第53話
四日ぶりですどもです。眠いので以上!
こちらで書いてしまいますが、次回は3/4とかになってしまうかもしれません。
拓磨と竜太、左右から同時に攻めてくる二人。
それに対してこちらは同時に攻められないように、自ら竜太へと接近する。
もちろんそれだけでは拓磨が攻撃に加わるまでの時間は一瞬だ。
しかし、その一瞬が大事でもある。
「っ、ぁ、クソッ!!」
剣を腕に沿わせるように逆手に持ち、竜太が打撃を繰り出そうとする度にその拳や脚を初動前に攻撃する。
両手で拳を使えるならば、例え竜太が相手であれ遅れをとることはない。こちらもそれなりに戦闘経験は積んできているし、地球の頃では当然喧嘩といえば素手が基本となっていた。
我流と呼べるほど積み上げたものでは無いが、それでも基礎はできている。 竜太の攻撃を全て封じてから強烈な右フックをその鼻っ柱に叩き込んだ。
打撃で対応している分どうしても竜太だけ怪我を負いやすくなってしまうが……渾身の一撃をお見舞しておいて考えることじゃないな。
それに重い一撃ではあるものの、気絶までは持ち込んでいない。流石に可哀想だと思ったのもあるが、それ以上に簡単に終わらせてしまっては面白くないという俺個人の思いもある。
「ハァッ!!」
横合いから迫り来る拓磨に上手く剣を打ち合わせて、思考を切り替える。
何度も言うようだが、拓磨という存在はバランスという点において完成している。どの能力も高水準という言葉すら生温く、一対一で戦った場合に最も強いのは間違いなく拓磨だろう。
もちろん今となっては慎二のようにイレギュラーな存在や、雄平のように地球の頃とは見違えるほどに成長した者も居る。だがそれでもなお、拓磨はその上を行く。
剣が振り下ろされる。横へ叩いて打ち払い。
今度は払われた勢いのまま回し蹴り。こちらは上体を下げて回避すると、再び剣が戻ってくる。
拓磨が攻撃する度に俺はそれを弾き、躱し、防御する。だが拓磨は闘志を衰えさせることなく何度も何度も攻撃を重ねる。
俺としては、技術的な手加減をしているつもりは無い。身体能力や戦略の幅という意味ではまだまだ出していない部分も多いが、少なくとも拓磨がこうして俺と斬り結ぶことが出来ているのは俺が合わせていると言うよりも拓磨が食らいついて来ているのだ。
幾ら他の人間の援護があるからとはいえ、本当に凄い───しかしそれでも、それは拮抗という意味にはなり得ない。
立ち直した竜太が背後に回って参戦してきても、樹や雄平が魔法で援護してもそれは変わらない。
とはいえ、いつまでも安全圏から援護されるのは少し困る。
「ッ!?」
瞬間的に速度を上げて剣を突き出せば、拓磨は咄嗟に顔を逸らして頬の皮一枚の被弾に済ませるも、その後俺の剣を退かすために振り上げようとした剣を左手でそっと押さえる。
正確には刀身を指で掴むようにして押さえていた。
拓磨の腕の動きを、指の力だけで阻止する。全く動かない剣に、微かに驚愕の気配が漏れる。
そのまま俺は突き出した剣を指先だけでくるりと回して逆手に持ち、背後から近づいてくる竜太へとノールックで突き出して、攻撃ではなく回避の選択肢を取らせた。
左手を離し、改めて剣を拓磨へと向ける。
当然警戒し、先の速度でも対応できるように拓磨は集中している。
剣を振るうのに合わせて、俺は『空間跳躍』で移動した。
「なっ!?」
「雄平!!」
攻撃の意思を見せたのはフェイクで、本命は後衛を狙うこと。拓磨は察して顔を向けてくるが、あの場から間に合わせるのは無理だろう。
が、雄平のすぐ真後ろに転移した俺は剣を振るう体勢に入っていたにもかかわらず、攻撃する訳でもなく大きく飛び退く。
地面から棘のようなものが複数飛び出し、俺の事を串刺しにしようとしてきていた。
「あれを読むか? 普通」
