第4話
お久しぶり、4日も開けてしまいましたぜ。
今回は2話投稿致します。これの後にもう1話投稿致するので〜。
メイドの案内によって、俺はそこにつく。王女の私室なのだろうか。上階ではあるがこちら側は被害がないようで、メイドはその部屋の扉をノックする。
「お嬢様、トウヤ様をお連れしました」
『ありがとう、サラ。トウヤ様、入ってきてくださいませ』
メイド……恐らくサラという名前なのだろう彼女が呼びかけると、中からは可憐な声が返ってくる。
幼いと言えば幼い、しかし思慮深さを感じさせるような声音だ。メイド、いや、心の中でぐらいは個人の把握も兼ねて、こちらもサラさんと呼ばせて頂こう。本名でなく愛称の可能性も十分にあるが、心の中で呼ぶ分には問題ないはずだ。
サラさんは一歩引くと、俺に促す。呼ばれているのは俺だから、ということだろうか。頭を下げてから扉に手をかける。
「お嬢様のこと、よろしくお願いします」
はて、話を聞くだけでお願いされることなどあるだろうか。意味深な発言を背中に受け、俺は部屋の中へと踏み入れる。
王族の部屋に入る時、何か作法はあるのだろうか。だが俺はその時には既に部屋に足を踏み入れていて、一瞬だけ硬直してしまっていた。
入ってすぐ近くに、金髪を揺らして、大きな碧眼で俺の事を見上げる王女が居たのだ。
どのぐらい近いかと言えば、あと一歩踏み出せば完全にぶつかってしまう距離だ。
背後で俺が閉めていないにも関わらず扉が閉まる。いや、そこはどうでもいいか。
「……王女殿下、些か近すぎるかと───」
「約束」
「はい?」
「言葉遣い、次に話す時には砕けたものにするという約束です。忘れてしまったのですか?」
どこか咎めるように俺に言う王女は、僅かにぷいっと顔を背ける。
そういえば以前、王女と少しだけ話した時に、言葉遣いをどうにかしてくれとお願いされた気がする。そして確か俺は、次からと言ったのだ。
もちろん、気がするなんて言っているが、俺が忘れることは無い。[完全記憶]という裏付けがなくとも、誰かと話した会話は忘れはしない。
ただ、それを瞬間的に思い出せるかどうかは別だ。ある程度の物事は思い出せるが、今の状況では少し思考が狭くなっている様子。俺は王女に頭を下げる。
「申し訳ありません、そのような約束をしていましたね……今から?」
「もちろんです。そうじゃないと、呼んだ理由をお話しませんからね」
どうやらあの時と比べて、随分と子供っぽくなったように見える。恐らくは俺が王女に話しやすい印象を覚えたように、王女もまた俺に対し遠慮はいらないと理解したのかもしれない。
元からあまり遠慮はなかった気がするが、それは王族という仮面をつけた上でのもの。今は更に素の王女、というような気がする。
とはいえ……どうしたものか。普通にしていいのだろうか? 確か本人はそんな感じで望んでいたので、俺は少しやりにくさを感じながらも、んんっと声の調子を整えるようにしつつ。
「───これでいいか?」
「も、もちろんです……けれど、今回は素直なのですね」
「王女殿下をいじめてると後々自分の首を絞めそうだから、という理由だよ」
「……そういう言い方は、やっぱり意地悪です」
普段の口調に少しだけやわらかさを加えつつ言えば、王女はやはりまた頬を僅か膨らませるようにした。
何故だか今は、そんなことで心が和んでしまう。昨日今日は決して穏やかな精神ではなかったので、その対比なのだろう。
「そ、それより、その『王女殿下』という呼び方も改めて頂けませんか? なんだか不自然ですから」
「うん? じゃあ……なんて呼んだらいいんだ?」
「そうですね……では『クリス』と、普通にお呼びください。お嬢様も王女殿下も、もちろんクリス様なんてのも、他人行儀ですから。勇者と王女なら、このぐらいの距離感でも自然です」
王女の名前呼びを許可されてしまった。いや、許可されたので、王女ではなくクリスと呼ぶべきなのだろうか。
しかし、いくら何でもそれはどうなのだろうか……。
「ふふ、これには流石に迷いますか?」
そんな俺の思考を見抜いたように微かに微笑む王女に、今度は俺が少しむっとなってしまう。
だが、かと言ってそれで即決してしまうのも乗せられているような気がする……いや、そもそも話を進めるためには必要なことか。
「わかった、クリスって呼べばいいんだな」
「はい。ありがとうございます、トウヤ様」
王女を呼び捨てにして礼を言われるのはおかしな気がするが、そこに一々反応しても仕方がない。
嬉しそうに頷いた王女……クリスは、満足したのか部屋の奥へと足を進める。私室は誰かを招くようになっていないから当然なのだろうが、俺が座るような場所はない。
俺としては立っていても構わないが、残念ながらクリスの方は、俺を気づかれない程度、ほんの少しだけ横目で見ると。
「トウヤ様を立たせるわけにもいきませんから、こちらにどうぞ」
そう言って、なんと自らのベッドを勧めてくる。
クリス自身はその間に自身の椅子に腰をかけている。白々しい顔で固まる俺に「どうしました?」なんて聞いてくるあたり、タチが悪い。
「……女の子のベッドに男を座らせるのはどうかと思うな」
「それを言うなら、王女の部屋に異性を招くこと自体が異例なのです。お気になさらず」
