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事件、勃発

「あ! ランガ様! そんな所にいたのですね!」


 レアンと別れた俺は、すぐにアーミラと合流した。


「おう、朝の訓練でな」

「いつもの、ですね。もう、私も私も誘っていただかないと困りますっ! ……いえ起きなかった私が悪いのですが」


 ムッとしたら落ち込んだり、忙しいな。

 アーミラは時々俺の朝練に付き合うが、それは勝手についてくるだけだ。

 わざわざ俺から声をかけることはない。相手にするのは面倒だしな。

 起こさなくてもそれはそれで面倒なのだが。

 そんな事を考えていると、アーミラは俺に早足で近づいてきた。


「むっ……くんくん、ランガ様から他の女の匂いがしますっ!

「……犬かお前は」


 俺はアーミラの謎嗅覚に呆れる。

 まさかここまで匂いで追ってきたんじゃあるまいな。


「あーっ! やっぱりそうなのですねっ!? まさかまさか、あの金髪デカ女と会っていたのですか!?」

「まぁ、さっき偶然ばったりな」


 仕方ないので経緯を説明してやる。

 アーミラは興奮した様子でそれを聞いていた。


「てなわけだ。俺はレアンを誤解していたのかもな。こうして話してみれば、意外にいい奴だったよ」


 と、説明を終えると、アーミラは何やらブツブツ言っている。


「……そうですか。やはりあの金髪デカ女、まだランガ様の事を……あまつさえ鬼牙王まで手にしているとは、その想い本物のようですね……まぁ如何にあの女といえど、今のランガ様には手は出せないでしょうが……いえいえ油断は禁物! 以前何かの文献でこの世には『おねショタ』なるものが存在するとかしないとか! ランガ様に年上属性がないとも限りませんし。……むぅ、どうしたものでしょうか……」