飛び退いた空中で思わず零す。魔力の感覚からして樹の魔法。属性を風から土に変えたのは悟られにくい足元から攻撃するためだろうが、そんなことよりも問題は瞬時に対応されたことにある。
これが単に素早く反応して対処した、というのならその反応速度に驚くだけだ。しかし今回の場合、これは後手ではなく先手。俺が魔法で転移を行う前から俺が雄平の後ろに移動すると判断していなければ不可能な魔法。
だからこそ俺も魔法の存在に気づけなかった。魔力が出れば分かる一方で、樹は魔力を殺して魔法を潜伏させていた。咄嗟の発動でないのなら、魔力を極限まで隠蔽することも時間をかければ可能だ。
そして念の為にと仕掛けたものでないのは、魔法の発動方法が手動であったことからも判断できる。どのタイミングかは知らないが、俺が後衛を狙うと、そして雄平の背後をとると確信していたのだろう。
未来予知じみたその能力には、俺も本気で脅威を覚える。
「───だけど」
残念だが、樹の対処も虚しく狙われた当人である雄平は判断を遅らせてしまった。地面へと着地し改めて接近し直しても、雄平は俺の方を向き終え、ギリギリ逃げる動作に入るかどうかといったところ。
先のように伏せられている魔法は、無い。
「やさ───」
雄平は性格や能力的にも完全な後衛。最低限の剣術は習っているはずだが、こちらの動きを前についてこれるはずもない。
一気に距離を詰め、左手を握りしめる。剣で攻撃するのは常に選択肢として入れているが、幾ら拓磨達が覚悟を決めているからといってそう簡単に怪我させる訳にもいかないし、俺の方が覚悟が決まらない。だが斬撃以外の、打撃系統の攻撃は今となっては許容範囲内だ。
慌てて下がろうと仰け反った雄平の鳩尾に、拳を放ちねじ込む。
「カハッ……!?」
「っと、喧嘩慣れしてない奴には少し辛かったか?」
声をかけるも、かなり強めに叩き込んだためか雄平は一瞬にして気絶するように倒れ込む。当然返事もなく、俺は雄平を支えてその場に横にした。
「さて、まずは一人だが……」
雄平から手を離し、即座にバックステップ。『空間跳躍』により虚空から現れた拓磨はそのまま地面へと剣を振り下ろした。
雄平に当たってもいいのか、という疑問は愚問となる。当たらないからこそやっているのだと俺とて理解しているとも。
三度目の打ち合い。俺が敢えて段階的に速度を上げていけば、拓磨は必死に追いつこうとしてくる。だが幾ら拓磨とはいえ、そもそも素の身体能力に差がある上でレベルすらも開きがある相手と拮抗するのは難しい。
拓磨の剣を右足を引いて半身になることで回避し、前に出てきた顔面へ剣の柄頭を強く当てれば「ガッ!?」と仰け反る。
だが倒れはしないし、安易に痛みから顔を手で覆うこともしない。突然の痛みに対しその胆力は流石だ。すぐに追撃を避けるために後方へ回避している。
しかしそれより素早く俺の左手が拓磨の胸倉を掴みあげた。このままあとは叩き落とすだけ───。
その時、横からスッと槍が伸びてくる。
ここに来て初めての樹の近接戦闘。拓磨を掴んだまま対処することも難しくはないが、樹の先読みは俺もどこまで読んでくるか把握出来ないところがある。
実力で言えば拓磨に軍配が上がるのは確かであっても、今この場で最も脅威なのは樹だ。
「今度はお前が俺を相手するか?」
「悪いが、一対一は御免こうむりたいな!!」
俺の挑発に言い返し、槍での攻撃。十分な練度だが、やはり技術的な意味では拓磨には流石に劣るか。
本当ならまた後方援護に戻りたいはず。今回も拓磨を離脱させるわけにはいかないと慌てて間に入っただけで、俺を相手に近接戦をするのは分が悪い。実際樹も、槍で牽制しながら離れる隙を見出そうとしている。
ならばそれを阻止するのも当たり前。相手が逃げに意識を置いているならば、こちらは攻めるまで。
「夜栄ァァ!!」
そこに竜太が背後から殴りかかってきても動じることは無い。叫ぶなよとは言いたいが、竜太がそういうタイプでないのもわかる。