お気になさります。と言い返せたら楽なのだが、クリスは笑顔で俺に促すのみ。
もう、早く本題に入りたい……俺が諦め顔でそこに座れば、当然クリスは笑みを深めるが、気づいてやるものか。
「それで、王女殿下が直々に俺を呼ぶなんて、一体何の話なんだ?」
「そうでした、お話をするんでしたね。ではトウヤ様、失礼しまして……」
俺がようやく切り出すと、対面でわざわざ座ったというのに再びクリスが立ち上がる。そうしてそのまま俺の前まで来ると───。
「───この度は私と父を、そして城に勤める者達を魔族から救ってくださり、心より感謝致します。ありがとうございます、トウヤ様」
真摯な思いを向けて、俺に頭を下げた。言葉通り心の底からの本心であると見るからにわかるように、クリスは俺に感謝の言葉を告げた。
言われているのは、もちろんこの前の、昨日の件だ。
先程までの子供っぽく無邪気な雰囲気は形を潜め、そこにいるのは気品ある、一人の王女。
貴族社会に詳しくない俺でも、王族が一人の人間に頭を下げることは異例であるとわかる。勇者ということを考慮しても、そう簡単に頭を下げることはないように思える。
───逆に言えば、向こうはそれだけ、先の件を重く捉えていて、クリスは個人的にも俺に感謝しているということ。
「……頭を上げてくれ。勇者相手とはいえ、王族が簡単に頭を下げるのは……」
「簡単に、ではありません。私は命の恩人であり、勇者でもあるトウヤ様に、王女として感謝を伝えるべきだと判断してこうしているのです」
「……だとしても、そこまでする必要は無いから。俺としてはある意味、当然のことをしたまでだと思うし、普通に『ありがとう』と言ってくれれば満足だ」
立場を借りるなら、俺は勇者だ。勇者とは、誰かを助けるのは当然であるだろう。ただ戦うだけではなく、人を助けて勇者となりうる。
とはいえ、本当のことを言ってしまえば、俺は別にクリスを助けた訳ではなかった。俺が心配だったのはクラスメイト達で、俺の認識からすれば、そこに居た人たちを助けたのは単なる偶然に過ぎない。
俺の中ではまだ、クラスメイトが最優先すべき存在で、それ以外は立場に関わらず次点になってしまっている。
けれど、結果として助けたのは事実だ。俺も別に、このことを言ってわざわざ印象を下げるつもりしない。
だからそれらを含めてみれば、ただ一言ありがとうと言ってくれれば、もうそれだけで十分で、何も望むことは無い。クリスのように丁寧な言葉を並べなくても、王女が頭を下げなくともいいのだ。
「……お優しいのですね」
「そうあるように心がけてはいるつもりだよ」
人に好かれるには、やはり優しく穏やかで、頼れる人間となる必要がある。優しくなろうという努力は、人に好かれたいなら当然とも言えるだろう。
「ふふ、そうですか。ですが、何か望むものはないのですか? 私個人では出来ることはたかが知れていますが、今回はお父様も───国王も貴方は助けていますから、魔族を倒したことも考慮すれば、大抵の望みは叶うと思いますよ。お礼はもちろん、褒賞という面も含めていますから」
「……そういうのを求めて助けたつもりがないから、なんとも」
先程も言ったように、言わばついでだ。だから、言われても特に思いつかない。
「普通は王族を助けるなんて、少しぐらいその事が過ぎってもいいはずなんですけどね……トウヤ様は無欲という訳では無いでしょう?」
「それはそうだけど、かと言ってすぐ何かが思い浮かぶ訳でもない。だから今欲しいのは……」
今欲しいのは、誰にも負けない強さとか、死者の蘇生方法とか、そういうものだ。
当然そんなものが貰えるとは思っていないから、結局のところそれ以外から考えると、ほもんど望みは無いということになる。
「……そうだな、無い」
「……何でもいいのですよ? もしトウヤ様が金銭を望めば、恐らく豪華な屋敷が一つ二つ程度軽く変えてしまうような金額が出るでしょうし、女を望めば飛び切りの美女を侍らせることも出来るでしょう。そういった望みすらも、いいのですか?」
「遠慮しとくよ。それにそんなことしたら、アイツらから冷たい目で見られる」
「それは……そうかもしれませんね」
少なくとも地球では、何かを対価に金や女を要求するなんてそうそうない。こちらの世界ではありふれたものなのかもしれないが、地球の感覚を持つクラスメイトからは、お金はともかく、女性を求めたなんてことになれば一気に失望されるだろう。
それに、よく知りもしない相手を近くに置くなんて、正直無理だ。容姿の美醜は関係ない。それなら一人の方がよっぽどマシだ。
人の感情が機敏にわかるなら、尚更。
「お礼に関しては、当分はクリス王女殿下の部屋に招かれたというので十分だ。とても光栄な話だからな……もし何か欲しいものが出来たら、その時改めて、貰ってもいいか?」
「……分かりました。無欲な方と言うのも中々大変ですね」
お礼を断るのは相手の好意を無下にしてしまう。それに、逆の立場なら、つまり俺が何かをしてあげられる立場であったなら、同じようにするだろうし、それを断られるとある意味困ってしまうだろう。
結局妥協してそう言えば、クリスはどこか苦笑い気味に頷いた。
まだ王女の話が続きます。長くなっちゃいますからね、なんで2話投稿ということです。一気に読んだ方がスムーズに済みますでしょう?




