★第6話
執筆が順調なので、多分どこかでツケが回ってきます。
もしかしたら意外に思うかもしれないが、俺は女子に耐性がない。
正確にはルリのような女の子に耐性がない。更に深く掘り下げるならば、ルリのように積極的な女の子に耐性がない。
思い出されるのは今朝の出来事。いくら俺でも、そんな積極的な女子なんてそうそう知り合いには居ないのだ。
いや、積極的に過ぎる異性は居るには居るが……あいつらは当然計算に入れない。普通の異性と違うのだし、考えたところで仕方ないことだ。
ともかく、徒歩で次の街へ行くという俺の提案をルリが受け入れたことによって、俺達は平原に敷かれた街道を二人で歩いていた。
他に地形は無いのだろうかと思うが、この世界は基本平地だ。平地に森に、たまに湖と言うには小さい、つまり池がポツンとあったり。
街道が敷かれている部分なのでそりゃそうと言うか。山などもあるのだが、それらは基本的には国の外周部の方に壁のようにあるため、現状通る予定は無い。
「……」
「……」
話を戻すが、街の喧騒から離れると、何となく隣のルリを意識してしまうというか。仕方ないこととはいえ、俺の思考もどうにかした方が良さそうだ。
話題を探すも、脳裏に過ぎるのはただただ今朝のこと。
非常に気まずい。思考から追いやれば元通りだが、戻ってくればそれもまた逆戻り。
今隣にいる少女は、朝、抱き合っていた相手なのだ。
鼻が触れるほどの至近距離で、口が触れてしまうかのような近さで、向こうからも俺に腕を回していたのだ。
たかが少女、いや、幼女と侮ることなかれ。ルリはそれにしては大人びた部分もあるし、少なくとも小学生なんてことは無いように思える。多分、きっと。
その事実だけが、俺の意識を後押ししていた。性に無関心、もしくは無知だったのなら、変にこちらも意識すること無かったのに。
ルリは性への知識もしっかりとある。昨晩はそれをしっかりと確認したし、その上で寝たのだから意識しない方が無理だ。
そうこう考えているうちに、視界には森が見え始めてしまっていた。先程の御者さんによれば、次の街に行くまでに森は三つほど経由することになっていて、そのうちちょうど真ん中に位置している森が盗賊が出没したという情報のある場所らしい。
その通りならば今見えている森は特に問題ないはずだが、盗賊が決まった場所に出没する決まりもなく、現状予測としては居ない可能性が高いと言うだけだ。
ちなみに森は、やはり森と言うだけあって広い。ゲームとかだと少し広がっているぐらいなのに、実際に見てみればずっと横に伸びていて、これ抜けるの大変そうだなと思ったり。
ゲームと比べるのは絶対的に間違っているが気にしてはいけない。そもそも比較に出せるほど現実の森を体験したことがないのだから、ゲームを比較に出してしまうのは致し方ないというか。
「魔物は居るんだろうが、道沿いに歩いてれば平気だよな?」
「……わから、ない。馬車は、魔物避けの道具、ついてるから……歩きだと、どうだろ……?」
「あぁ、なるほど……」
森の入口付近まで来て言えば、ルリが首を振る。そんな襲われてたら商人も簡単には行き来できないから、道沿いには魔物が来にくいのだろうと思ったのだが、なるほど、魔物避けの道具なんてものも使っているのか。
そう言えばメイドのサラさんが魔道具を詰めてる時、魔物避けの魔道具の説明もされていた気がする。
「もしかしてこれ使えば良いんじゃないか?」
それを思い出して、ずっと肩にかけていたアイテムバッグから俺はそれを取り出す。見た目は香炉のようなもので、手の平サイズである。こちらは道具ではなく魔道具なので、恐らく本当に香炉という訳ではないだろう。
流石に魔法で匂いを発生させるのは難しいと思うので、その場合は道具扱いだ。魔道具はあくまで魔法の力を用いた道具なので……いやそれともかく。
ルリに見せてみれば、『あぁ』というような顔を見せる。
「……それ、歩きながら、だと、使えないと、思う……」
「そうなのか?」
「……魔物の、魔力を再現、して、それ出して、縄張りみたいな、感じにするから……でも、範囲狭い、し、ゆっくり広がる、から、同じ場所に、置いとかないと、あまり、効果ない……はず」
「あぁ、魔物避けってそういう」
