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三題噺

三題噺①:孤島、隠す、台所

作者: qwert1374

「誰かいるのか」

 呟いた。海岸に佇んだ私は、ゆっくりと辺りを見渡す。雲がない澄んだ空に深い青の海、新緑の緑には黒いカラスが斑模様に羽休めをしている。潮風が時折吹き突いて、その模様を上空にも移した。

 趣味のキャンプが高じ、有休を使った五連休で無人島でサバイバルをしていた。初経験だったが、今の時代、ネットを検索するだけで関連情報が山のように出てきて、準備自体は案外簡単にすることできた。旅行ツアーに申し込むような、いや、新幹線の切符を予約するくらいの難易度だった。時代は変わった。

 スーツケースとリュック、大物道具を持って港町に車を走らした。そこから太平洋に浮かぶ小さな孤島にこじんまりとした漁船に乗って、途中釣りもしながら楽しく、向かった。サバが二匹釣れた。気分は上がる一方。島に着くと「二日後昼過ぎに迎えに来る」とだけ告げて船は戻っていった。島一つが完全なプライベート空間になったことに、私はさらに高揚した。テントを張って活動拠点を設置し、焚火を作った。このへんは今までのキャンプと同じ。違うのは潮の匂いとさざ波の音、そして新鮮な魚。ウッドテーブルを立てて、釣ったサバを捌く。鱗と内臓をナイフで取り除き、一匹はぶつ切りにしてサバ味噌汁に使用。水を張り焚火にかけた鍋に放り込んで、お玉で味噌を溶かしながら味を付ける。チューブの生姜を二センチほど入れて臭みをとる。もう一匹はワイルドに枝にさし、塩をまぶして焼き魚にする。とても美味しかった。軽く片づけ。使ったナイフやまな板は水で洗い、サバ味噌汁鍋にはお玉を付けたまま蓋をした。移動の疲れか、テントに入って寝袋に入ると、すぐに眠りにつけた。

 翌日、体力回復。昨日のサバ味噌汁を食べようと、テントから這い出たとき異変に気付く。簡易台所が荒れている。鍋がひっくり返り、テーブルが倒れている。突風のせいか?近づいて、確認。鍋を持ち上げると、中には何もなく、地面と一体化した味噌と魚片、お玉。テーブルは壊れていなさそうだ。重心が低くなっているため大丈夫と思っていたが、重しを置くべきだった。……ナイフがない。範囲を広げる。だめだ。見つからない。

 私以外に人がいるのか?なぜ盗む?よりにもよって、ナイフを。恐怖が芽生える。無人島のはずだ。振り向く。いないはずの人の気配、いや、恐怖からの幻覚だ。そもそも誰が?恨みがあるとすれば、あいつだが。この五連休のために、仕事を短納期で進めさせ、結局押し付けた部下のあいつだ。職場で「無人島に行く」という発言もしている。想像はできるかもしれないが、そこまで悪いことをしているだろうか?いや、ありえない。 振り向く。 深緑から覗かれている?いや、幻想だ。ここには私しかいない、そう言い聞かせる。

 強襲。

 黒い影。

「あっ」と思わず声を漏らす。

 お玉を咥えたカラスの姿がそこにあった。飛び去る。

 それを私は追った。時折「待て」と大声を挙げた。寝起きにいきなり走ることになるとは。茂みに、森に入っていく。ビーチサンダルには厳しい環境だ。それでも追った。日陰とはいえ、日差しが強く、脈拍が激しくなり、汗が噴き出す。

 しかし、見失う。自由に空を駆ける鳥類には勝てない。見渡す。「はぁはぁ」と息を整えながら、歩き回る。

 そして見つけた。

 巣だ。

 覗き込む。そこには、さっきのお玉、鍋の蓋、そしてナイフがあった。カラスは光るものを集める。隠すつもりなんてない。習性。単なる習性だ。深く息をつく。

「ああ、よかっ」

感想戦を読みたい方は下からご覧願います。

https://qwert1374.com/novel/3theme-1

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