濃ゆキャラ達が、大量発生です。
よろしくどうぞ( ・∇・)ノ
サ◯子エルフから逃げて次の街。
そこにはなんかもう……凄い格好の元Sランク冒険者がありましたとさ。
ソフィアとレイン、元Sランク冒険者で現ギルド職員エロイーズ、Aランク冒険者パーティー。ついでに運悪く(?)ここに居合わせた冒険者ギルドの職員達。
誰もが黙り合い、互いに互いの出方を伺っていた。
だが、別に喧嘩をしている訳でも互いに敵対している訳でもないので、一触即発という感じではない。
そんな訳で。
一番最初に沈黙を破った勇者は……Aランク冒険者パーティーのリーダーらしきキラキラ貴公子冒険者であった。
「…………おい、そこのお前」
声をかけた先にいるのはレイン。
彼は〝えっ、俺かよ〟とか思いながらも、「なんだ?」と返事を返した。
「この職員が元Sランク冒険者というのは本当か」
「えぇ……? 嘘言ってどーすんの? ほんとーだけど……」
「しかし、エロイーズという名のSランク冒険者の話など聞いたことがないぞ!」
それに同意するように、彼のパーティーメンバー(※なお、美少女四人)とエロイーズの後ろにいるギルド職員達が頷く。
そんな彼らを見て、レインは「あぁ……」と納得したような顔になった。
「そりゃそーだろ。名前も姿も当時と違うんだから。姐さんは《落星》だよ」
『………………《落星》のジミー!?!?』
「ちょっとぉ!?!? その名前で呼ぶんじゃないわよっ!! このアホンダラ達っ!!」
元Sランク冒険者《落星》のジミー。
彼は大槌とスキル・転移を武器に戦う冒険者であった。
得意攻撃は、その大槌を用いた落下攻撃。転移で敵の上空に移動し、重力の力が加わった一撃をお見舞いする。
その姿はまさに落ちる星が如し。ゆえに彼は《落星》と渾名されていた。
しかし……。
「今のアタシはエロイーズよ、エ・ロ・イ・ー・ズ! 間違えないでよねぇ!」
ふんっと鼻息荒く髪を払うその姿に、かつての面影はない。
クルンクルンッとカールした巻き髪を豪華に結い上げ、ドピンクの化粧を施し、真っ赤なドレスを着たその姿……その、一目見れば忘れられないような姿だ。
人々が耳にする噂では《落星》は屈強な漢。焦茶色の髪に蜂蜜色の瞳。逞しい身体に無骨な鎧を纏った、男の中の漢のような姿だと聞いていた。
だから、共に働いて三年経つ同ギルドの職員達も。そのAランク冒険者パーティー達も彼ーーごほんっ。彼女が《落星》のジミーだとは思いもしなかったのだ。
『………………』
愕然とする彼らを見てソフィアは首を傾げる。
そして、未だにムスッとするエロイーズに問いかけた。
「エロイーズ様」
「あら、やだ。様付けなんてしなくていいのよぉ! でも出来ればお姐様って呼んで欲しいわぁ! ……んで? 何かしら?」
「エロイーズお姐様は同じギルドの方達にも、昔のことをお話しになさってなかったんですの?」
「まぁ、素直! 本当に呼んでくれるなんて! えぇ、そうよ〜? だって、元《落星》として相応しい格好をしてとか言われたら面倒だもの〜! 今のアタシはアタシの好きな格好をして、アタシらしく振る舞ってるの。それなのに、他人に文句言われたり邪魔されたりするの、嫌じゃなぁい?」
「……あぁ、成る程。本人は気に入ってるのに外野が煩い、というヤツですわね。納得ですわ。わたくしとしてはお似合いだと思いますわよ。だって、お姐様、生き生きなさっていますもの」
「…………」
エロイーズは大きく目を見開き、驚いたような顔で固まる。
それもそうだ。なんせ初対面でこんな風に前向きに受け入れてくれたのは、初めてだったからだ。
この格好が一般的に受け入れ難い姿だというのは理解している。だから、初めて会う人達は大概が嫌悪感を露わにしたり、必要以上に関わろうとしなかったりする。ここにいる他のギルド職員達だって、最初は距離を置かれていた。
