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見出された運命の先に  作者: イミティ
第3章 幕間
124/152

とある盗賊

 さっきまでとあるぶいちゅーばーの配信を見ておりました。興奮で投稿が危なかったですはい。

 このお話の前にバレンタインの話挟んでおきますんで。


 5/28 話の入れ替えの仕方がわからなくてバレンタインのお話の位置は前のままです申し訳ない……。



 その盗賊───ルイドは馬に跨り森の中を駆けていた。

 それもかなりの速度であり、ルイドは障害物となる木を馬を繰り避ける。

 

 「あぁくそ、ついてねぇな……あぁついてねぇ」


 馬上で吐き捨てるように呟く。何がついていないかと言われればつい全てと答えたくなってしまうが、その中でも特にあの冒険者は許せない。

 冒険者……あと少しで商人を始末出来るタイミングであったのに、割り込んできたあの黒髪黒目の冒険者だ。


 正直に言って、あれは完全に運が悪かった。たまたま冒険者が通りかかるにしてもタイミングがあるし、あの強さは並ではない。

 ルイドよりも明らかに若い、少年とも言えるような容姿なのに、いくつも修羅場を超えてきたかのような雰囲気を出していた。故に一目で理解出来たとも。


 逃げに意識を置いていた自分は悪く無いはず。あそこでまともにやり合ったところで勝ち目などもないし、事実詠唱破棄して放った魔法もほぼ完全に対応されていた。

 その上で逃げる方向はルイドの仲間が居た方向とは真逆。合流しようとも考えたが、あの強さでは馬に追いつく速度があっても不思議ではないと判断し直線で逃げ続けている。


 それからどれほど走り続けただろうか。森の木々を避けるのも難しくなってきた頃、ルイドはようやく一度馬を止めた。


 「追ってきてはなさそうか……?」


 特に気配はなく、どうやら撒いたか、追っては来ていなかったらしい。取り敢えず命拾いしたことに安堵して、馬の向きを変える。

 

 ただここからも憂鬱だ。なんせルイドは冒険者に邪魔されたとはいえ死に体の商人を逃している。ここに自分たちが居ることは既にバレているはずなので、そういう意味では問題ないが、商人からギルドに本格的に依頼が出されると困る。

 となると当然ルイドは下手を打ったことになり、制裁の対象となりうるだろう。

 嘘をついて誤魔化せれば楽だが、商人の持っていた馬を持って帰っていないとなるとそれもまた怪しさが出てしまう。嘘をつく方がリスクは高い。


 そういう意味で、憂鬱なのだ。ルイドは馬を繰り、先程までよりも遅いスピードで拠点の方向を目指す。


 やがてかなりの時間が経った頃、ようやく拠点の場所までついたルイドだったがふと違和感を覚えて近くで馬を止める。

 

 普段ならば周囲を警戒する見張りが居ないのだ。この場所は森の奥まった場所にあるとはいえ、拠点を完全に隠蔽することは出来ないためすぐに対処出来る見張りが常に交代でいるはずなのだが……。

 

 妙な胸騒ぎに襲われる。


 自身の勘が引き返せと訴えていた。拠点内を確認することも考えたが、それでもなおいつにも増して大きすぎる警報が響く。

 まるで今現在、自分の身に危険が迫っているかのようなこの感覚……ルイドが引き返す選択肢を選ぶのには五秒と必要なかった。


 にも、関わらず。


 「やぁ、そこの盗賊さん」


 ルイドが馬に戻ろうとした次の瞬間には、何故か背後から突然声をかけられていた。

 耳に届いたのは、穏やかな男の声。だがしかし声の特徴などで警戒が緩むことなどなかった。むしろ盗賊とバレていながら声をかけられたのだ。


 ルイドは腰にさした剣に手をかけられるようにしつつ、ゆっくりと振り返る。


 そこには見た目上は特徴のない普通の男がいた。長身だがそれぐらいで、顔が飛び抜けて良いわけでも、太っていたり痩せていたりする訳でもないし、なにか防具や武器を装着しているわけでもない。

