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行き当たりばったりでどこまでいけるのでしょうか。
馬車は揺れています。
王都を抜けると、田園地と放牧地が広がっています。
あまり郊外に出たことがないので、はじめのころは景色をみているだけでも楽しいものでした。
けれども景色を眺めているのもそろそろ飽きてきました。
・・・勇者様は口数が少ないのでしょうか。勇者様から話しかけてくることはありません。
「勇者様、よろしいでしょうか」
「あぁ、どうした」
「少しお話をしたいのですが」
会話が固いのはそれほど勇者様との交流がないからです。
御者台に移動し、勇者様の隣に座ります。
「ずっと操車をされて大変ではありませんか。」
「慣れてるから問題ない。キミこそ大丈夫か?座ってるだけでも疲れるだろ。なんかあったら言ってくれ。」
「ありがとうございます、問題ありません。」
よかった。会話が出来そうです。
「勇者様のお住まいはここからかなり遠くと聞いています。どのようなところですか。」
「何もない村だよ。村人みんながのんびり暮らしている閑かな村だ。街が遠くて行商があまりこないから、村で作物を作り道具を作ったりしている。・・・ま、一般的な村と変わらないよ。」
「のんびり暮らせるのが一番だと思います。」
「そうだな」
私たちは勇者様の住まう村に向けて馬車を走らせています。
国外にあるとのことで、馬車だと時間がかかるそうです。
救国の報酬である私は当面はその村で暮らすようです。
のんびり暮らせるというのは幸せです。
もうツラそうな民の顔はもう見たくない。
そのような村なら私はそれほど不幸ではないのかもしれません。
「勇者様は、」
「その、勇者様って呼び方やめにしないか。俺は勇者って柄じゃない。」
「私たちの国を救ってくれた英雄ですので、相応しい呼び方だと思います。」
「とにかく名前で呼んでくれ。」
勇者様の名前を思い浮かべて、
なんだか名前で呼ぶのは恥ずかしいですね。
「モイス様」
「なんでしょうか姫様。」
「ズルいです。私のことは名前で呼んでくれないのですか。」
「姫様は姫様だろ。」
「もう城を出たので姫ではありません。」
「悪かった。ムーニィ。」
こうして話しているだけでも、満足できてしまうのはどうしてでしょう。名前を呼ばれただけなのに、とても嬉しく感じます。私は気づけなかっただけで、これから幸せになるのかも知れません。
「モイス様。気になっていたのですが。」
「どうした。」
「どうして、魔物討伐の褒美にお姉様達ではなく、私を選んだのでしょうか。その、モイス様とはほとんどお会いしていませんでした。」
モイス様とは、魔物の討伐後の祝勝パーティで初めてお会いしました。その時も挨拶程度しか会話していません。
「あぁ。・・・少し言いにくいんだが。知りたい?」
「お願いします。」
モイス様は言いたくないようです。
恥ずかしいことなのでしょうか。
「俺がいま暮らしているところの主がキミを欲しがっていて、それで今回の魔物の討伐をしたんだ。魔物の討伐も最初からキミが目的だったんだ。」
みんなが幸せになりました。ですが、やはり(元)姫だけは幸せになれないようです。
モイス 勇者
ムーニィ お姫様