昔から付き合いがある人達ですら、簡単に受け入れてくれない人がいたのに。
なのに、ソフィアは初対面の時点で普通に受け入れてくれている。
そんな素直な彼女の言葉が嬉しくて……堪らない。
エロイーズは満面の笑みを浮かべながら、ソフィアと同じように「他人にメーワクかけてる訳でもねーし。好きなようにしてるだけなら、別に良いんじゃね?」と簡単に受け入れてくれたレインに声をかけた。
「ちょっとレインちゃぁん?」
「なんだよ」
「良いお嫁さん、もらったんじゃなーい?」
その言葉に、キョトンとするレイン。
それから心底自慢げに、ドヤ顔でそれに答えた。
「ははっ、とーぜん。ソフィアはこの世で一番の、最高な女だぜ」
「あらやだ。自慢されちゃったわぁ〜!」
エロイーズが茶化すようにそう言うと、レインは益々ドヤ顔になり、ソフィアは照れたように頬を赤くする。
しかし次の言葉で、レインは地獄に叩き落とされた。
「じゃあ今度からはソフィアちゃんも絡めて、シルビィちゃんを煽らなきゃいけないわね〜!」
ーーピシリッ。
固まったレインの顔色が、一気に悪くなる。
その異様な空気を感じ取ったソフィアは、レインとエロイーズの顔を交互に見た。
「…………姐、さん。あの、まだ……それを、続けていらっしゃ、る……?」
「そうよぉ! だって、嫉妬に燃えるシルビィちゃんは誰よりも格好良いんだものぉ! 止められないわぁ〜!」
「………………………………」
ニンマリと笑うエロイーズを見て黙り込んだレインは、唐突にその場に崩れ落ちる。
そして、両手で顔を覆いながら、大きな声で叫んだ。
「あぁぁぁぁあ……! だからアンタのこと、駄女神並に嫌ーー……苦手なんだよぉぉぉっ!」
「あははははっ、オブラートに包んだわねぇ〜! レインちゃんのそーゆー優しいとこ、好きよぉ〜? でも、諦めなさ〜い! 恋するオトメはどーしよーもないのよぉ〜!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ! もういい加減、無駄な戦闘はしたくないですぅぅぅぅぅぅう!」
いきなり出てきた〝戦闘〟という言葉に、ソフィアはギョッとする。
ついでに只ならぬレインの様子に、驚きを隠せなかった。
「ちょっとレイン!? 大丈夫ですの!?」
「大丈夫な訳ねぇーだろぉぉぉ……! だから姐さんに会いたくなかったんだよぉぉぉぉ……!」
「話が全然見えませんわよ!?」
「あらあら。レインちゃんから聞いてないの? ま、話しづらいわよねぇ。仕方ないからアタシから説明してあげるわぁ〜」
情緒不安定になったレインに代わり、エロイーズがケラケラと笑いながら説明をする。
それを聞いたソフィアは、彼が死んだ魚のような目をする理由を理解したのだった。
「アタシのお嫁さんでもあるシルビィちゃんは、レインちゃんの姉弟子なのよぉ〜。でもね〜? シルビィちゃんは優秀な弟弟子であるレインちゃんのことを敵対視しているの! まぁその理由がアタシがレインちゃんに気があるフリをしちゃったからなんだけど!」
〝きゃはん☆〟と笑うエロイーズに、ソフィアの頬が引き攣る。
「けど、レインちゃんのおかげでシルビィちゃんが嫉妬に燃えて、レインちゃんを攻撃したり、アタシへの束縛が激しくなったりするモンだから〜! ついつい今でも気があるフリして煽っちゃうのよねぇ〜!」
「アンタらの駆け引きに俺を利用すんなぁぁぁぁぁぁぁっ!! 姉弟子、この件に関してだけは本気で俺を殺そうとしてくるんだからなぁぁぁぁ!」
「それは悪いと思ってるけど、それでも止められないわ〜! だって……! 嫉妬に燃えるシルビィちゃんは本当に素敵だから!!」
「知〜る〜かぁぁぁぁ!! てかソフィアを巻き込むの、止めてぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「無・理・☆」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあんっっ!!」
