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企画に沿って書いた童話

アサ子さんの冬じたく

作者: 瑞月風花

ひだまり童話館「ぱりぱりな話」参加作です。よろしくお願いします。


 アサ子さんの家は木のお家。お庭にはもみじとさくら、柿の木があります。今はその葉っぱをぜんぶ落としてしまっているのですが、年が明けると木々に雪がつもるのです。

 木枯らしに両方の腕でぎゅっと体を温めてその庭を歩きます。さくらの落ち葉がたくさんおちています。オレンジに赤色、茶色いものに、黄色いもの。その落ち葉の上を歩くとぱりぱりと音がします。

 もうすっかり冬なのです。落ち葉もぱりぱり。12月が終わるまでに、お庭もはいてキレイにしなければなりません。

 アサ子さんは考えます。

 ぱりぱりのおちばを使って、たき火でもしようかしら。

 そういえば、秋に収穫(しゅうかく)したサツマイモが残っていたわ。

 さっそくホウキを持ってきてお庭をはきはじめます。

 


 ほくほくあまいやきいもを想像(そうぞう)するだけでアサ子さんのほほはにっこりしてしまいます。

「さて、そろそろ」

 ホウキを持つ手を止めて、アサ子さんはこんもりつもった落ち葉の山を見つめます。

 それから縁側(えんがわ)から台所へと向かい、(えん)の下からサツマイモをひとつ取り出しました。

「しんぶん、しんぶん」

古紙の回収にだそうと思って縛っていた新聞紙を(しんぶんし)一度ほどき、もう一度、台所まで。

 蛇口(じゃぐち)をひねり、新聞紙をぬらします。

 そうして、アサ子さんはぬらした新聞紙をサツマイモに着せて、アルミホイルをまきました。

 

 落ち葉の山の中にサツマイモを埋めて寝かせると、マッチをこすって、落ち葉の中に入れました。


 ぱちぱちぱち


 ぱりぱりに乾いている落ち葉が火の粉をはぜる音が聞こえてきます。焼けるまでもう少し。アサ子さんは冬の寒い空を見上げ、たき火の番をすることにしました。

 風の音がヒューヒューと聞こえてきます。

 まだお昼を過ぎたばかりだというのに、おひさまは少し黄色くなって(かたむ)いています。

 アサ子さんはたき火に手をかざしながら、大きくあくびをしました。

 おいもを食べたら、火鉢を縁側(えんがわ)に出そうかしら。

 そんなことを考えながら、ひばさみでおち葉をよけておいもの様子を見てみます。

 いいかんじに焼けているようです。アサ子さんは火ばさみでやきいもをつまんで、真っ黒になったアルミホイルを半分に割りました。

 ふわっとゆげがあがり、あまいにおいが冬の寒さの中にひろがります。

 アサ子さんはにっこり。

 卵の黄身のような黄色がほっこほこです。


 ぱりぱりぱり


 柿の木の後ろからおちばをふむ音が聞こえてきました。何かいるようです。目をこらしていると、もう一度ぱりぱりぱり。柿の木の後ろから茶色いシッポが見えました。

 あら、たぬき。

 きっと、やきいもの匂いに誘われてやってきてしまったのでしょう。

「ぱりぱりのおちばを持ってきてくれたら、おいもを分けてあげるわよ」

 アサ子さんはほほえみながら、柿の木の後ろに声を掛けました。今度はおちばを踏むぱりぱりが忙しく聞こえてきました。

「あら、行っちゃった」

 残念そうにアサ子さんはつぶやきました。

 縁の下にはやきいもにしなかった少し小さめのサツマイモが残っているのです。お正月に煮物(にもの)にしようと思っていたものだけど……。

「もどってきたりするかしら?」



 今夜は冬至(とうじ)です。冬至の日にはユズ湯に浸かり『ん』のつくものを食べると運がよくなり健康に過ごせるのだと、アサ子さんはアサ子さんのお母さんから聞いています。

 冬至に向けて用意したのは、ユズ。それにギンナン、レンコン、ダイコン、ニンジン、ナンキンにキンカン。

 ナンキンは甘辛くたきます。

 ダイコンとニンジンはお味噌汁に。

 そして、レンコンはきんぴらに。

 一口大に切ったナンキンは角を取って、丸く面取りします。ごま油で少し炒めて、おしょうゆとみりん、粉末のだしで味を調えて、煮込んでいくのです。

 次はレンコン。少し小さめのレンコンを輪切(わぎ)りにしてから、やっぱりごま油で炒めておしょうゆ、みりん、はちみつにタカの爪を入れて甘辛(あまから)(いた)めます。

 木しゃもじでレンコンがあまい茶色に色づくまで炒めていくと、良いにおいがふんわり上ってくるのです。

 一口、味見。

 ぱりぱり。

 アサ子さんは思わずにっこり。

あんまり炒めすぎてしまうと、このぱりぱり感がなくなってしまうので、その出来に満足しました。あとは、冷まして待つだけです。

 最後にダイコンとニンジンは短冊切りにして、おみそしるに。

 ちょうどその時、ギンナンご飯が炊ける音がしました。


「そういえば、ごはんも『ん』だわ」

自分の思いつきにアサ子さんはやっぱりにっこり。


 できあがったお夕飯をお盆にのせて、縁側のあるおへやまで。お昼の間に用意した火鉢(ひばち)もあります。

 今夜は夜空も()みわたって星もきれいに見えています。その様子はすっかり冷え込んでみえます。だけど、柚子のお風呂に入って、ゆっくり湯船(ゆぶね)に浸かればきっとほかほかになるはずです。


「あら?」

お盆を持ったままのアサ子さんが、足を止めると、縁側の向こうにある石段に赤いもみじの葉っぱがありました。

 アサ子さんは急いで、お盆をちゃぶ台に置いてから、小さなサツマイモを取りに行き、縁側の外に出しました。お月さまがにっこり笑ってもみじとアサ子さんを見守っています。

「ありがとうね」

アサ子さんはぱりぱりに乾いている真っ赤なもみじの葉っぱをつまみあげ、夜の向こうに声をかけました。


 ぱりぱりぱり。


 上出来なレンコンのきんぴらを食べながら、アサ子さんはたぬきの家族を思います。

「かわいいおみやげだわ」

食卓を飾る赤いもみじを眺め、やっぱりにっこりほほえむのでした。


今年の冬至は12月22日らしいです。

一年で一番日が短い日。次の日からお日様は少しずつ春へと向かいます。

みなさんも「ん」のつくものを食べてみてはいかがでしょうか?

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― 新着の感想 ―
食や文化を含め、季節を大事に、ていねいに暮らしているアサ子さんがとても素敵です。 「ぱりぱり」という音だったり、乾いて冷たい澄んだ空気だったり、たき火やお芋のにおいだったり、といった五感に訴えてくる表…
冬といえは、焼き芋ですね。 子供の頃は実家の庭で同じ様に焼き芋焼いていました。今は車で近所に来る焼き芋屋さんから買っています。焼き芋屋さんの声で冬を実感しますよ。 たぬきの家族も冬じたくですかね。 …
[良い点] レンコンのきんぴらのパリパリ。良いところに着目なさっているなぁと思いました。ぱりぱりを題材に、寒い冬をほっこり暖かい気持ちにしてくれるアイテムや料理やアサ子さんと動物達の交流。どれも1つ1…
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