第16話
さてさてさぁて、今回からはルリ回ですよね! 前作ではきっちりとしたヒロインは中々出てこなかったので、第二章にして出せたのは嬉しいです。
───そこはまさに、ファンタジーを体現したような街並みだった。
北寄りの中央、王城を最も高い場所とし、南外周部に行くにつれて下がっていく。両際に建物を控えた道が大きく真っ直ぐと南に伸びていて、故に街の広大さが分かる。
一昨日の訓練時に北側から出たが、それも専用の道を通ってで、ほとんど周囲の光景を見ることは叶わなかったからこそ、おぉと思わず声を漏らしてしまうような。
中世ヨーロッパという表現はよく聞くが、俺にとっては『異世界と言えば』というような街並みに見える。今現在俺達がいる場所は貴族区画とでも言うような場所で、周りには立派な屋敷が建ち並び、怖い門番が目を光らせている。
しかし、総じて心躍るような光景であったのは間違いない。
───と、俺は城から出てすぐにその光景に気を取られていたのだが、残念ながら同伴者はスタスタと、立ち止まることなく歩いていて、遅れて気がついたようにこちらを向く。
「……行か、無いの?」
「いや、ちょっと俺達の世界との街の差に感涙を受けてた。俺達の世界とはまた違うからな……」
「……そう。これが、普通だから、分からない」
確かに、ルリにとってはこの街はきっと慣れ親しんだものなのだろう。俺との受け取りに差があるのは仕方ない。
そして歩き出す前に、俺はルリに聞いておかなければならないことがあった。
「……そう言えばルリ」
「……?」
「いや、どうして付いてきてくれるのかと思ってな。そこの所、特に聞いてなかったから確認したい」
ルリが俺についてきた理由。クリス経由とはいえ、クリスが帰ってくるのに用した時間を考えれば、ほとんど二つ返事だったことが窺える。
気になってしまうのも当然で、何よりルリは当初から俺だけを贔屓しているような部分からあった。
俺が地道に話しかけ続けているから、というのが無いとは言えないが、それだけなら他の勇者とももう少し打ち解けていい気もする。
「……トウヤ、こそ。どうして私、選んだの?」
と、どうやら言うのは少なからず躊躇いか抵抗があるのか、逆に聞き返してきたルリに、俺は取り敢えずで答えてみる。
「他にあてが無かったから……って理由じゃ、ガッカリするか?」
「……別に。全然、気にして、無い」
どうやら気にしたらしい。消去法で、選択肢が無かったから、そんな感じで言われれば素直には喜べないだろうなと、俺もわかっている。
なら女の子が、少なくとも俺に対してある程度の好意を示してくれている少女が喜ぶような言葉とは何か。
「ルリが一番一緒に旅をする上で相性がいいと思ったんだ。知識はもちろん、気遣いもしてくれるし、何より……」
……可愛いとかそういう言葉は流石にまだ吐けないな。引かれることはないと思うが、俺がチャラく見える。
「……容姿が俺達と似てるからな。親近感が湧いたのかもしれない」
代わりに出した答えは、とはいえ本当のことでもある。この世界の人間は基本的に髪色が、例えばクリスの金髪は透明感よりも黄色の色合いが強いし、マリーさんは真っ赤と、鮮やかだ。鮮やかすぎる。
そんな中で、ルリは黒髪黒目という俺達そっくりの特徴を持っている。もちろん地球ではそんなことを意識することは無いが、周りの人間の容姿がどこか現実離れしている中、唯一ルリだけにはどこか現実感ある、親近感に近いものを感じたのだ。
だから少し、贔屓してしまう。
まるで身内のように思えてしまう。
「…………そう」
「ん、今照れたか?」
「………………照れてない」
褒められて照れたらしいルリは、微かに顔を背ける。少しふっくらとした頬には赤みが差しているので、照れは確実だろう。
話を終えるように歩き出してしまったので、俺もその後を追い、再び隣に立つ。
「で、俺にだけ聞いて、ルリの方は理由を教えてくれないのか?」
「……いじわるする、から、教えない」
随分と可愛い反応だ。更に続けてもいいが、これ以上そのことについて聞こうとすると、幼女に執拗に絡む性犯罪者的な構図になってしまう。
幸いにして、言いたくない思いが強いのか、ルリの方から話題を変えてくれた。
「……それより。最初、どこ行くの? 強くなる、ためにって、クリスから聞いた……けど?」
「あぁ……強くなるも何も、さしあたって身分証を作らなきゃいけないからな。冒険者になりたいと思っていたところなんだが」