少なくとも声によって俺の反応は僅かながらも早まり、脳裏を対応策が駆け巡る。
二対一、いや拓磨も戻って三対一となるが、俺はむしろようやくレベルの差を見せつけるように、圧倒的な身体能力で三人の攻撃を捌き、攻撃する。
ただ攻防を重ねる度に分かるだろう。俺が何も身体能力にだけ物を言わせた力業をしていないことを。
そこにはきちんと技術が、技が存在し、ただでさえ少ない隙を更に埋めていく。右手の剣に左手や脚を使った格闘。更にはフェイントに加え、対処の順番まで。
攻撃しながら魔法を放つことも可能だが、敢えてそれをしていないことも把握出来ているはず。
俺の強さを見たいと言った拓磨の問いに、出来る範囲で答えているところだ。
「っ、やっぱヤバいな刀哉……」
「三人でも、攻めきれねぇ、とかっ!」
今更のように呟く二人。そろそろいいかと、拓磨と樹の攻撃を弾き返し、常に背後に居た竜太に意識を向けた。
竜太は構え、とにかく当てようと速度を重視したジャブを放つ。だがそれも僅かな動作で軽々と避け、突き出された腕が戻る前に掴んで止める。
「終わりだな、竜太」
「このっ───」
もう片方の手で殴りつけようとした竜太を、掴んだ腕を無理矢理引き寄せるようにして体勢を崩させ、こちらへ倒れ込み晒した背中に肘打ちを入れた。
凄まじい勢いで地面へと打ち付けられた竜太もまた、体の前面を強打し意識を飛ばす。
骨折は、してないだろう多分。
その場で再び反転し左手で樹の槍を横から叩き逸らして、距離を詰めてから剣を振り抜く。
準備していた樹の体は即座に反応して俺の攻撃をギリギリで躱すが、それもかなり辛いだろう。いくら先読みができると言っても、肉体がついてこなければ意味が無い。
槍の間合いの内側にいる事で攻撃を潰し、尚も逃れようとする樹の顎へと掌底を打ち込む。そのまま崩れそうになる樹を軸に回るようにして背後へと組み付き、直後襲おうとしていた拓磨へと蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた樹を拓磨は無情にも避ける。そのまま樹は掌底のダメージによってよろよろと地面に片膝をついてしまうが、実際正しい判断だ。下手に樹を受け止めていれば隙に繋がり、俺が攻撃していた。
それに、受け止めるということは自分と敵の間に味方を入れることでもあるからな。
まぁ、そんなことはいい。
「さて、これで一対一だ」
「相変わらず、化け物のような強さを持っているな刀哉。レベルの違いだけではないのが嫌という程に伝わってくる」
そうは言っても、拓磨は驚いたりはせず当たり前のように目の前の事実を認めている。それもそうか。拓磨はある意味で俺への絶対的信頼を置いている。
俺が圧倒的な強さを持っていてこそ、拓磨はそれを当然と受け入れる。底がしれないことが当たり前なのだと。
とはいえそれは拓磨が俺に対し絶大な信頼を置いてくれているだけで、勝負の結果に何ら影響はない。俺がその言葉でこれ以上手を緩めることも、拓磨がやる気を無くす訳でもない。それは単なる確認に過ぎない言葉だ。
むしろ拓磨は、純粋に俺と競い合うことが出来るこの機会を絶好のものであると判断している。
拓磨が俺と同じように片手を空けたスタイルとなる。両手で今まで構えていたのは俺の筋力に対抗するため。そして拓磨の慎重かつ大胆な性格が出ていたと言っても良いだろう。
それを無くしたということは、俺との拮抗を嫌ってのこと。場の流れを変える必要があると判断したのか。
拓磨は片足を隠すようにして立ち、ジリジリと距離を詰める。対して俺は一歩も動かず、剣先を下げて拓磨に隙を晒す。
しかしあからさまな隙には拓磨も警戒して容易には踏み込んでこない。四人から一人になってしまっても未だ冷静さを失っていないのは流石は拓磨だろう。
試合とはいえ、向こうが本気で挑んでいたのは分かる。実戦と同じ緊張感は持っているはずだ。