 アーミラは何やら自分の世界に浸っているようだ。

 うーむ、怖い奴である。

 そういえばアーミラとレアンは、何かにつけて争っていたのを思い出す。

 やれどちらが戦果を挙げた、だの。

 やれどちらの部隊が強いか、だの。

 いつも張り合っていたっけか。


「……まぁ唯一の救いはランガ様がニブい事ですね」


 ボソッと呟いたが聞こえているぞ。

 誰がニブいだ、誰が。


「それよりランガ様、そろそろ朝食の時間ですので急ぎ戻りましょう」

「おっと、そりゃ急がないとな」


 朝食もきっと豪華に違いない。それを逃す手はないぜ。

 俺はアーミラと急ぎ、部屋に戻るのだった。


 俺が戻っても親父はまだ寝息を立てていた。

 こっそり入る時に音がしたが、親父は全く気づく様子はない。

 こういう時は親父の寝入りが深くてよかったな。

 安堵の息を吐いていると、コンコンとノックの音が聞こえた。


「ダリル様、朝食の時間になりました。食堂へおいで下さいませ」


 ミズハの呼び声に、俺は即座に返事を返す。


「はーい! すぐ行きまーす! ……父さん、早く起きてってば!」

「んがががが……ぐごごごご……」


 揺さぶり起こそうとするが、親父は微動だにしない。

 ……こういう時は親父の寝入りの深さにうんざりするな。

 いつもなら放っておくが、今日は豪華な朝食が待っている。

 無理やり起こすとするか。


「ていっ!」


 首筋に手を当て、気つけを促す。

 ごきっと音が鳴って親父が目を覚ました。


「んがっ!? な、なにが起こった?」

「おはよう父さん、朝食の時間だよ」


 慌ただしく左右を見渡す親父に、俺はにっこり微笑んだ。

 さっさと準備をさせて、俺たちは食堂へ向かう。

 今回も先日夜と同じく、テーブルに料理が並んでいた。

 ヨーグルトにドライフルーツにパン、バターやジャムもある。

 がっつり系ではないが、これはこれで俺好みである。


「ごゆっくりお楽しみ下さい」

「はーい!」


 ミズハの言葉と同時に、俺はテーブルへ向かって料理を取り始めた。

 ヨーグルトにドライフルーツを入れて、ジャムを加える贅沢。

 うーん、甘い。朝の訓練で疲れた身体に染み渡るぜ。


「ランガ様、パンも美味しいですよ。柔らかくってふわふわしてます!」

「おお! 確かに美味いな!」


 俺とアーミラは、満足いくまで朝食を堪能した。

 ある程度、腹が満ちてきたところで俺は周囲に目を配る。


 親父とガエリオは警備隊長であるミゲルと何やら話しているようだ。

 ナーバルはミズハと共に挨拶回りをしている。

 他の者たちも各々談笑していた。

 だが、妙だな。


「ランガ様、どうかなされたのですか?」


 俺の訝しむような表情を見てか、アーミラが話しかけてくる。


「あぁ、ハンニバルがいないと思ってな」

「そういえばそうですね。午後から行われる会議の準備では?」

「とはいえ朝食くらい食べに来るだろう。それに食事している面子は先日夜と同じだ。会議の打ち合わせならここですればいいじゃないか」

「むむ、確かにそうですね。一体何故でしょうか?」

「まぁ他の用事なのかもしれないが……」


 言いかけたその時、食堂の大扉が開いた。

 そこに立っていたのは獣人たちである。

 虎の獣人、ニャレフに狼の獣人、ガーヴ。

 二人に挟まれるようにして、獅子の獣人にて獣王であるレアンがいた。


「じ、獣王様! ここは会議室ではございません!」

「それに約束の時間は昼、まだ随分と早いです!」


 慌てて駆け寄るメイドたち。

 どうやらレアンたちは時間と場所を間違えたようだ。

 魔族に、特に獣人には時間の感覚はあまりないからな。


「おいおい、だから早いって言っただろうニャレフ。お前はせっかちなんだ」

「何ィ!? ガーヴこそ、ここに人の気配が集まっているからここに違いないと言っていたではないか!」

「集まっているではないか。自分の早とちりを押し付けるのはやめて貰おう」

「貴様ァ……やるか!?」


 言い争いを始める二人。

 それを見て人々は冷笑している。


「やはり獣ね……」

「全くだ。会議など成り立つのか……?」

「突然暴れ出すやもしれぬぞ?」


 などとひそひそ声も聞こえてきた。

 人間たちの反応はまぁ、こんなものだろう。

 とはいえ獣人の前でそいつはマズい。

 特にこの二人は相当気性が荒いからな。

 ニャレフとガーヴ、二人は人間たちの方をゆっくりと振り向いた。


「なんだとテメェら……! やるのかァ!?」

「無礼な奴らだ。これだから人間というやつは……!」

「ひっ!?」


 鋭い眼で睨まれ、ひそひそと囁いていた者たちは全員震え上がる。

 全く、こいつら獣人の耳の良さを知らないのか。

 レアンの手前、流石に手は出さないだろうが……なんて事を考えていると、二人の前に警備隊長であるミゲルが立ち塞がる。


「引け、ここでの乱闘は許さんぞ」


 腰の剣に手を置き、いつでも抜ける構えだ。

 おいおいあんたも挑発するなって。


「ゥゥゥ……!」


 それに刺激され、二人も唸り声を上げ始める。

 一触即発、そんな空気を破ったのはレアンだった。


「やめろ、二人とも」


 二人はハッとなると、レアンの後ろに下がった。

 レアンはミゲルの前に進み出て、頭を下げる。


「申し訳ない。こちらの手違いだ。すぐにこの場を立ち去ろう」

「あ、あぁ……」


 毒気を抜かれたような顔で、ミゲルも剣から手を降ろした。

 ふぅ、冷や汗かいたぜ。

 こんなんで和平会議は大丈夫なのかよ。

 レアンたちが部屋を出て行こうとした、その時である。


 バタン! と勢いよく扉が開き、メイドが勢いよく入ってきた。

 今度は一体何なんだ?

 メイドは血相変えて呼吸を整え、声を上げる。


「た、大変です! ハンニバル様が……!」


 メイドの悲痛な声に尋常ではない様子を感じ取った皆は、一様に息を飲んだ。

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