雪の女王と春の訪れ
ある悪魔は、どんなに美しいものでも歪んで見えてしまう不思議な鏡を作りました。その鏡で天使をからかってやろうと天に登りましたが、途中で鏡を落としてしまいました。鏡は砂粒ほどの大きさになってあたり一面に飛び散りました。
そのころ家の屋根の上でカイという男の子とゲルダという女の子が仲良く絵本を見ていました。すると空から落ちてきた鏡のかけらがカイの目に入ってしまいました。すると優しかったカイは、鏡の魔法で意地悪になってしまい、ゲルダのこともいじめるようになりました。
それから何日かして、カイは広場で白くて大きなソリに出会いました。さっそく自分の小さなそりをくくりつけて引かれるままに遊んでいると、ソリは突然すごい速さで走り出し、やがて止まりました。すると、ソリから誰かが降りてきました。
その人は目のくらむほど白く美しい、雪の女王でした。寒さと怖さにカイが震えていると「私の毛皮にお入りなさい。」女王はカイを大きなソリに入らせると、自分の横に毛皮をかけてやりました。でも毛皮の中は氷の中に入ったように冷たかったのです。
カイがまた寒がると、女王はカイのおでこにキスをしました。でもそれは氷よりもっと冷たいものでした。カイはその冷たさにこのまま死んでしまうのかと思いましたが、すぐに寒さなどすっかり気にならなくなりました。
「そうだ、ボクのそりはどこ?」カイが女王に聞くと、女王はもう一度おでこにキスをしました。するとカイはもうそれっきり、仲良しのゲルダのことも、家族のことも、もちろんそりのことも…何もかもすっかり忘れてしまいました。
カイはもう女王を怖いとは思わなくなりました。夜になると女王は、カイをつれて高く飛び上がり、森や湖や海や陸の上を夜のあいだ中飛びまわりました。昼になるとカイは女王の足元でねむる、そんな毎日を過ごしました。
そのころゲルダはカイがいつまでも戻らないので心配になり「さがしにいこう」と旅に出ました。人にたずねまわると、カイは雪の女王と「世界の北の果て」へ行ったというので、ゲルダは北の果てをめざすことにしました。
険しい道程を馬車で進んでいるとゲルダは山賊につかまってしまいました。カイを探していることを話すと、「雪の女王の城に、なにもかも忘れてしまった男の子がいるよ。連れてってあげる。」山賊の娘はゲルダの縄を切り、自分のトナカイに乗せてやりました。
雪の女王の城は激しく降る雪がそのまま壁になり、身を切るような風で窓や扉ができていました。とても広いお城はがらんとしていて、氷のようにつめたく、ギラギラして見えました。たのしみというものがまるでなく寂しく孤独なところでした。
「あたたカイ国をひとまわりして来るわ。」城に着いたゲルダがカイをみつけて駆け寄っていきました。「きみは、だれなの?」カイは首をかしげます。「ゲルダよ。仲良しのゲルダよ!」ゲルダの目から涙があふれて、カイのまぶたを濡らします。
するとその涙が、カイから悪魔の鏡のかけらを洗い落としました。「ああ、ゲルダ!ボクはここでいったい何をしていたんだろう」カイはようやく魔法が解けました。二人の友情を、見ていた雪の女王魔法を解いたのです。
「もう二度と離ればなれになってはいけませんよ。ゲルダほどカイを思っている子はいませんよ。」城の前で手をふる雪の女王が、先ほどまで城の案内をしてくれた山賊の娘の声で声をかけてくれました。
ゲルダとカイはトナカイの上で顔を見あわせおたがいにっこりと笑うと雪の女王に手を振り返し、家に帰るまでずっとおたがいの手をギュッとにぎりしめていました。
それから二人は時間があるときは必ずと言っていいほど女王の城へ向かい、雪の女王と仲良くなりました。
激しく振る雪は緩やかになり、身を切るような風は少し暖カイ風を運ぶようになり、氷のように冷たかった雪の女王の心はだんだんと温かくなっていき、カイやゲルダ以外の子たちとも遊ぶようになり、寂しく孤独な場所だった城は子供たちの集まる広場になりました。
一人でいることが寂しかった雪の女王と心優しい男の子カイ、そして友達思いの女の子ゲルダの冬の心温まるおくりもの。
~おしまい~
これを見てどんな行動を起こすかはそれぞれの自由、ということで。