 それこそ街で見かけるような一般人だ。


 ルイドは低い声で、言葉を出す。


 「……俺に、何か用か」

 「そう怯える必要はありませんよ。私はただ、少し聞きたいことがあって声をかけただけですから」


 そう語る男は、やはり予想通り普通ではない。腕に覚えがあるのか、ルイドのことなど警戒していないのだ。

 拠点はすぐそこ。見張りがいなかったこととこの男はもしかしたら関係があるのかもしれないと考えれば、ますます警戒を強める。


 兎にも角にも異質だ。こんな所に居るにはおかしな姿だし、相手が盗賊と知りながら何かを聞くのも普通ならばありえない。

 

 「聞きたいことだと?」

 「えぇ、この辺りで()()()()の人間を見ませんでしたか?」


 一体何を聞かれるのかと思えば、ルイドは先の自身を妨害した冒険者との特徴の一致に少し驚く。顔には出さず、目の前の男の意図を読み取ろうとするも、男は不気味な笑みをたたえてこちらを見るだけ。


 「……どうだったかな、見たような気もするし、見てないような気もする」

 「ほう……覚えてないと?」

 「その前にアンタの先にある拠点を確認したい。そうしたら思い出して答えられるかもしれない」

 「それはそれは。ですが無駄なことですよ。確認するものも何も残っていませんから」

 「なんだと……?」


 男の笑みが深くなる。見張りが居ないことといい、どうにも不気味な奴だと思っていたが言い方は明らかに不穏だ。

 まるで拠点の中には誰もいないかのような……ルイドが動いても男は妨害してくる様子がないため、そのまま拠点の中を覗く。


 「っ……!?」


 そして、すぐ入口に見張りの死体が無造作に置かれていたのを見て、ようやく察した。

 この男が特に隠蔽する様子もなく見張りを殺しながら、誰も出てきていないのは不自然だ。となるとやはり中は……。


 「把握は出来ましたか?」


 ルイドの様子を、何の気配もなく背後まで近づいてきていた男が窺う。振り返らずともその口元には笑みが浮かんでいるのが容易に想像出来てしまい、ルイドは改めて自身が危険な状況に陥ってしまっていることを悟る。


 「……全員か?」

 「えぇ。実は一人一人に聞いて回っていたのですが、生憎誰も心当たりがないようで……残念な結果になってしまったものです」


 要するに知らなければ殺す、ということをしていたら全員殺していたということか。かわいた笑みが漏れそうになってしまい、それを押しとどめる。


 「まぁそれはいいです。それより先の件ですが、なにか思い出せましたか?」


 ここで知らないと言うことも出来るが、そうすればルイドはここの仲間入り。いや、答えたところで助かるかどうかも分からない。なんせその程度の理由でこの拠点にいた盗賊を全員殺すような存在である。

 知っていたところでそれはそれ、ということも十分以上に有り得るだろう。


 ……。


 「……答えてやってもいい。だがそのためには条件をつけさせてくれ」

 「条件?」


 そこを考えた結果、ルイドは交渉を試みることにした。無論無駄に終わる可能性もある。だがやれることはやっておかなければ、生存率をあげることも出来ないだろう。


 「答えて、アンタの望む回答だったなら俺を見逃してくれ。まだそこの死体みたくはなりたくないんでね」

 「なるほど、見逃すことを条件に、ですか。構いませんよ」


 ルイドの言葉に、あっさりと頷いてみせる男へやはり警戒心が募る。

 守られるのかどうか、相手に委ねてしまうというのは辛いがそれが弱さの代償だ。ルイドはそれをよく知っている。


 盗賊でなくとも、強さというのはそれだけで決定権を持つ。常に強い者が決定権を持ち、それを覆すためには場外からの反則に近い戦術が必要になる。そしてそんなものはこの場にない。

 だから、ある意味でルイドは達観していた。


 「そうか……俺はさっき、この森を通った商人を襲ったんだが───」


 これ以上は全てリスクのある賭けで、しかも限りなく可能性が低いもの。故にルイドはこれ以上は何も出来ないと諦め、躊躇うことなく先の出来事を伝えた。

 黒髪黒目の冒険者が来たこと。見た目は若いくせにやたらと強かったこと。もう一人黒髪黒目の少女がいたこと。そして冒険者が来た方向と、そこから逆算した、恐らく向かうであろう方向。