「……ッ!!」
拓磨は五メートル程度まで近づくと同時に一気に駆ける。正面から素直に攻めてきたのは、俺を侮ってのことではない。
むしろ正々堂々ではなく、瞬時に俺の周囲に展開された光の槍を見れば意識の裏を突いてきたところだろうか。
数は七本。歩いていたのは魔法を練っていたのもあるのか、無詠唱での同時発動数としてはかなり多い部類となる。
魔法で対処するか、回避するか。考えた結果、俺は射出された光の槍を対である闇属性の『闇槍』で相殺する。
正直中級魔法程度なら、七本だろうが十本だろうが発動に時間は必要ない。これで拓磨に対応できると思ったが、拓磨は『空間跳躍』を使用して視界から消える。当たり前のように上級魔法を無詠唱とは……。
突然翳り、俺は即座に上を見上げた。だがそこにあるのは剣のみ。
まさかと思って気配を探れば、拓磨は上ではなく俺の後ろに現れていた。『空間跳躍』で二つのものを別々の場所に転移させたのだろうが、それにしたってあの一瞬で良く構成が組めたものだ。
拓磨は素手となったことで振り返った俺の首元を掴む。被弾ではないが、まさか掴まれるとは。
そのまま巴投げをしようと俺の下へ体を潜り込ませる拓磨は、実際俺の事を背後へと投げる。
というよりは、俺は抵抗せず投げられることで距離を稼ぐ。慌てずに空中で体勢を立て直して足から着地し、本来ならば多少は体勢を崩し隙を晒すことを期待していたのだろう。即座に来る拓磨の追撃を上手く防ぐ。
既にその手には剣が握られていて、右手で俺と鍔迫り合いをしながら左手を向けてくる。
魔法か掴みかは知らないが、片手で俺と拮抗出来るはずもなく拓磨の剣を外へ弾けば、拓磨の左手は宙を掴んだ。
本来であれば掴む場所もなく体勢を崩すはずなのに、拓磨は不可思議すぎる動きで体をそれ以上外に出さず、グンっと透明な手すりをバネに近づいてくる。
こちらは足を止めた状態。しかも一度弾いたために重心がぶれているのに加えて、剣も外側だ。対して向こうは勢いがあるため、しっかりと重心を落としていないと体ごと押されてしまう。
体勢を崩せば如何に力に差があれど押し込まれてしまうだろう。
前のめりになって右前方へと進む。寸前のところで拓磨と入れ違いになる形だ。
右足で大きく踏み込み、こちらの動きに気がついた拓磨が剣の軌道を変えようとするもしゃがんで避ける。頭上を剣が通り過ぎていき、俺は代わりに拓磨へと足払いをかけて体勢を崩した。
そのまま振り上げた剣。しかし拓磨はギリギリ防御を間に合わせ、剣を合わせた衝撃を利用しその場から離脱する。
追撃を避けるために放たれた『光槍』を剣で打ち払い、着地した拓磨を今度は俺が襲う。
有無を言わさぬ速度の接近に拓磨の顔が硬直した。苦し紛れに振るわれた剣を掻い潜って、躊躇いなく拓磨にボディーブローを見舞った。
ねじり込むように拳が入り込む。幾ら利き手では無い左手とはいえ、雄平や樹には耐えることは愚か、体を鍛えている竜太ですら動けなくなるほどの力。
だが拓磨は耐えた。感触からして内蔵にまで軽くはない損傷を与えたかもしれないが、拓磨は動きを止めない。むしろ拳を深く入れられたことを好機と見たように、俺の腕を左手で掴んで放さない。
腕を握る力から、全力で俺を拘束しているのが分かる。
言葉すらなく、拓磨は刺し違えるように俺の胸へと剣を突き出した。
「……悪いな」
その言葉は拓磨が俺へ向けたものではなく、俺が拓磨へ向けたもの。
試合とはいえ、少し熱が入りすぎたことを謝罪したもの。
一瞬だけ左腕に力を込め、完全に静止した状態から拓磨の腹に爆発的な力を与える。
それは意思の力では耐えられない、物理的な作用。体が後ろへ大きく吹き飛び、俺の腕など掴んでいられるはずもない。
拓磨の体が十数メートルも吹き飛び、地面を転がる。流石の拓磨も圧倒的な暴力に晒されて、気絶してしまったようだ。




