いとは思います。嵩張るけど、着替えする時とかに重宝しますね。」
「そうねぇ〜……雨が降っている時などにも使用出来るし。女性はどう足掻こうが男とは違うから……ゆっくり休憩することを考えると、テントは必要なんじゃない?」
「成る程。貴重な意見をありがとう」
彼はそう言って、焚き火から少し離れたところに陣取ってマジックバックから色々と食材を出し始める。
丁度体力が回復したのか……先ほどの疲労困憊が嘘のように落ち着いた少女が、そっと彼に近づいた。
「レイン」
「ん? あぁ、回復したか?」
「えぇ。手伝いますわ」
「平気か?」
「勿論」
「なら、テキトーにパンを切って、軽く焼いてくれ。ほい、ナイフ」
マジックバックからパンとナイフを受け取った彼女は、覚束ない手つきでパンを切り始める。
そんな彼女を見守りながらスープの準備を始める青年。
こそっと二人とは反対側に集まっていた《シャインブレイド》四人は……コソコソと顔を合わせて話し始めた。
「ねぇ、今……レインって言わなかった?」
「それもソロプレイとも言ってましたね?」
「………まさか……Sランク冒険者の《双刃雨》のレインじゃないでしょうね……?」
「だが、共にいる女性は……」
四人は顔を見合わせて、思わず真顔になる。
Sランク冒険者《双刃雨》のレインーー。
彼は十九歳という若さでSランク冒険者となり、その中でも唯一ソロプレイをする猛者である。
そして……その天然タラシな発言で、数多の女性(時に男性も)を虜にしているらしい。噂しか聞いたことがないブレイド達ですら、彼の武勇伝(という名のタラシ伝説)を聞いたことは一度や二度じゃない。
そんな彼(だと思しき人)が、明らかに只者ではない令嬢らしき女性を連れて、甲斐甲斐しく世話(?)をしている……。
このような光景を見ればーー。
((((…………女性関連の事件が起こる予感がする……))))
ほぼ初対面の彼らですら、そう思うのは仕方のないことであった。
………ちなみに。
その後、この予想が的中し……彼らもそれに巻き込まれることになるのだが、今のブレイド達はそれを知る由もなかった。
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