 

 ルイドの持つ、黒髪黒目の人間に関しての情報を詳細に渡す。媚び売りでもなんでもいい。少しでも生存率が上がるならそれで結構。

 

 男は黙っていたが、少なくとも期待外れという顔はしていない。むしろルイドの持つ情報に予想以上に満足気だった。


 「ほう、となると彼らの目的は……あぁ、向こうにはヴァルンバがありましたね。もしもそれなら……」

 「おい、俺は言うことは言ったぞ」

 「ああはい。申し訳ありませんね、つい考え込んでしまいました」


 ブツブツと独り言を呟いていた男は、ルイドの声ではっとした様子もなく顔を上げて謝る。


 「それより見逃すという条件でしたね。情報は貰ったので、どうぞ」


 すると、意外とすんなりと男はルイドから視線を逸らして逃げ道を作った。特別意識している様子もなく。

 最悪の状況のみを想定していただけに、これには肩透かしを食らう。だが相手の気が変わっても面倒だ。ルイドが足早にその場をかけようとして……。


 「───と、言いたいところなのですが」


 どうだろうか。やはり最悪の状況というのは変わらないらしい。


 ルイドは地面に倒れ込むようにしていた。その頭上を男の腕が薙いでいく。

 たかが腕だが、当たっていたらどうなっていたことか。


 「……おや? よく避けましたね。一応完全な不意打ちだと思ったんですが」

 「くそっ、やっぱり守る気なしかよ!!」


 ルイドが背を向けて一目散に逃げ出す。可能性としては常に考えていた。約束を飲んだと見せかけて反故にする可能性。どのタイミングでするのか分からなかったが、やはり警戒していて正解だった。

 生き残ることに関しては、自身は優れていると思っている。それは残念ながら長期的に見てのものではなく局所的なものではあるが、先の攻撃も普通なら対処出来ないような速度だった。


 それを言うなら、黒髪黒目の冒険者にも下手をすれば殺されていただろう。致命傷やダメージに関しては人一倍勘がきくとでも言えばいいのか。

 馬まで駆ける中で、今度は一気に正面へ飛び込む。やはり男の攻撃が来ていた。何か光の槍のようなものが上空から降り注ぎ、ルイドが先まで居た場所を突き刺していく。


 「あまり強くは無いと思っていましたが、避けるのは一級品ですね」

 「うるせぇ! 一人ぐらい見逃せってんだ!!」


 馬まで辿り着いたルイドは過去最速で馬上に移動し馬を駆けさせた。それも最初から全速力だ。

 森の木々を自分でも驚く反応速度で馬を繰り避けていく。本当に盗賊を一人で壊滅させるような存在だったら戦おうとするだけ無駄だ。出来ることは延命のみだろう。

 いやこれすらも怪しい。パラメータが高い奴の中には余裕で馬に追いつく化け物みたいなやつも存在しているし、先の男がそうじゃないとも限らない。


 「ついてねぇついてねぇついてねぇ!! ふざけんなよ理不尽すぎんだろっ!!」


 悪態をつきながら森を駆け抜ける。なるほど、黒髪黒目の冒険者とやらはまだ良かった。あちらは強かったが、必要以上には追ってこないしひりつくような殺意もなかった。

 が、一転してあの男はどうだろうか。まるでありふれた行動の一つであるかのように殺し、しかもそのことに関してなんの感情も抱いていない───盗賊であるルイドが言うのもなんだが、ヤバいやつなのは明白だ。


 ルイド達はまだ、ある程度の目的がある。見られたから、抵抗されたから、邪魔だから。一般的には悪であろうとも、それらはまだ恐らく『理解出来る悪』なのだ。

 が、ルイドですらあの男の行動は理解出来なかった。一人一人殺して回るなど、例えそれだけの力があったとしてもルイドはやらない。それなら拠点ごと纏めて吹き飛ばしている方がまだ理解出来る。