街の外側の方に目を向ける。残念ながら、冒険者になるために冒険者ギルドという施設を探さなければいけないことまではわかっていても、肝心のその施設の場所が分かっていない。
ここから見える建物も、判別がしにくいものばかりであるし。
「ルリ、場所分かるか?」
「……ん、任せて」
石畳の道をルリが先行していく。やはりここは貴族区画というか、富裕区画なのだろう。見えるのは立派な屋敷、怖い門番に、優雅に日傘をさした夫人などで、流石にジロジロと見られる。
しかし、絡んでこないのは幸いだ。そしてその理由がルリにあるとわかれば、何となく感謝する。
王城の司書。もしかしなくても貴族の可能性が高いだろう。ルリの貴族としての階級は知らないが、気軽に声をかけていい相手ではないのかもしれない。
まぁ、何回もここを通っているならそうなってもおかしくはないか。ともかくルリが居なければ俺は誰かしらに見咎められていたはずで、早速厄介事を一つ回避出来たということだ。
富裕区画の終わりには境目のように塀と門があり、その入口ではやはりここでも門番が目を光らせていた。
それを顔パスでスルーしていくルリ。俺は極力咎められないように、気配を消すことに専念していた。
「……気に、なる?」
「場違いな感じはしてるな」
王城は慣れたが、一歩出ればそれもまたちがう。富裕区画は良くも悪くも統一されているので慣れも早いが、一方でその外は富裕区画よりも情報量が多く、故に───圧倒される。
所狭しと敷き詰められた建物。屋根の高さはバラバラなのに、建物の大きさも同じは無いのに、けれど大通りがあるからか、何故か綺麗に整備されているように見える。
情報量が多く、それでいて綺麗……不思議な感覚だった。
綺麗に分かたれた二つの区画。本当に異世界に来たんだと、もしかしたら今、ようやく実感できているのかもしれない。
城の外の世界はやはり存在した───本当なら皆でこの光景を見たかったが一足先となってしまったな。
本当なら、蒼太とも───頭を振って、人通りが一気に多くなる大通りへと俺達は足を向ける。
「観光はしたいけど、それも身分証をどうにかしてからだな」
「……ん。今の、トウヤ、見た目的にも、法的にも、不審者……」
黒髪黒目の、少しだけ顔立ちが不思議な人間。ルリは恐らく街に繰り出ることもあると思うので大丈夫だが、俺は違う。顔立ちは決してこの世界の人間と似ているとは言えないし、見る限り俺達以外に黒髪は居ない。黒目も多分居ないだろう。
捕まって身分を問い質されればお終いだ。いや、ルリが多少アドリブで何とかしてくれるかもしれないが、それだって他力本願に近く、俺的にはよろしくない。
誰かに見咎められる前に、やはり早く目指さなければ。
そう思ってその大通りへと進もうとすれば、それより先にルリが、俺の手を掴んできた。
柔らかて小さい、フニフニとした手。握り返せばとても温かくて、肌触りが同年代の女子とは全く違う……いや、そんな瞬間的な感想はともかく。
「どうした?」
突然なんだと首を傾げて見せれば、ルリ自身反射的な行動だったのか、最初に戸惑いを見せた後、視線を逸らしながら、どこか言い訳のように答える。
「……ここ、人、多い、から……私、小さいし、見えなくなる、かもしれない……」
つまり、俺が迷子にならないように、ということか。ルリはこの街に俺以上は長くいたはずだし、となれば迷子になるのはどう考えても俺の方である。
何よりルリにギルドまで案内してもらわなければならないので、ルリを見失って困るのは俺だ。身長の低いルリをこの人通りの中で見失えば、再び探すのは至難の業で、合理的な判断だ。
合理的な判断だけど、ルリは恥ずかしくないのだろうか。
「…………それだけ」
他意は無いと、ボソリと呟くルリに、聞くまでもなかったな、とその顔と声色で悟る。
小さな案内人に手を引かれ、俺はその東京を彷彿とさせる人波へと踏み込んだ。
ロリっ子は正義。はっきりわかんだね。
ふっくらとした頬、フニフニと柔らかい手足、ルリはジト目のように少し目を閉じているのがデフォルトで、口はちっちゃく……更に言葉が途切れ途切れな感じが個人的にはポイント高いです。
ルリ布教。前作では回収できませんでしたからね( ̄▽ ̄;)
さて、次回は明後日辺りで。冒険者ギルドというお約束展開ですが、前作では冒険者になっていなかったことに今更ながら気づきまして、少しワクワクしています。




