決戦
サーブとは個人競技である。
ボールをつくのが心地いい。今のこの時間を遮るものはない。あと一点、その一点でうちのチームは負ける。その局面で僕が投入された。なんてことはない、僕に白羽の矢が立ったのは三年生の僕に思い出作りをさせるためだ。
時はバレーボール、インターハイ地区予選の二回戦。最終セット14-24で相手側のマッチポイント。決勝とか次に繋がるような場面ではない。現実なんてそんなものだ。僕はその場面でピンチサーバーという役職でお鉢が回ってきた。高校生活最初で最後の活躍の場。
不思議なくらい俺の心は落ち着いている。これで外したり、簡単に相手にとられるようなボールを打ってしまっては負けてしまう、そんな場面で。ベンチの中からは
「頑張れ!」「思いっきりいけー」
なんて声が聞こえてくる。はたから見れば
「俺たちはまだまだあきらめない!」
って感じられるけど、おいおいw俺にはもう終わりだってしか伝わってこないぜ!
でもその気持ちは分からんでもない。なんてったって俺が出されたからな。俺がコミュニケーションが不得手だからといって俺を見捨てたお前らには、そんな風にしか感じられない。
バレーボールはコミュニケーションが必要不可欠なスポーツ。理由として、お見合いを防いだり、ボールに意識が行き過ぎて衝突をしてけがをしないようにするなどがある。でも僕にはそれができなかった。声を出そうとしても出ないのだ。やっと声が出た時にはすでにタイミングを失っている。
そのせいもあって周りとコミュニケーションが取れず
「仲間はいるだろうが戦友はいない」、「知り合いはいるだろうが友達はいない」
といった状況になってしまっている。当然そうなれば周りから浮くというのも納得で一人で行動することが多かったし、一人で練習する時間も多かった。でも複数人でやらなきゃいけない練習は周りや監督の目もあったことで一応輪の中に入っていたような雰囲気は出ていたように思う。周りが狡猾で変なところで賢いこともあり、何も問題になることはなかった。
だから少しのいじめや嫌がらせが表に出ることはなかった。その代表が練習後のコートを一人で片づける、というものだった。僕は入部して少ししてから三年生になり、一年生が入部するまでの間独りで片づけをしていた。ほかの一年生は最初こそ一緒にやっていたものの、僕が黙々と片づけをすることをいいことにすべて僕に任せて先に帰ってしまうのだ。先輩も先輩でコミュニケーション能力があるやつらの言葉に踊らされ、注意することもなかった。
はじめこそこの待遇が悔しかった。それがまかり通ってしまうこの状況と、それをしている周りに。だけど何よりも腹が立ったのはコミュニケーションをうまく取れないがためにこの状況になってる自分に対して。和気藹々として楽しそうにしている彼らを横目に見ながら自分は無駄に時間を過ごしている。うらやましい…そう何度思ったことか!僕だって友達と笑い合ったりしたい。だけど僕にはそれができない。
悔しかった。非力な僕には何もできないし、助けの声すら上げることができなかった。だから初めはただ言われた通りに、一人で片づけをしていた。だけどある日からそれが変わった。それは
「独りでコートを独占したくなった」
から。いつもは隅のほうでおとなしくしている僕が興味本位で使ってみたくなるのも無理はない。実際使ってみるコートはあまりに広く、僕一人には広すぎた(当たり前の話である)。そこで何をしようか真っ先に思い浮かんだのがサーブだった。