戦いは終わり
「ランガ様ぁっ!」
今までどこに潜んでいたのか、アーミラが突然飛びついてくる。
思い切り抱きつき、力一杯抱きしめ、頭をぐりぐりと押し付けてきた。
おいこら痛いぞ。
「お疲れ様ですっ! ちょっとだけハラハラドキドキしましたが、流石はランガ様です! あのような相手に負けるはずがないと、私は信じておりましたっ!」
「ちょ、アーミラ離れろって……」
「嫌ですっ! もう少しだけランガ様の匂いを嗅がせて下さいましっ! ……すーはー、すーはー」
頭を押さえるが全く離そうとしないアーミラ。
ったく、参ったな。
困惑する俺を見て、レアンが呆れた顔で笑っている
「なんだ、ランガだけでなくお前もいたのか? アーミラ」
「むっ! き……レアン、様……」
アーミラはむすっとした顔でレアンを睨む。
金髪デカ女と言いかけたな、こいつ。
だがレアンはそれを気づいていないようだ。
「しかしこんなところで再会したのもだが、副官連れとはね。……君はいつも私を驚かせてくれるよ」
「驚いたのは俺も同じだ。あぁ挨拶しそびれてた。レアン、久々だな」
「うむうむ、ワシも主殿に会えて嬉しいわい」
鬼刃王も嬉しそうに何度も頷いている。
「それにしても何故人間の子供に?」
「あー……話せば長くなるんで、かいつまんで話すとだな……」
俺はレアンと鬼刃王に、これまでの事をざらっと話した。
「はぁ、なるほどな。まさかレヴァノフにまで会っていたとはな……」
「まぁあいつとは殺り合ったわけだが……それにしても世間は狭いというか何というか……お前たちとの出会いは歓迎だけどな」
「ふっ、それは私もだ」
俺の言葉に嬉しそうに微笑を浮かべるレアン。
しかも昔に比べてかなり丸くなっているしな。
それを見ながら、アーミラは頬を膨らませている。
「ちょっとレアン様、距離が近くありませんか?」
「そうか? 別に普通だと思うが……」
「いーえ、近いですっ! 半径一メートル以内に近寄らないで下さいましっ!」
「何を馬鹿な。ランガに近づくのに君の許可が必要なのか? ん?」
そう言ってレアンは、挑発するように俺に顔を近づけた。
いつの間にかフサフサの長い尻尾が俺の腰に巻きついている。
「れれれ、レアン様っ! 何をなさっているのですっ! いやらしいっ!」
アーミラは顔を真っ赤にして声を張り上げた。
対してレアンは涼しげな表情を崩さない。
「どうしたアーミラ、そんな鬼のような形相で」
「ぐぬぬ……ランガ様の腰に尻尾なんて巻きつけて……うらやまけしかりませんっ!」
「ふむ、随分私の尻尾が羨ましいと見えるな。そうしたければ生やせばいいのではないか?」
「出来たらそうしていますっ!」
いや、やらなくていいから。
言い争う二人を見て、俺はため息を吐いた。
「ほっほっ、モテモテじゃのう主殿」
「うるさい、黙ってろ」
俺は鬼刃王を睨みつけると、問答無用で鞘に納めるのだった。
■■■
話をそこそこに俺は親父と入れ替わり、座らせておく。
脱いだ鎧兜を着せて……と。こんなもんだろう。
「じゃあレアン、親父が目を覚ましたら話を合わせてくれよな」
「……あぁ、善処しよう」
もちろん、レアンには話を合わせるよう言ってある。
しばらくすると、ミゲルたちが目を覚まし始めた。
だが親父はまだ大いびきをかいていた。
「んがががが……」
「ほら、起きろ親父」
仕方なく気つけを施すと、鼻ちょうちんを割ってうぅんと唸り起き上がる。
「んが……ふぁぁよく寝た……ってかここは一体どこだ? 何で俺は鎧を着てるんだ……?」
寝ぼけまなこでキョロキョロと辺りを見渡す親父に、アーミラが声をかける。
「流石ですダリル様! ハンニバル様を殺した犯人をナーバルと暴き、その上魔物と化したナーバルさんを見事に斬り伏せてしまわれるとはっ!」
「……は?」
見事な説明口調だが、親父は話についていけていないようだ。
俺もそれに補足する。
「そうそう、前みたいにここへみんなを集めてさ、犯人はお前だーって、ナーバルさんを追い詰めていくの、かっこよかったよ! それにナーバルさんが変身したあのおっきい狼も、獣王さんと一緒に倒しちゃうんだもんね。すごかったよ、父さん!」
前みたいに、と言うのは無論、俺が親父の恰好をして皆の前でレヴァノフを倒した時の事だ。
あの時も親父を気絶させ、後から言いくるめたわけだが……
「この化け物を、俺が?」
流石にそう簡単には信じられないようで、親父はナーバルの死体を見下ろし考え込んでいる。
だが半信半疑、あと一押しだ。
俺はレアンに視線を送り、更なるフォローを促す。
「…………あぁ、みごとなたたかいぶりだったぞ。ダリルどの。すごいすごい」
レアンはたどたどしい棒読みで、親父を褒め称えている。
おいおい、演技下手かよ。
「そ、そうですかなぁ? へへ、いやぁ獣王殿、あなたも中々のものでしたよ。それによく見ればとても麗しい方だ。どうですかな? 後日改めてディナーでも……」
だが親父は全く気にすることなく、レアンの言葉を馬鹿正直に受け止めた。
それどころかナンパまで始める始末である。
レアンが困惑するのを見て、俺は思わず頭を抱えた。
命知らずにもほどがあるぞ、くそ親父。
「ダリル殿!」
目を覚ましたガエリオが駆け寄り、親父の手を取る。
「素晴らしい推理、そして戦いぶりでした! 途中までは意識があったのですが、急に眠くなって……いやぁ最後まで戦いを見られなかったのは本当に残念です! あの凄まじいまでの斬撃の跡、あれは鬼十字ですね! いやぁ見たかった!」
鬼十字、とは俺が以前親父のふりをして敵を倒した際、偶然十字に切り裂いたことから付いた名である。
おかげで鬼十字のダリル、なんてあだ名までついてしまったくらいだ。
そう言えば今回も図らずして十字に斬っちまったな。……まぁいっか。
「え、えぇ! ハハハ、大したことはありませんでしたよ! この鬼十字のダリルにとってはねぇ!」
「またまた、ご謙遜を!」
「ガッハッハ!」
ガエリオに煽てられ、機嫌よく大笑いする親父。
全く、よく記憶にもない事でここまで豪気になれるものである。
感心していると、今度はミゲルが近づいてきた。
「見事であったダリル殿。只者ではないと思ってはいたが、まさかこれほどとは思いませなんだ。先刻、疑うような事を言って申し訳ない。非礼を詫びさせていただきたい」
「ミゲル殿……いえいえ私は気にはしておりませんよ。そう畏まらんで下さい。ガッハッハ」
「おお、器まで大きいのか。本当に大した人物だ。ランガ君、君の父上は本当に素晴らしい人だよ。誇りに思いなさい」
そう言ってミゲルは、俺の頭を撫でてくる。
「そうだぞう、俺を敬え! ガッハッハ!」
親父も俺の頭をバシバシと叩いてくる。
「ハハハ……」
俺は親父のあまりの呑気さに、ただ乾いた笑いを漏らすしかなかった。