魔法で魔物をどうやって遠ざけるのかと疑問だったが、魔力と来たか。魔物って魔力で縄張りとか決めてるんだと思いつつ、それだと歩きながらの場合、常に場所が移動するからあまり魔力が残らなくて効果が薄いとかだろうか。
多分野営用のものなのだろう。歩きながら使うものじゃない、みたいな。
「……使わないよりは、マシ……?」
「まぁ、減るもんじゃないしな」
果たして魔物の魔力の再現なんて出来るのかなんていうのは疑問だが、実際出来ているから魔物避けになっているのだろうし、俺はそれに魔力を少しだけ流す。
一度魔力を流して起動させれば、後はもう自動だ。物にもよるが、空間にある魔力を勝手に吸収して魔道具は動いてくれる。
何となく手に持ったそれからジワジワと魔物的な魔力が出始めているような気がするが、如何せん本当に『気がする』程度のものなのだ。
恐らく同じ場所に置いておけばそれがだんだん広がって……ということなのだろうが、まぁ、取り敢えず使っておこう。
「でもその場合人間の魔力じゃダメなのか?」
「……人の、だと、むしろ、寄ってくるから……ダメ」
魔物の魔力は縄張り扱いで、人間の魔力は餌なのか。前者は強いほど魔物を遠ざけ、後者は強いほど引き寄せるとかだろうか。
「魔物ホイホイかよ」
「……ホイホイ?」
小首を傾げるルリが可愛い。言葉の意味を理解していなさそうだったので、つい釣られてしまいそうな意味だと説明すれば、再び「……ホイホイ」とボソリと呟いて確認していた。
こちらの世界には無いのだろうか、ホイホイという言葉。
取り敢えず奥へと進む。この森の広さがどれぐらいかは分からないが、ここに来るまでで結構な時間を使っている。広さによっては今日のうちに突破出来ないかもしれない。
走れば別だが、当然そうすれば疲れるし、いざと言う時に疲れて反応が鈍っても困る。いやだがしかし、森で野宿というのも危険なのではないか?
そんな考えがぐるぐると巡って、流石に最適解を簡単には出せない。
ただ幸いなのは、大きくはあるが、そこまで深い森ではないということか。木漏れ日は十分にあるし、薄暗いと感じるほどでもなく、街道から少しずれても足を取られるほどの草があるわけでもないので、その点でいえば少なからず視界を確保出来ている。
幾らか夜の危険度も下がるのではないか。まぁ魔物がいる時点で気休めではあるものの。
そうして入口からどのくらい歩いただろうか。既に夕日に染まり始めている時間帯になるのと同じぐらいに、ルリが足を止めた。
「ルリ、どうした?」
「……魔物が、来るから……」
「魔物?」
と、俺は魔力を広げてみる。気配察知と魔力察知、どちらの方が使いやすいかと言われれば後者をとるが、魔力を隠す存在もいるので使い分ける必要がある。
ともかくその感知範囲に、三つほどの魔力反応が引っかかったのを確認した。
確かにこちらに向かっている……が、よく気づいたなと。
いや、今回は魔力の索敵を怠っていた俺が気を抜きすぎなのか。
「……どうする、の?」
「こっちにそのまま来そうだしな、迎え撃つ感じで」
「……ん」
と、ルリは俺に手を出してきた。脈絡の無い動作に困惑していれば、ルリは俺の腰にある剣へと視線を寄越した。
「……武器」
「あぁ、なるほど、武器をくれってことか……ルリはもしかして武器を使うのか?」
「……? 武器、普通、使うよ……?」
そういう意味ではなく、魔法が主体なのかという意味で聞いたのだが、取り敢えず俺はアイテムバッグの中から、魔道具と一緒に詰められていたはずの騎士団の装備を取り出す。取り敢えずは剣でいいだろうと思ってそれをルリに渡すと、なんというか、アンバランスだった。
剣は一般的なロングソードで、全長が凡そ1.3メートル弱なのだが、ルリが持つとまるで両手剣でも持っているかのような比率になっている。
身長130センチ台だもんな、ルリ。ほとんど剣と同じ大きさだ。こう、違和感がありありなのだが、ルリは持った剣を特に試し振りすることもなく、ただ大きさ的に扱いに困っているようだった。
「……ちょっと、大きい」
「悪い、短剣とかは特に借りてなくてな。そもそもルリは自前の武器は無いのか?」
「……忘れて、きた。普段使わない、から……」
「あー……もうちょい小さい剣あるか探すか?」
「……別に、必要ない」
