プロローグ その1
夢。夢を見た。毎日見ているような終わりのない夢だった。赤い雪、赤く染まった世界、 夕焼け空を覆うように、小さな子供が泣いていた。せめて、流れる涙をぬぐいたかった。だ けど、手は動かなくて、頬を伝う涙は、雪に吸い込まれて、見ていることしかできなくて、 悔しくて、悲しくて、大丈夫 だから、だからなかないで、約束だから……それは誰の言葉だっ たろう……夢は別の色に染まっていく。うんっ、約束――だよ。
その時、空から、リリィによく似た少女が降り立ってきた。この姿は魔法少女? どうやら、その小さい子供助けているようだ。俺は悔しかった。手を動かすことも、そこにいる小さな子供に気づいてもらうことすら出来ない。いくら違う世界で、夢の中だろうと何もできないのは辛いんだ。こんな悲惨な世界。誰が作ったんだろう。赤く染まった世界なんて、誰も望んでいない はずだ。これはどういう夢なんだろうか。妹に似た魔法少女がいたから、妹の夢だろうか。 いや、でもなんか違う。これが夢だってことは分かる。でもその先のことは全くわ かんない。もやもやして、辛い。
『ピピピピピ』
目覚まし音で夢から覚めた。そしてベットの横のタンスの上にある目覚まし時計を止めた。そして、その隣には一枚の写真が入った写真立て。それは両親の写真だ。しかし、顔の部分が酷く汚れていて、その顔は分からなかった。
小さい頃に両親を亡くし、両親のこともほとんど覚えていない。 生活に必要な金は親戚からもらってる。俺は今、妹と二人暮らしをしている。俺は妹に日々の生活を助けてもらっている。自分でいうのもなんだが、俺は不器用だ。料理も作れないし、洗濯や掃除もできない。だから、それをすべてやっ てくれる妹は俺にとって、とても大切な存在だ。妹とは小さい時から、一緒にいたらしいんだけど、やはりその記憶もあんまりない。ちょっと寂しいかな。なんで覚えていないんだろう……
そんな俺でも、勉強と運動は華麗にこなしている。中学時代、水泳部で部長をやっていた し、テストも常にトップだ。まあ、だからといってモテるわけじゃないんだけどね。こんな パッとしない顔だからかな。そう、僕は中学時代をすごしてるとき妹以外の女とは、あまり関わることが出来なかった。でも心配する必要はない。だって、昔ずっと一緒に遊んでいた ひなちゃんが、これから通う高校でまた一緒になるんだから。幼馴染ってことでいいんだよな……
今は春休み。特に友達もいないし、家には妹がいるから、家でグダグダすることにした。 私服着るのもめんどくさいから、中学校のときから愛用しているジャージを常に着ていた。いや、これはジャージというより、青いつなぎの格好ですね。グダグダってなんだろう。そんなことをぼんやりと考える。それがグダグダしてる証拠。部屋の窓から、道を 見下ろすと、桜が咲いていた。春を実感させる素晴らしい光景だ。昔の俺は、その道を走ったな。懐かしいな。
「あーつまんねえー」
なにかが始まる前の謎の憂鬱感が僕にそう言わせた。
たたたたた、なんか足音が聞こえてくる。妹がくるのかな。
「バタッ」
ドアが開いた。いつもはこんな勢いよくドア開けないのにな、どうしたのかな?
「お兄ちゃん!私ね、ちょっとでかけるの」
珍しい。妹が家で服きてるなんて……じゃなくて、妹が家から出かけること。
「お、おう」
「お兄ちゃん。私がいなくても頑張ってね! ニ日後には戻ってくるから」
俺は慌てるように言った。
「しっ知ってるよ! なんもねーよ。子供じゃないんだから」
妹は笑顔を残して、家を出ていった。
あっという間に夜になった。 グダグダしてるとやっぱり時間はあっという間だね。 妹がいないので、夜ご飯はカップラーメン。笑いたくても笑えない。
その夜、俺は酷い孤独感に襲われた。
「寂しい。肌寒い……なんでだよ。なぁリリィ」
なんだろう、この気持ち。まるで妹のことが好きで好きで仕方ないように。なんでこんなに急に……なんかおかしいぞ、俺。
「俺は妹が……」
一人でいる時間が一秒ずつ長くなる。そして微かに聞こえる時計の秒針は少しずつ、でも確実に妹のことを思うようになっている。でも俺らは兄妹だ。妹に相談とかも、さすがにまずいだろ。俺はこの気持ちを隠そうと決心した。
でも、今日だけは。だって耐えきれない。俺は 妹の部屋に勝手に入った。妹の匂いがした。なんか落ち着く。これがいわゆる『女の子の匂い』なのだろうか。でも、ちょっと独特なしたような気もした。俺は孤独感のせいなのか、 理性が働かなくなっていた。なんと妹のベットに入って、寝てしまった。