 

 クズな集まりの盗賊。そのうちの一人ではあるが、あの男は明らかにおかしかった。その戦力も、そして少ししか見ていない価値観も。


 「っ!? 『炎槍(フレイム・ランス)』!!」


 脳を穿たれたような感覚が瞬間的に走り、反射的に背後へ炎槍を飛ばす。そうすれば丁度先の男が現れ、攻撃をする瞬間であった。

 あっさりとそれも回避されてしまうが、攻撃も中断させられる。


 「おっと……いや、驚きました。たかが盗賊と侮っていましたね。もしかして貴方がリーダーでしたか?」


 そんな訳ねーだろ、と内心で呟く。リーダーはもっと筋肉ダルマで脳みそまで筋肉でイっちまってるような筋肉バカだ。細身のルイドとは似ても似つかないし、リーダーと戦ったら逆立ちしてもかなわない。

 いや、もっとヤバいやつが今現在背後にいるので、それと比べたらリーダーは可愛いものだが。そう思うと今すぐにでも出てきて欲しい。うさばらしに部下を殺すようなまさに盗賊(クズ)のリーダーとして相応しい奴だが、こうしている今もずっと笑っているこの男よりは全然マシだ。


 あぁ、何故こんなことになったのか。いやこれは必然だ。むしろルイドは運が良かったのだ。なんせ一人だけ他より長く生き延びることが出来ている。

 あの黒髪黒目の冒険者にはむしろ感謝しても良い。お陰で延命している。そして出来れば今この場に現れてこいつと戦って欲しかった。


 「ぐぶっ!?」


 いきなり後頭部を掴まれ、ルイドは落馬した。そのまま顔面から地面へと叩きつけられる。起き上がろうにも掴まれたままのため全くもって動かない。


 「ふぅ、全力ではないとはいえ、中々よく逃げたと思いますよ盗賊さん」

 「くそ、がぁっ!? てめ、絶対殺すっ!!」

 「良いですね、他の盗賊よりも断然活きがいい。それに致命傷に対する危機感知能力もずば抜けていますね」


 男の握力で頭が歪みそうになる感覚を覚えながら抵抗するルイドへ、ただ変わらない声音でしゃべり続ける。


 「どうです? 少し私の元で働いてみませんか?」

 「んだ、と……どういう、ことだ!」

 「貴方は他の盗賊より能力が優れている。特にその危機感知能力は鍛えたら使い物にもなりそうだ……情けないことに、私は手持ちの駒が少ないものでして、不足を補うためのちょっとした勧誘ですよ」

 

 まるで何か大きな企みでもあるかのように含みある発言は、そのまま男がただの悪人ではないことを裏付けるようなものでもあった。

 ルイドの頭を掴んだまま持ち上げる男は、不気味なほほ笑みを絶やさない。


 「そうすれば貴方を生かしておくことも出来ます。もっとも、別に構わないと言うのであれば……」


 次の瞬間、ルイドはありえないほどの圧迫感を頭に覚える。歪みそうどころではなく、既に男の指が頭蓋骨にめり込んでいるようなそんな感覚。

 抵抗の余地すらなく、当然悪態をつくこともできない。まともな思考も出来ず、ただルイドは垂らされた糸をつかみとる。


 「っぁ……ゎ、わかった……アンタに、協力する……!」

 「それはそれは、良い判断です」


 強制された選択肢を選びとって生き残る可能性へ縋れば、たちまちルイドを掴んでいた手は力を弱め解放される。

 頭部が変形してしまったような錯覚が残る中、男はルイドからは既に視線を逸らしていた。


 「さて、では貴方には早速仕事をしてもらいたいのですが……その前に」


 視線は逸らしていたが、ルイドが次に感じたのは側頭部への一瞬の痛みと、急速に引いていく意識だった。


 「貴方には少し()()をさせてもらいます。なに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ルイドはその言葉の意味を理解することなく、視界を閉じた。

 次回は明明後日辺り! 頑張りまする!

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