そう言ってルリは、剣へと手を這わせた。腕の長さ的に全体を這わせることは出来ないが、その動作で、何となく魔法を使うのだろうとは理解出来た。出来た、のだが……。
「……マジか」
思わず声を漏らす。ルリの魔力操作は、ため息が出そうになるほど鮮やかで、滑らかなもので。
俺自身魔力操作に関しては自信があるのだが、かといって今目の前で行われているこれと比べたら、俺の技術など児戯に等しい。
そう躊躇い無く言えるほどに……綺麗な魔力の扱い方だった。
そしてルリは、特に詠唱も魔法名も発することはなく、魔法を発動する。
みるみるうちにその剣が小さくなっていくのを見て、『もしやこれはスモ〇ルライト?』と心の中で叫んでしまったのは仕方の無いことだと思いたい。
やがてそれは、ショートソード程度の大きさまで縮まる。とはいっても、柄や鍔の部分は大きさが変わっていないまま剣としての状態を保っているので、本当にそのまま小さくしただけでもない様子。
なのだが、いとも容易く発動したその魔法は、確実に上級に分類されるものだろう。空間、というよりは物質への直接的な干渉。
「魔法、やっぱ上手いのな」
「……? トウヤも、出来る、でしょ?」
「それはまぁ、確かに今見たからもう使えるとは思うが、魔力操作に関しては足元にも及ばないぞ」
「……こっちに来て、まだ、一ヶ月も、経って、ない、トウヤが、私より、上手かった、ら……ヤバい……」
そう言って、しかしルリは一度首を振った。
「……もう、十分ヤバい……よ?」
「その言い方だと凄い悪そうに聞こえるからやめてくれ」
ルリがどこかジト目で言ってくる。ヤバいという言い方はともかく、俺自身こちらに来てからの日数というのを計算に入れていなかったか。
一応俺も、俺自身の成長が早いのは理解している。だがそれとこれとは別に、やはりルリの技量は純粋に上だ。そして現時点で足元にも及んでいないという評価も正確のはず。
今の感じでは、上級魔法の発動はルリにとって容易いものなのだろう。この分では最上級魔法すら使えるのかもしれない。
ルリの魔法能力が予想以上に高いことを知った俺だが、現実での時間は進行している。ルリはその丁度いいサイズになった剣を構えて、俺も素早い動きで近づいてくる魔力反応に対し剣を向けた。
奥、木の影に魔物の姿を捉える。それはゴブリンではなく、狼型の魔物だった。
見た目と、その灰色の体毛から森に良く生息する魔物である『フォレストウルフ』だと予測を立てて、ならばそこまで強くはないと判断する。
強さ的にはゴブリンよりは上だが、厄介なのは素早いことと群れることで、決して強い魔物と言える存在ではない。
これなら問題ない───そう思って動こうとしたのだが、その時には一陣の風が俺の隣から吹き抜けていた。
「……んん?」
再び、思わず漏れる声。踏み出そうとした一歩が不発に終わって不格好な体勢になるがそれはともかく、驚いて視線を横に向ければルリはいつの間にか居ない。
あー、もしかして今の隣の風はルリが移動した時に生じたものなのだろうかと、停滞した思考は割かし冷静に導き出す。ただ問題として、俺の目にも止まらぬ早さであったことが挙げられるのだが……おかしいな、動体視力は極めていいと思っていたのだが、違ったらしい。
視線を前へと戻す。そこにはいつの間にか首元を斬られ絶命したフォレストウルフ三体と、しれっと立っているルリ。手元の剣には今の一瞬で付着したフォレストウルフの血液が付いていて、あー、ちゃんと三体剣で斬ったのねと。
マジマジと見つめる俺を見て、ルリは不思議そうに小首を傾げる。
「……何?」
「いや、なんだ……ルリって凄く強いんだな、過小評価してた」
俺は若干引いているのを隠そうとしながら、取り敢えずそう伝えておいた。
魔法において差があり、身体能力でも圧倒的で、恐らく剣の扱いも優れている幼女……実はもう何百年と生きている系の存在なんじゃなかろうかと思えてくる。
クリスが何故ルリが来ることを許可したのか、何となくわかったような。
確かにこれなら、並大抵の相手には遅れを取らないわな。
はい、前書きでも書きましたとおり現在は執筆が順調なので、再び明後日に投稿できます。一応現時点で既にもう一話書き終わっていますが、流石に明日も同じように書けるとは限らないので……( ̄▽ ̄;)




