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アレーシア到着

 そんなこんなで馬車の旅は順調に進む。

 街の外での生活は少々不便だが、これはこれで楽しいものだ。

 夜は火を焚き、雑多な鍋を囲んでは皆でワイワイ言いながら食べる。

 焚火を囲んで寝袋にくるまって眠る。

 そして朝は残り火で簡単な朝食を食べ、また馬車を走らせる。

 加えて言うと、俺は時々抜け出しては魔物を瞬殺し帰ってきていた。

 街を離れると強めの魔物も出てくるからな。

 オークロードにガイアリザード、コボルトリーダーもいたっけか。

 丁度いい訓練相手だったぜ。


 たまにはこんな野外生活も、昔を思い出して悪くはない。

 街を出て三日、荒野の向こうに巨大な城壁が見えてきた。


「あれがアレーシアだ。もうすぐ着くぞ」


 石を積んで作られた城壁には矢が何本も刺さり、何度も修復した跡が残っている。

 行きかう兵士たちに踏みしめられて土はすさまじい固さになっており、草も生えなくなっていた。

 何十年にもわたる戦いの歴史を思わせられるな。


 前世では俺たち魔王軍が人間界への侵攻を企むと、勇者たちを先頭に世界各地の英雄たちがここに立ちはだかったものだ。

 俺たちも何度も戦いを挑んだが、結局成功する事はなかった。

 なので一度もアレーシアに足を踏み入れた事はないのだが……それが今になって叶うとは皮肉なものである。

 しみじみとそんなことを考えていると、馬車は門へと辿り着いた。

 門番の屈強な男が馬車の前に立ちはだかがる。


「こんにちは。アモールの衛兵隊長、ガエリオと申します。警備の件で来たのですが……」

「……あぁ、話は聞いている。中へ入られよ」


 男は不愛想な顔で俺たちに中へ入るよう促す。


「おいおい、なんだぁあいつ。こっちは来てやった側なのによぅ、少しは歓迎の言葉の一つくらいあるべきじゃあないのか?」


 そんな男の態度を見て、親父は悪態をつく。


「それは仕方ないよ。この街の衛兵さんたちにしてみれば、ガエリオさんたちに自分たちの仕事を取られた形になるからね。面白くないのも当然だよ。この街の衛兵さんたちは今まで魔族の侵攻から街を守ってきたという自負がある。プライドを傷つけられたと感じるのも仕方ない。風当たりのきつさは覚悟すべきだと思うよ」


 あの兵士の気持ちはよくわかる。

 自分が守ってきた砦なのに、他の兵士が守りに加わるというのは腹が立つものだ。

 特に余裕がある時は尚更である。

 それでよく魔王軍も仲間割れしていたからな。

 うんうんと頷いていると、ガエリオが目を丸くしながら声をかけてきた。


「……ランガくん、よくそんな事を知ってるねぇ」


 やべ、ちょっと子供らしくなかったか。


「あ、あははは! なーんて、最近授業でそんなことをやったんだー。アレーシアの街は魔族の侵攻を防いでいたってね。他の兵士さんたちが守りに加わってケンカしてたって言うのも教えてもらったんだよ」

