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新生活

 ――魔軍四天王の一人、鬼王ランガだった俺は勇者に打ち果たされ、人間の身体に転生した。

 かつては仲間に持ち上げられて闘いに身を投じてしまったが、俺は本来気ままに暮らしたい性格。

 かつてのような生活はまっぴらごめんだ。

 今度こそ平穏な人生を過ごして見せる……そう望み、普通の子供を演じて暮らしていたのだが、ある日元副官であるアーミラと再会する。

 俺と同じく人間に転生したアーミラは俺の家に住み着く事になったのだ。


 更には同じく四天王だった、死王レヴァノフとも再開してしまう。

 奴はかつての俺を嵌めた張本人だった。

 人間社会に溶け込んでいた奴を何とか親父のフリをして俺の正体を隠したまま倒したものの……やれやれ、平穏な日々を過ごすってのは大変だぜ。


 ■■■


「よぉーし! ここが俺たちの新しい家だぞぅ!」


 親父のダリルが大きな声を張り上げる。

 目の前には以前のぼろ家より一回り大きな家だった。


「ふふん、言っておくがな、こんな立派な家に住めるのも俺が昇進したおかげだぞ? 忘れるなよ、子供たち」

「はは……流石だね。父さん」


 自慢げに笑う親父に、俺は愛想笑いを返す。

 軍の偉いさんに化けていたレヴァノフを倒した事で、親父は出世したのだ。

 まぁ倒したのは入れ替わった俺で、親父は眠らせていたのだが。

 何が起きたか憶えてないはずなのに、よくここまで偉そうに出来るよな。

 そのおかげで以前のぼろ家からこの家に引っ越すことになったので、文句はない。

 ……と言っても借家なんだけど。


「まぁ素敵ですわ。これだけ広いと掃除のし甲斐もあるというものです」


 銀髪のメイド服を着た少女、アーミラが嬉しそうに言う。

 身寄りのない少女としてここへ来たアーミラは、ウチで世話になる代わりにメイドとして働いているのだ。


「まぁ待てアーミラちゃん。引越しの片付けは俺がやっておくからよ、ランガと一緒に買い物に行ってくれや。夕食の買い物とか、必要だろう?」


 意味深にウインクなんかしてくる親父。

 適当にデートでもしてきな……とでも言いたそうな笑みだった。

 それを聞いたアーミラはにっこりと満面の笑みを浮かべる。


「あら、あらあらまぁまぁ。そうですわねぇ。えぇ、そうですとも! えぇ!」


 一瞬にして高まるアーミラのテンション。

 嫌な予感を感じ、逃げようとした俺の腕をがっちりと掴む。

 くっ、疾い。


「ランガ様、今日は引越しのお祝いです。精の付くものをたーんと、それはもうたーんと食べましょうね。その結果夜も眠れなくなるほど興奮してしまわれても大丈夫です。ランガ様がいきり勃ち、暴走してしまっても私が優しく受け止めて差し上げます。少しでしたらその、乱暴にされても大丈夫ですので……きゃっ♪」


 可愛らしく両手を頬に当たるアーミラ。

 きゃっ♪ じゃねーよ。

 真っ赤な顔でイヤイヤと頭を振るアーミラにドン引きだ。

 昔から俺に好意を向けてくるアーミラだが、重い。病んでいる。歪んでいるのだ。

 全く、黙っていれば美少女なのに勿体無い。


「がっはっは! モテモテだなぁランガよ! ほれぃ、いいから行ってこい! 男なんだから、ちゃあんと奢ってやるんだぞ!」

「……へいへい」


 親父から小銭入れを受け取ると、俺は街へ繰り出すのだった。


 ■■■


「おやランガ様、どちらに向かわれるのですか?」


 商店街を抜ける俺に、アーミラが問う。


「ここは中流階層が買い物をするところだからな。結構値段が高いだろう? だから今まで通り下町で買う」


 引っ越したのは中流層が住む中央街。

 確かに近くで勝った方が便利なのだが、何せ高い。

 ニンジン一本にしても下町で買うより一割増しくらいなのだ。

 一つ二つなら大した事ないだろうが、俺たち三人分となると馬鹿にならない。


「ランガ様、すっかり主婦のようになられて……おいたわしや……」

「……ほっとけ」


 ずっと親父と二人暮らしで家計簿を握っていたからな。

 小市民の感覚が染みついてしまったのだ。

 それに下町の皆には今まで世話になってたしな。


 街の中心にある大通りを抜けると、今まで住んでいた下町だ。

 行き慣れた商店街へ足を向ける。


「いよっ! ランガちゃんにアーミラちゃんじゃないか! 昨日から中央住まいなのに、わざわざここまで買い物に来てくれたのか?」


 話しかけてきたのは魚屋のおじさんだ。

 俺はにっこり笑って駆け寄る。


「うんっ! おじさんのお魚が美味しいから、ここまで来たんだ!」

「おいおい、可愛い事言ってくれるじゃあねぇかよ。ランガちゃん」


 満面の営業スマイルに、魚屋のおじさんは嬉しそうだ。

 子供の身体っていうのはこんな時に便利だ。


「今日のおすすめはブリとカレイだよ!」

「じゃあそれくださいっ!」

「まいどありっ! 引っ越し祝いにこいつも持っていきな!」


 おじさんはそう言うと、大きなエビを三尾もおまけに入れてくれた。


「ありがとうっ! また来るね!」

「へっ、いいって事よ! これからもご贔屓になっ!」

「うんっ!」


 大きく手を振って、魚屋のおじさんに別れを告げる。

 ふっ、かなりお得に買うことが出来たぜ。


「かつての雄々しく力強かったランガ様も魅力的でしたが、こう可愛らしい仕草のランガ様もこれはこれで……ハァハァ……」


 口元を押さえ、息を荒らげるアーミラ。

 吐血か鼻血か知らないが、手元からちょっと血が漏れてる。


「……置いてくぞ」

「あぁん♪ 待ってくださいランガ様ぁ!」


 あぁん♪ じゃねーよ。

 俺はアーミラにドン引きしながらも、買い物を続けていった。

おかげさまで一巻が好評のようでして、二巻の発売が決定しました!

というわけで続きを書けます!

よかったらまた応援してください!

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