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見出された運命の先に  作者: イミティ
第3章 迷宮国家ヴァルンバ
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第37話

 今日は予約投稿です。これが投稿されている時、私は既に就寝していることでしょう。

 この時期に体調を崩しました。クリスマスにサンタさんから貰うプレゼントは『健康』に決まりましたね。




 「で、こいつが本体?」

 「……と、言うか、一応あれ、全部魔物の、体、だけど……本体みたいなのは、これ」


 木っ端微塵にした幹の中から出てきたのは、横二メートル、縦四メートル程の楕円になった触手の球だった。

 なんと言おうか、触手がとにかく絡みまくって珠状になっている。そこから無数の触手を伸ばしていたようで、中心部がどうなっているのかはごちゃごちゃしていてよく分からない。


 見ようによっては寄生虫だが、一応幹や葉まで含めて全てこいつの一部とのこと。


 幹や葉は人間で言う皮膚や髪と捉えれば良いか。


 「にしても、やっぱり初めての敵は苦戦するな。どう戦うか中々判断に困る」

 「……本気、出せば、余裕でしょ……?」

 「全力という意味なら、そりゃそうだけどな。ただどうしても魔法に頼った戦い方になる。剣が必要ないレベルで」


 遠くから上級魔法でも放てばそれだけで決定打だし、そうでなくとも複数同時に魔法を発動してしまえば決め手となりうる。

 が、金稼ぎや職という意味で働いているならともかく、レベルアップや戦力強化を目的としている今、どちらかに傾倒するのは避けたいところだ。

 魔法は魔力も使うし、本当なら剣のみで戦いたい。体力と魔力の減り具合は断然後者の方が早いのだ。そして回復にもそれ相応の時間がかかる。


 それに、身体能力の面で見ればほぼ全力で挑んでいる。魔法を制限した場合の俺の実力はこんなものだ。

 魔物の動きも前の階層に比べて一気に跳ね上がっているような気はする。それもまぁ、俺が慣れるまでの感覚ではあるが。


 触手の球をつんつんと剣先でつつけば、まだ生きているのか微かに動く。それを確認してから、容赦なくその球に剣を突き刺した。


 体内を剣から伝わる感触で探せば、数秒後に中々透き通った魔石を上手く取り出すことに成功する。魔物ごとに魔石の種類は違うだろうが、やはり階層を経る度により透き通っているように思える。


 「さて、こんなものか」

 「……おつかれ……ぁ」


 と、労いをかけ俺の事を見上げたルリは、何かに気がついたように声を上げた。


 「ん? どうかしたか……って、近いな」

 「……じっと、してて」


 突然距離を詰めてきたルリに……は慣れているので動かずに聞けば、ルリは俺にそう言って頬に手を伸ばしてきた。

 

 手、と言うよりはローブの袖だったが。それでゴシゴシと俺の頬を拭う。


 「何かついてたか?」

 「……魔物の、体液」


 言われて、そう言えば触手を斬り飛ばした時にかかったことを思い出す。


 「……衛生的に、良く、ないから……病気に、なるかも、しれないし」

 「ありがとう。でも悪い、服を汚したな」

 「服、なんて、洗えばいい……」


 そう言って水球を作り出したルリは、拭った袖をそこに突っ込んで軽く水洗い。自分のことに無頓着というか、大雑把なのはルリらしいと言える。

 それ故に、こちらを気遣ってくれているのが……本当に、優しい子だなと。

 

 あ、いや、優しい……人だなと。うん、『子』と明言してしまうのは良くないな。

 最近は以前にも増して年齢がわからなくなってきているし。


 


 ◆◇◆




 基本的に新たな階層に降りた場合は少しだけ魔物を見て帰ることにしているので、ヤテベオ一体と戦って終わりだ。何より今日はボス戦を経ていたのもある。

 傷は治療したし、紫希(しの)さんに服は直してもらったが、ダメージを負ったことで見えない疲労が蓄積しているかもしれないこと考えれば、妥当なところだろう。


 怪我は治せても、痛みは癒えない。


 それに加えて帰りは五層分降りなくてはいけないし。いくら道を覚えているとは言っても、五層ともなれば帰るだけでも一苦労だ。ショートカット的な、ワープ的な機能が使いたい。


 この先さらに深く潜って行けば、日帰りでは済まないこともあるだろう。二十層とかまで潜れば、どんなに最短で行っても往復だけで半日以上を消費することになるはずだ。


 先を見据えて迷宮内の野宿セットを確認しておいた方が良さそうだと、現在持っている魔道具(マジックアイテム)を脳内でピックアップしながらいつもの日課を済ませる。今回もやはり前層と比べれば高い金額で、毎日昇進しているような気分だ。


