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獣王、レアン

「ランガ様、このお魚とっても美味しいですよっ!」

「こっちの肉も中々美味いぞ!」


 俺とアーミラは子供の立場を存分に利用し、豪勢な食事を堪能していた。

 立場ある大人だとそうはいかないだろう。

 ガエリオは俺たちの食い意地に呆れた様子で、上品に食べている。


「んむんむ、幸せですねぇランガ様」

「あぁ、こんな美味いもん中々食べられねぇぞ。しっかり食っとけ」


 そういえば四天王時代も、挨拶回りやら何やらでパーティに参加しても思う存分食べれなかったっけ。

 前世分も食っておこう。


「ところでランガ様、少し妙だと思いませんか?」


 口いっぱいに物を詰め込んでいたアーミラが言う。


「どうした?」

「このパーティは明日の会議に参加する者たちがいるのでしょう? ですが獣人が誰一人としていませんが」

「そりゃ明日の会議が本番なんだから、今はその作戦会議でもしてるんじゃないのか?」


 このパーティだって、参加者同士の意思を統一する為に開かれたものだろう。

 耳を澄ませれば、明日の会議についての話題がそこかしこから聞こえてくる。

 恐らく今頃、獣人たちも同じように話し合いをしているのかもしれない。

 それに会議の前にこんなパーティに参加したら、わざわざ会議をする意味が薄れるだろうしな。


「へぇ、よくわかったね。ランガ君」


 いきなり後ろから声をかけてきたのはガエリオだ。

 びっくりするじゃないか。心臓に悪い。


「ま、まぁそうなのかなーって思っただけだよ。ハハ……」

「いや、あながち間違ってはいないと思うよ? 獣人たちも今は何やら集まっているようだしね。……ほら、アレを見てごらん」


 ガエリオが窓を指差すと、そこから向こうにある屋敷の様子が見える。

 何やら獣人たちが集まっており、俺たちと同様に会食をしているようだった。

 殆どは知らない顔だが、かつて魔王軍で見た顔ぶれもいる。

 突撃部隊にいた虎の獣人ニャレフ。

 乱暴だが男気溢れる性格で、戦場では真っ先に斬り込んでいくようなある意味最も獣人らしい男だ。

 諜報部隊にいた狼の獣人ガーヴ。

 こちらは反対に冷静で理知的な性格で、先回りして罠や待ち伏せを潰していた男だ。

 どちらも獣王軍の中では重要な存在である。

 それを評価され、こんなパーティにも出られるように出世したのだろう。

 しかしあいつら、昔と全く変わらないな。

 獣人は年齢を取る速度が極端に遅く、何十年か経った今でも以前と殆ど変わらないのである。

 そんな彼らに囲まれている一人の女性を見て、俺は目を疑った。


「おいおいあいつは……」


 逆立った長い金髪に、長身の女性。

 中性的な顔立ちに猛獣を思わせる鋭い瞳。強い意志を示すきりっとした太い眉。

 口元は真一文字に閉じており、首は女性とは思えぬほどしっかりと筋肉が付いていた。

 フォーマルな格好をしているが、服の上からでもわかる鍛え抜かれた肉体。

 健康的な美女、と言えば聞こえはいいが、美女というよりは美獣とでも言った方がしっくりくるか。

 少なくともその圧倒するような雰囲気に、周りの獣人たちも彼女を女としてみるような輩はいない。

 ――その姿には見覚えがあった。

 魔王軍元四天王の一人、獣王レアンである。


「彼女が獣人側の代表、レアン=バルバロッサだよ。かつて魔王軍四天王だったらしいが、今は人間との仲を取り持つべく色々駆け回っているそうだ。今回の和平会議も彼女が掛け合ったらしい」

「本当っ!?」


 驚きのあまり、思わず声を上げてしまう。

 獣王率いる獣騎士団は魔軍の中でも一、二を競う戦闘狂の集団である。

 レアンはそんな中で先頭立って戦うような勇猛な奴だ。

 騎士たるもの、たとえ王であろうと先頭に立つべし、なんて言いながら真っ先に突っ込んでいくような奴だった。

 そんなレアンが和平をねぇ……聞いた瞬間は耳を疑ったが、変われば変わるものである。

 ハンニバルもそうだったし、歳を取ると丸くなるのかもな。

 呆ける俺を見て、ガエリオは頷く。


「確かにかつての獣王レアンは騎士王と呼ばれるほど勇猛な人物だったと聞く。だが大戦が終わってからは人が変わったかのように治世に努めたんだよ。まだ戦いたがる獣人を鎮め、剣を鍬に変えさせて、文明的な生き方を教え込んだと聞いている。人と共に生きる為にね。だからグノーシスの者たちは獣人とは思えぬほど、理性的なんだよ」

「へぇぇ……あのレアン……さんがねぇ……」


 つまり話が通じる、というわけか。

 確かに獣人が人間のメイドをやるなんて、俺が知っている限りではあり得ない話だ。

 しかしグノーシスとアレーシア、大戦が終われば隣り合った街である。

 互いに協力せねば発展は難しい。

 故にレアンは獣人たちにそう教えたのだろう。

 と頭で考えればそうなのだろうが……よく納得したな。


「だから今回の和平会議、僕としてはそう驚くものではないかな。……おっと、近代史はまだ授業の範囲外だったかな? 僕から教わった事は先生方には秘密にしておいてくれたまえ」


 パチンとウインクをするガエリオ。

 どうやら俺の授業でやったという言葉を信じているようである。

 なんというか、この人は普通にいい人なんだよな。


 そんなことを話していると、ふと俺とレアンの目が合う。

 かつてと同じ、射貫くような視線に思わず息を飲む。

 と、ガーヴの手によって窓のカーテンが閉められた。

 もう部屋の様子は伺えなくなってしまった。


「ありゃ、閉められてしまったね。残念。……じゃあ僕はダリル殿の所へ行ってくるよ。そろそろ代わってあげないとね」


 ガエリオはそう言うと、親父の元へ向かう。

 ハンニバルの相手をしていた親父は腹ペコだろうしな、本当にいい人だ。

 しかしレアンが和平、ねぇ……一体どういう風の吹き回しなのやら。


「どうかしたんれふか? ランガ様」


 俺が窓から外を覗いていると、まるでリスのように両頬に食べ物を詰め込んだアーミラが寄ってくる。

 その上、両手にも料理で山盛りの皿を持っていた。

 俺と話している最中も、ずっと口を動かしている。

 欲張りすぎだぞ全く。

 真面目に考えていたのがばからしくなった俺は、大きなため息を吐いた。


「……あぁ、何でもないよ」


 レアンがこんな所にいたのは確かに驚いたが、俺には関係ない事だ。

 和平にしろ何にしろ、気にしても仕方ないだろう。


「なんだかわかりませんが……それよりそろそろデザートにしませんかっ!? 甘いもの、大好物なんですっ!」

「おいおい、これだけ食べてまだ入るのかよ……」


 俺が呆れた顔をしていると、アーミラは顔を赤らめた。


「あ、甘いものは別腹ですから……」

「お、おう……」


 そうか、としか言いようがない。


「ランガ様はお食べにならないのですか?」

「侮るなよ。俺はデザート分の腹は残している」


 そこらへんはもちろん計算づくである。

 アーミラは安心したように笑顔になった。


「流石はランガ様です」


 そんなわけで、俺とアーミラはパーティ会場のデザートを全種類食べたのだった。

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