表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/57

捜索開始

「くそっ、一体誰がハンニバル殿を殺しやがったんだ!」


 夜、親父が苛立った様子で部屋に戻ってきた。

 俺とアーミラの取り調べが終わった後、他の者たちの取り調べも行われたが、結局それだけでは犯人は分からなかったようである。


「父さん、何か分かった事はある?」

「あぁ、ハンニバル殿が夜中に抜け出したのは、数人の兵士が見ていたので間違いはなさそうだ。獣人たちのアリバイは不明だな。兵士たちの殆どが屋敷の外にいたから、中の様子は連中の言い分を信じるしかない。まぁ獣王はお前の証言があるので犯人って線は薄いが……まぁきっと犯人は獣人の誰かだろうよ。人間との和平を嫌う獣人は多いだろうしな、その為に邪魔なハンニバル殿を殺したんだろうぜ」


 親父はつまらなそうに息を吐く。

 俺の証言でレアンの疑いは薄れたようだが、現状では獣人の一人が暴走した、というのが警備隊の見方のようである。

 確かにその可能性もあるが……あまり早まった判断をしなければいいがな。


「ってお前には関係ないだろうが!」

「えー、気になるんだもーん」

「うるせぇ! 子供は早く寝ろ!」


 どうやらかなり苛立っているようである。

 全く手がかりがないんだろうな。

 このままでは獣人の誰かが犯人にでっち上げられるかもしれない。

 そうなれば真相は闇の中……レアンの悲願である和平も叶わないだろう。

 何とかしてやりたいところだな。


 ■■■


 翌日、目覚めた俺たちは、いつものように朝食へと案内された。

 先日の安穏とした雰囲気とは違い、重苦しい空気である。

 参加者は人間だけでなく、獣人たちもいる。

 容疑者は皆、この屋敷に集めているのだ。

 まぁ再犯を防ぐためには当然だな。


「むぐむぐ……ランガ様、そんなに少食で大丈夫ですか?」


 口を動かしながらアーミラが聞いてきた。

 俺の両手に持つ皿が、先日の七割くらいしか入ってないのが気になったようだ。


「あぁ、食欲がなくってな」

「まぁ大変です! もぐもぐ……ごくん、ぷはっ!」


 ちなみにアーミラの食欲は普段通り、リスのように両頬を膨らませていた。

 全く羨ましい限りである。


「皆さま! お耳を少々お時間よろしいでしょうか!?」


 いきなり食堂に声が響き渡る。

 声の方を見れば、ナーバルが壇上に立っていた。

 全員が注目したのを確認した後、ナーバルは言葉を続ける。


「私の父は和平会議を前にして、志半ばにも無残に殺されてしまいました。さぞかし無念だったでしょう……ですが、このまま終わらせはいたしません! こんな時ではありますが、私が父ハンニバルの跡を継ぎ、獣人たちとの和平を実現してみせます! 真犯人も必ず捕らえてみせます! ですのでどうか、皆様の力をこの不肖ナーバル=ガーランドにお貸しください!」


 わああああああああ! と歓声と共に拍車が巻き起こる。

 和平会議の件、どうなるかと思ったがどうやら息子であるナーバルが引き継ぐようだ。

 とりあえずは和平が潰れず、一安心といったところか。

 食堂の端にいたレアンも胸を撫で下ろしている。


「はぁ、父親が先日あんな殺され方をしたばかりだというのに、立派な方ですね」

「そうだなぁ」


 確かナーバルは獣人の為に孤児院や病院を作ってたんだっけか。

 しかも自身も医者として、獣人たちの為に医学を学んでいるとか。

 父親の事もあるのだろうが、そもそも獣人と友好的な人間なのかもな。

 そんなことを考えながらぼんやりとスピーチを聞いていると、ふと違和感に気づく。


「……ん? そういえばあの人、昨日まで手袋なんかしてたっけ?」


 よく見れば、ナーバルが白い手袋をしているのだ。


「さぁ……でもただそういう気分だったんじゃないですか? 医者ですし」

「とはいえ普通は食事中に手袋はしないだろ」


 前世で人間のマナーを学んだことがあるが、確か食事中に手袋をするのは無礼とされていたはずだ。

 こんな豪邸育ちのナーバルがそれ知らないとは思えない。

 疑問を感じた丁度その時、ミズハが通りかかったので尋ねてみる。


「ねぇミズハさん、ナーバルさんは何で手袋してるの?」

「あぁ、先日手を火傷して、それをお見せするのが恥ずかしいとか言っておりました」

「ふーん」


 火傷、ね。

 あのボンボンが火なんか使うのか? ……いや、使うはずがない。

 何だか引っかかるじゃあないか。


「アーミラ、少し調べたい事がある。ついて来い」

「はいっ! 地獄の底までお供いたしますっ!」


 そこまではついて来なくていいのだが。

 無駄に物騒な奴である。

 ともあれ朝食を終えた俺たちは、庭へ出ようとした。


「ちょっと君たち、部屋へ戻らないとダメじゃあないか」


 すると、警備の兵士に止められた。

 事件が起きてから屋敷内には沢山の兵士が配置されており、自由な行動は出来ない。

 だが、もちろん想定済みである。

 その為にアーミラを連れてきたのだ。


「おじさま、私の目を見て下さいませ」

「ん? 一体なんだね、私は忙し……」


 言葉は最後まで続かなかった。

 アーミラの目が妖しく輝いた途端、兵士の目が虚ろになる。

 ――魅了の魔眼、前世で高い魔力を持っていたアーミラは、転生した今も魔眼を有している。

 この魅了の魔眼は自分よりかなり格下の相手にしか通じないが、数時間程度はこうして意のままに操る事が出来る。

 以前、これを用いてごろつきを操り、俺を攫おうとしたのだ。

 本人の命の危険を脅かすような行為や、細かい命令が必要な難しい事はさせられないが、こういう時は便利な術である。

 ただし、繰り返し同じ相手は使用するのは著しく効果が落ちるので、あまり何度も使えるものではない。


「通して、くださいますわね?」

「……はい」

「どうも――」


 アーミラは優雅に会釈すると、兵士の横を通り抜けた。

 その蠱惑的な表情は、かつて魔族だった頃のアーミラと少し、ダブる。


「さぁ行きましょう、ランガ様」

「……おう」


 だがすぐに年相応のあどけない表情に戻った。

 その変化に戸惑っていると、アーミラはキョトンとした顔で首を傾げる。


「どうかしたのですか?」

「いや、なんでもない。早く行くぞ」

「はいっ!」


 元気よく返事するアーミラを連れ、庭へと駆ける。

 うーむ、敵に回すと恐ろしいが、味方にすると頼もしい奴である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