 そろそろ小金持ちなんじゃあるまいか。高校生が持つ額では決してないな。

 同時に、これだけ金があると何かしら買い物をしてみたい気分にもなる。


 「なぁ、高い買い物ってなんか思い浮かぶか?」

 「……家?」


 それはかなり高すぎるかな。金貨100枚どころじゃないだろう。


 「もうちょい下げたもので……そうだな、店で買えるようなもので頼む」

 「…………オーダー、メイドの、装備?」

 「なるほど、装備か」

 

 結構考えていたようだが、ポツリと首を捻りながら呟いた。そもそも貴族に近しいルリに高い買い物を尋ねたのがまずかったのかもしれない。


 装備か……確かにそこに関しては俺も無頓着だ。なんというか、剣ならなんでもいいみたいな。防具なんて考えたことすらない。動きやすい服で良いじゃんと。

 でも実際服は被弾すると簡単に破けてしまうし、剣も毎回魔法をかけるようじゃ魔力を消費する。


 後者に関しては王都騎士団の正規装備なので決して弱いということは無いはずだが、鉄的なもので出来た剣だと魔物に対しては非力か。


 グレイさんやベルトさんなんかは自分専用の武器を持っていたし、それもオーダーメイドなのだろう。


 「ちなみにオーダーメイド装備って相場は?」

 「……金貨、五十枚から」

 「待った、予想以上に高い」


 家よりは安くなっているけど、それでもかなり高額だ。高い買い物とは言ったが金貨五十枚となるとクリスから貸してもらっている金にも手をつけるレベルだ。


 「悪い、流石に無理だ。今の俺達の金全部合わせても足りない」

 「……今、どのぐら、い?」

 「ざっと金貨45枚ってところだな」

 「…………まぁ、安いの、なら」

 「いやぁ、それはそれで不安だな。それなら最初に大量の金を使って良い武器を作ってもらった方が結果的に良さそうだ」


 やはりルリの金銭感覚は狂っている。いや、狂っているという言い方は失礼だが、俺の金銭感覚は未だ高校生レベルだ。

 五十万円の買い物なんて心臓に悪すぎる。しかも全財産どころか借金までして買うものじゃない。


 ルリの言い方だと五十万円もほぼ最低額っぽいが。そもそも素材持ち込みとかだったら頼めないぞ。魔物の素材なんて持ってないし。魔石も全部納品しているし。


 やっぱり止めよう、買い物。程々のものが見つからない。

 だがしかし、同時に他に買わなければならないものを思い出した。


 「そうだ、ルリの服は買わなきゃな」

 「……?」

 「女の子なんだ。普段は汚れたりしないから気にしなかったが、今日は魔物の体液を付けちゃったし、せめて寝る時は専用の、パジャマみたいな服があった方がいいだろ? 替えのローブだってそんなに無いんだから」

 「……それは、そう、だけど……」

 「なら新しいのを買おう。いくら魔法で洗ってるからとはいえ、戦闘時に着ていた服のまま寝るのは気分的に良くないはずだろ」

 「……ん」


 あまり乗り気では無い様子のルリは、別に服を新しく買うのが嫌という訳ではなく、どちらかというと申し訳なさの方がありそうだ。

 もちろんそれを理解しているから、そんなルリの頭にポンと手を置いて、撫でる。


 「金なら気にするな。武器よりもルリの服の方が優先だし、それに……俺だけで得た物じゃない。何より、仮にも俺達は()()なんだから、ルリにも使ってもらわなくちゃ困る」

 「…………ん」


 家族という言い方がルリにとってウィークポイントだと知って使うのは少し狡い気もするが、それでこんな嬉しそうな顔をするのだから使わないわけにはいかない。

 

 肩を縮こまらせて恥ずかしそうにしながらも、口元には小さく笑みが浮かんでいる───その姿が可愛い。凄く可愛い。

 まぁ、こういう言い方なら変に遠慮することもないだろう。ルリは近い距離感を望んでいるようだし、ならばこそ遠慮はしないで欲しい。


 次回ですが、あともう少しで次の話が書けるので、この体調でも明後日辺りに投稿できるかと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「安物買いの銭失い。」 冒険者にとっては死活問題に成り兼ねないですね。 そして作者様、今年も残りわずかですからお大事に。
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