叫ぶレインを尻目に、ソフィアも死んだ魚みたいな目になった。
多少格好が奇抜でも、エロイーズは話が普通に通じるし、一般的な人だと思っていたのに。
でもやっぱり……紛れもなく、(元が付くけど)Sランク冒険者であっただけあった。
どうしよう。頭のネジが一つ飛んでる。本当に、飛んでた。
レインから聞いていた。Sランク冒険者は話が通じないんだと。頭のネジが飛んでいるのだと。そう聞いてはいたが……それでもまだ少しだけ、疑っていた。
だって、そう言うSランク冒険者のレインは少しだけ変でも普通な話が通じていたから。元Sランクであるエロイーズも今の今まで変なところがなかったから。
けれど、今の発言で、Sランク冒険者はブッ飛んでるのかもしれないと納得し始めている。
じゃなきゃどこに嫁の嫉妬を煽るために、その嫁の弟弟子を利用する人がいるのだ。ここにいるけど……。
(なんでわたくしも巻き込まれることにーー……って、レインの妻だからですわよねぇ……)
ある意味これも女難なんだろうか……? いや……なんか普通に、レインが災難に襲われ易いだけな気もしてきた……。
どうしよう……。ソフィアは自分の夫が、他のSランク冒険者に滅茶苦茶、苦労させられていそうだ……。レインがSランク冒険者達の中で比較的、常識人枠に嵌まってしまっているから、巻き込まれて被害を被って、とばっちりを受けている予感である。
何故だろう。その予想は、間違いではない気がする。
ソフィアはもしかしたら自分より苦労してるかもしれないレインに、同情を禁じ得なかった。
「って……ちょっと待て!!」
と……。
Sランクと元Sランクの会話に割り込んできた猛者がいた。
レイン達の会話を強制的に聞かされる羽目になっていた冒険者パーティーのリーダー貴公子だ。
未だに名前を明かされていない彼は、エロイーズをビシリッと指差して、大きな声で叫んだ。
「貴様が本当にあの《落星》のジーー」
「エロイーズってんでしょぉ!? 本当にアンタ、鳥頭ぁ!?」
「…………《落星》だと言うのなら。貴様の妻というのはあの、《氷雪の麗人》シルビア・アイスフィールドか!?」
《氷雪の麗人》シルビア・アイスフィールド。
彼女もまた、様々な武勇を残し、世に名を馳せるSランク冒険者だ。加えて、ソフィア達が今いる国の隣国、女王制の国アマーレに仕える女騎士でもある。
そんな彼女の逸話の中で特に有名なのが……《落星》のジミーと夫婦だという話。
エロイーズはにっこりと笑って、自慢するように頷いた。
「そうよ〜! アタシの可愛いお嫁さん! シルビィちゃん!」
「なん、だとっ……!!」
『(う・そ・だっっ!! し、信じたく!! ない!!)』
その答えに。その場にいる者達(ソフィアとレイン以外)は、本気で信じられない気持ちになった。
何故なら……《氷雪の麗人》シルビアは誰もが憧れる有名人であったからだ。
三つ編みにした美しい銀髪に、鮮やかな海色の瞳。美しい顔立ちに柔らかな笑みを浮かべながら、騎士らしく紳士的な振る舞いをするシルビアは、言うなれば舞台女優のような存在。老若男女問わず沢山のファンがいる。月刊のブロマイド誌が出るぐらい人気者だ。
だから、彼女が結婚したと公になった時はそれはもう……嘆き悲しみ、寝込む人も続出した。それでも同じSランク冒険者で、彼女の背中を預けられるような漢らしい《落星》ならばと泣く泣く認めた人も少なくない。
その《落星》がコレ!! ショッキングピンク!! ピンクの化粧!! 真っ赤なドレス!! である。
人の格好にケチをつけちゃいけないとは分かっていても、憧れの舞台女優の伴侶がこんな奴だとか……本音を言えば、彼らはそれを認めたくなかったのだ。