「へぇ、よく勉強しているなぁ。感心感心」

「ランガ様は歴史の授業がとても得意でいらっしゃいます。この程度は驚くに値しませんよ」


 ナイスフォローだ、アーミラ。

 ガエリオは納得がいったのか、ふぅんと頷くと馬車の操縦に意識を戻す。

 ……ふぅ、何とか誤魔化せたようだ。

 馬車は門の中を通り抜け、街中へ入る。


 城壁の物々しさとは逆に、アレーシアの街は活気に溢れていた。

 其処彼処に美しい彫像が建てられ、人々は華やかな服を着て街を歩いている。

 立ち並ぶ店もオシャレで食べ物屋は行列が出来ていた。

 俺たちの住んでいた街にも繁華街はあるが、それを十倍くらいにした賑やかさだ。


「ヒュウ、ここがアレーシアか! 中々華やかな街じゃあねーの! 気に入ったぜ!」


 親父が辺りを見渡し、口笛を吹く。

 その視線は水着のような肌色面積多めファッションをしている女性へ注がれている。

 このスケベ親父、口元がだらしなく緩んでいるぞ。


「それはいいとして……なんだか獣人が多い街だね」


 俺は街に入った時から感じていた違和感を口にする。

 街には獣人の子供が人間の子供と仲良く遊んでおり、大人の獣人もごろつき風ではなく、真面目に暮らしているように見える者ばかりだ。

 つまり、獣人がここで生活しているという事である。

 他の街では見られぬ光景だ。


「あぁ、ここは少数だが獣人たちが暮らしているんだ。大戦が終わって孤児となった獣人たちの為に、孤児院や病院が建てられているんだよ」

「へぇ、この街の偉い人は、随分と理解があるみたいだね」


 普通の街には獣人にインフラを割くソースはない。

 この街の豊かさと、獣人に対する理解が奇跡的にそれを生んだのだろう。

 会議が企画される時点で奇跡なくらいだ。


「うん、僕も尊敬している人物だよ。彼の手腕は確かなもので、かつて魔族との戦いで最前線になっていた事を利用して、観光名所として売り出したんだ。物資も潤沢にあったので、それで一気に発展したんだよ」


 そう言われてみれば、立ち並ぶ彫像は勇者パーティや他の英雄たちのものばかりだ。

 かつて戦った者たちの顔が並んでいるのは、あまりゾッとしないな。


「それに終戦間もなく、一人の獣人が街を訪れ色々と働きかけていたらしい。おかげで街の人間も、ある程度獣人に対する理解があるのさ」

「へぇー」


 あの大変な時期に、ねぇ。

 随分と立派な獣人もいたものである。


「あっ! 見てくださいランガ様! あそこの広場にランガ様の彫像が!」


 アーミラの指差す先には、魔軍四天王、鬼王ランガの彫像が飾られていた。

 勇者と対峙し、ボロボロになりながらも大剣を構えている姿を彫られている。

 おいちょっと待て、なんで俺の彫像があるんだよ。


「鬼王ランガだね。勇者と戦いその天晴れな戦いぶりからこの街でも人気が高いんだよ」


 そういえばそんな事言ってたっけ。

 親父もそんな鬼王になぞらえ、勇敢な男になるように……とか言って俺にその名を付けるくらいだからな。

 それにしても彫像が作られる程とは聞いてないぞ。


「あれは第七次大戦時、勇者たちの闇討ちにて総崩れになった友軍を逃すべく、単身勇者に立ち塞がり戦ったランガ様の姿ですねっ! 本物の凛々しさには到底及びませんがこれはこれで悪くありません。近くでじっくり見たいですね!」


 しかしアーミラは大興奮だ。

 目をキラキラさせながら詳しいエピソードを語ってくる。

 あー恥ずかしい恥ずかしい。

 穴があったら入りたいぜ。


「おお、詳しいね。アーミラちゃんは鬼王が好きなのかい?」

「ええっ! それはもう! あの彫像、持ち帰りは可能なのでしょうか!? 私の寝室に飾りたいのですがっ!」

「ははは、面白い冗談を言うね」


 ガエリオは笑っているが、確実に冗談じゃないと思うぞ。

 こいつならやりかねない。マジで。


「おうランガよ、この鬼王がお前の名前の元ネタだぞ? 初めて姿を見れて嬉しくないのかよ?」


 親父に絡まれるが無視だ。

 もちろん全く嬉しくはない。

 かつての俺の姿なんて、昔飽きるほど見ていたからな。

 ため息を吐いていると、遠くでゴォンと鐘の音が鳴った。

 どうやら昼時のようである。


「おっと、もう昼か。少し早く着いてしまったし、ここらで昼食を食べてからいこうか」

「おお、それはいいですなガエリオ殿。腹ペコで死にそうでした!」

「アーミラちゃん、昼食を終えたら鬼王の彫像をゆっくり見ていくといい。土産屋さんに行けばミニチュアの彫像もあるんじゃないかな?」

「はいっ! ぜひっ! 一緒に行きましょうねランガ様っ!」

「ハハ……」


 思わず乾いた笑いが漏れた。

 もう好きにしてくれって感じである。


 メシ屋に行くと、鬼王ランチセットや鬼メシ、鬼ドリンクなんてよくわからないものまであった。

 いくらなんでも事業展開しすぎだろうよ。

 しかも土産屋には俺が昔使っていた愛刀のレプリカまで置いていたし。

 やれやれ、全く以って人間の考えというのはよくわからん。

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