そんな結末
レヴァノフの気配はもはやない。
どうやら完全に消滅したようだ。
全くもって最後まで見苦しい奴だったな。
「お疲れ様です。ランガ様」
「……おう、お前もな。アーミラ。……そして皆は無事のようだな」
「それはもう、ランガ様の命ですから」
誇らしげに胸を張るアーミラ。
アーミラの張った魔力障壁で、ガエリオたちは無事のようだ。
「う……」
安堵しているとガエリオが呻き声を上げる。
どうやら目が覚めたらしい。
手を差し伸べようとして、気づく。
今、俺は親父の鎧を着て親父のフリをしているわけだが、いくら何でもこんな至近距離で見られたらバレてしまう。
しまった、どうしよう。あたふたしているとアーミラが何かを引っ張り出してきた。
「ランガ様、こちらに!」
慌てる俺の前にアーミラが差し出してきたのは、眠っている親父だった。
「こんなこともあろうかと、持ってまいりました」
「どこに隠していたかわからんが、とにかくでかしたアーミラ!」
俺は鎧を脱いで、眠っている親父に着せていく。
「時間も経ちましたので、もうすぐ目を覚ますものかと思われます」
「……何から何まですまんな」
痒い所に手が届く、雑な俺にアーミラのサポートは非常に助かる。
しかし早くしないと皆が目覚めてしまう……慌ただしくも、何とか親父に鎧を着せ終えた。
ふぃ、何とか形にはなったか。ちょっと着崩れているがそこまで直している暇はない。
俺は柱を支えにして、親父を立たせた。
しばらくすれば起きるだろう。
「あとは任せたぞ、アーミラ」
「ハッ、お任せ下さいませ」
小声でそう言うとあとはアーミラに任せ、俺は物陰に隠れた。
しばらくするとガエリオが頭を押さえて起き上がってきた。
「いてててて……」
「大丈夫ですか? ガエリオさん」
頭を押さえ起き上がるガエリオをアーミラが支える。
「っつ……あぁ、ありがとうアーミラちゃん。あの魔族は……?」
「倒しましたよ。……ダリル様が」
歯切れ悪く言うと、アーミラは柱にもたれかかる親父を見た。
それを見てパッと顔を明るくする。
「おぉ……ダリル殿……! あなたは何と素晴らしい人だ!」
ガエリオは親父に駆け寄り両肩を抱いた。
その拍子に親父が目を覚ましたようだ。
「ふにゃ……」
寝ぼけ眼でフラフラしている親父をガエリオが支える。
「大丈夫ですか!? ダリル殿! 傷は痛みますか!?」
「あ、アレ……ガエリオ隊長殿? これは一体……?」
「――――流石でございます。ダリル様」
親父の言葉を遮ったのはアーミラだった。
ずいと間に入ると、親父に説明するべく口を開く。
「元帥が魔族だと見破る見事な推理の末、完全に論破。あまつさえ誰も勝てなかった魔族を瞬殺してしまうとは……全くもって恐れ入ります」
ポカンとする親父に、続けざまに、説明口調で、言葉が並ぶ。
べらべらとよくもまぁ、これだけ嘘が並ぶものである。
全く持って優秀だ。こいつが味方でよかった。
「本当ですよダリル殿! いやぁあなたという人は、本当にすごい!」
ガエリオもそれに乗っかる。
「すごいすごいとは思っていましたが、まさかここまでとは思いませんでした! いつもとは打って変わったあの雰囲気! あれがダリル殿の本気というわけですね! 生の『鬼十字』を見れて光栄です! えぇ!」
未だ状況が呑み込めてない親父の肩を抱き、誉めまくる。
あの人も悪い人じゃないんだがなぁ……信じやすいというかなんというか……純粋すぎるのも考え物である。
そうしていると他の番兵たちやヴァーゴも起きてきた。
「あてててて……おう、ダリルじゃねぇか。驚いたぜ、強いだけじゃなく人間に化けていた魔族を見破るくれぇ頭がよかったとはなぁ。大したもんだ」
「全くだ! 街に入り込んだ魔物を瞬殺……ってー話、聞いたときは絶対嘘だと思ったが、マジだったんだなぁ」
「あの十文字切りが噂の『鬼十字』ってやつかい? とんでもねぇ斬撃だったぜ!」
皆に囲まれ、やんややんやと囃し立てられる親父。
純粋なのは他の人たちも一緒だった。部下は上司に似る……先刻の自分の言葉を思い出していた。
親父もまた、同様だった。
最初は戸惑っていた親父の表情が次第に口元が緩み始める。
「い、いやー、まぁ大した事ではないですがねぇ! ガハハハハ!」
それはすぐに大笑いに変わる。
どうやら調子に乗り始めたようだ。
俺はあーあとため息を吐く。
「魔族なんぞ、この俺の手にかかればチョチョイのチョイ! ってなもんですよ!」
そう言って手にした槍を十字に振るう親父。
俺は頭を抱えた。何故自分の記憶にないことでここまで調子に乗れるのか。
盛り上がった番兵たちが歓声を上げ始める。
「いよっ!『鬼十字』!」
「憎いね大英雄!」
胴上げが始まり、親父が何度も宙に浮く。
それにしても全員が全員、親父を疑いすらしないとは……この街の番兵隊がちょっと心配になって来たぞ。
「それだけランガ様の演技がお上手でした……と納得は出来ませんか?」
いつの間にか隣に来ていたアーミラの言葉に、俺は乾いた笑いを返すしかなかった。
ともあれレヴァノフも倒し、俺の正体もバレずに済んだし、無事一件落着といったところだろうかね。