けれど、否応なしにその事実を突きつけられた彼らは……口から魂が抜け出すような衝撃を受けて、固まっていた。チーンッ……とお通夜状態である。
その間にソフィアに慰められてなんとか立ち直ったレインは、大きな溜息を零しながら……お通夜な周りを無視して、話を元に戻した。
「はぁ〜……取り敢えず、姐さんが姉弟子を煽んのはもう諦めたわ……とにかく、姐さん。所在地報告と情報」
「あらあら。悪かったわね、長々と世間話しちゃって! はい、Sランク冒険者レイン様、所在を確認したわ。そ・れ・と〜……なんの情報が欲しいのかしらぁ?」
「天位竜の情報」
「えぇ? アンタも天位の情報欲しいの! なんなの? 今、流行りなの? 後、ちゃんとドラゴンって言いなさい? 最近、竜で一括りにすんのは竜国人への差別だって世論がうっさいんだから」
「世論って……どこだよ」
「んなの獣人の国に決まってんでしょー?」
「あぁ〜……あそこは種族を間違えるとブチ切れる奴多いモンなぁ……でも、当の竜国人らが気にしてないのに、ちゃんと言えってゆーのかよ」
「それも外野が煩いってヤツよ〜! 諦めなさ〜い?」
なんて本題に入るや否や手早く手続きを終えるエロイーズ。
しかし、レインが告げた天位竜もとい天位ドラゴンへの情報を、彼女はそう易々と与えてはくれなかった。
「…………姐さん? ドラゴンの情報は?」
「んー?」
「いや、誤魔化すなし。よ・こ・せ」
「誤魔化してるつまりはないのよぉ? ただ、レインちゃん。天位ドラゴン、何人で挑むつもり?」
「え? 俺とソフィアの二人だけど」
「じゃあ教えられないわ〜! 無駄死にするだけだもの!」
「はぁ!?」
はっきりと告げれた言葉に、ソフィアとレインは目を丸くする。
するとエロイーズは、チラリと未だに魂飛ばしてるAランク冒険者パーティーの方を見た。
「あの子達も天位に挑もうとしたみたいなんだけどね。魔物の討伐危険度が、全体的に上がってんのよ」
「危険度が上がってる?」
「そう。最近、魔物の活動が活発化してるでしょお? それが原因でドラゴンも漏れなく危険度上昇。最低でもSランクが三人。三人はいなきゃ推奨出来ない程度に、凶暴化してんのよぉ〜」
「「…………」」
ソフィアとレインは顔を見合わせる。
これは(真)魔王アントンの宿屋で話した、(偽)魔王の所為かもしれない。
偽物とはいえ魔王を名乗るだけあって……各所に悪い影響を与えているのは間違いなさそうだった。
「さっき確認させてもらったけど、ソフィアちゃんはまだBランクでしょ? 後二人、Sランク連れて出直してきなさぁい?」
「…………後二人、か」
「そーよ。でも、よかったじゃない! 一週間後にSランク会議があるんだから、その時に他の人にお願いしちゃえばいいのよ! 他のSランク探して頼むより楽よぉ〜」
「「…………ん??」」
「ん? どーしたのよ。そんな驚いたような顔して。なんか気になること、あったかしらぁ?」
「…………いや、待って? Sランク会議って……何?」
「………………えっ。アレクちゃんから聞いてないの?」
「アレク…………アレク!?」
「そーだよっ!! 僕だよっ!!」
『!?』
ーーバァァァン!!
ギルドの扉を叩きつけるように開けながら現れたのは……キラキラと輝く碧眼を有した、儚い顔立ちの白皙の青年。
その見覚えのある緑混じりの金髪に、ソフィアは「アッ」と声を漏らす。
「どーして僕を置いて逃げたんだよぉっ、レイン君っっ!!」
「……って!! あの地面に落ちてたんお前だったんかいっっ!!」
そして……レインのツッコミであの落ちていたエルフが彼の関係者だったと知って……。
〝どうしてレインの関係者は誰も彼も濃いのかしら?〟と遠い目をせずにはいられない、ソフィアさんなのであった。
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