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決戦

「……なるほどのォ、そういうわけか。鬼っ子よ」

「そういう事だ。死にかけジジイ」


 睨み合う俺とレヴァノフ。

 その間でバチバチと火花が爆ぜるような音が鳴っていた。

 これは比喩でも何でもない。

 互いの魔力と魔力がぶつかり合う音である。

 同格の使い手がぶつかる事で、稀に起こる現象だ。

 その魔力の渦は周囲を巻き込みながら成長し、邪魔者を遮るバトルフィールドとなる。

 こうなるともはや、アーミラは邪魔でしかない。


「皆を連れて下がってろアーミラ」

「了解しました」


 それをわかっているのか、アーミラも俺の言う通り番兵たちを連れ、後ろに下がる。

 轟々と魔力の吹き荒れる中、俺とレヴァノフはじりじりと距離を測りながら、互いに仕掛けるタイミングを伺う。


「しかし驚いたぞ。貴様が確実に死んだのは、使い魔を通し確認していたのたがな?」

「確認だと?」

「クヒッ、貴様が勇者を前にして、逃げ出さんとも限らんしなァ? ……しかし成る程。つまりその身体、転生体というわけか? 人間に転生するなどと……ヒャハハッ、最下等種の鬼らしい無様な末路ではないか?」

「そんな人間の皮を被り、人間社会で隠れ潜んでいたお前に言われたくはねぇな」

「……減らず口を」


 憎々しげな言葉を漏らしながらも、レヴァノフを纏う魔力が揺れる。

 揺らぎは塊となり、右手に集まっていく。


「そのような貧弱な身体で受けられるか!? 漆黒魔導球シャドーボール!」


 レヴァノフの右手から魔力弾が放たれる。

 中級クラスの魔術。だがこの程度、何という事はない。

 俺はそれを右手を振るって弾き消した。


「っ……!? だ、だがこれならどうだ! 漆黒魔導連弾シャドーバレットッ!」


 驚愕の表情を浮かべながらもレヴァノフは魔力弾を連続して放ってくる。

 が、その悉くをかき消しながら、往く。


「馬鹿な! 何故ワシの魔術が効かないのだ!?」


 動揺するレヴァノフに更に一歩、歩み寄り――――


「たかだか魔力の塊程度で、俺の歩みを止められる訳がないだろう?」


 言い放つ。そして手にした槍を振りかぶり、突く。

 魔力を纏った槍による高速の突き。


「……くッ!?」


 辛うじて躱したレヴァノフの頬が裂け、鮮血が噴き出す。

 死霊術による死体操作は、肉体を丸々利用する。

 その血も、臓腑も、レヴァノフの魔力によりただ操作されているのだ。

 ――――元の持ち主の魂とは、全くの関係もなく。

 故に俺はただ、その身体を持ち主の元へ帰すのみだ。

 すなわち、速やかに塵へと還す。


「……たかが最下等種の鬼風情が、調子に乗りおって……!」


 何とか体勢を立て直したレヴァノフが悪態をつく。

 大きく後ろに跳びながら、巨大な魔力弾を放ってきた。

 ――――極大漆黒弾シャドークラッシュ、最強クラスの闇魔術。

 だが俺は臆することなく、槍を振りかぶり突っ込んでいく。


「おおおおおおおおおおおっ!」


 裂帛の気合を込めた斬撃が、巨大魔力弾を真っ二つに切り裂いた。

 高レベルの魔力弾は安定するまで対し体力はない。すなわち発生直後は威力が低いのだ。

 本来であればこんな使い方はしないだろう。

 しかし戦ってみてわかったがレヴァノフの実戦経験はゼロに近い。

 戦闘に使うべき魔力の使い方も、魔術の選択も、全くと言っていいほど分かっていない。

 いわば巨剣を持ったど素人。如何に一撃必殺の武器と言えど、使い手が悪ければ当たろうはずもない。


 霧散する魔力弾のすぐ横を通り抜け、レヴァノフの眼前に迫る。

 振り被った槍でがら空きの胴体を真っ直ぐに、薙ぐ。

 手応えは遅れてやってきた。

 斬撃は深々とレヴァノフの身体を裂き、鮮血が噴き出す。

 尻餅をついたレヴァノフにトドメを刺すべく、手にした槍に魔力を込める。


 ……思えばこいつには四天王時代、色々と世話になった。

 自分たちは魔術による後方支援だとか言って、俺の部隊に常に前線での戦いを強いてきた。

 足止め、囮、捨て駒……そのたびに俺の身体には傷が増え、部下たちが死んでいった。

 今更と言えばそれまでだが、恨みが消えたわけではない。

 こいつを消す理由は幾らでもある。

 それを思い出すと、俺の胸は殺意でいっぱいになっていく。

 膨れ上がった俺の殺意に、レヴァノフの全身がぶるりと震えた。


「――――終わりだ」

「ひっ!?」


 俺の殺気にレヴァノフは小さな悲鳴を上げる。


「ま、待て! いや、待ってください!お願いします!」


 レヴァノフの言葉に俺は手を止めた。


「……どうした。今更命乞いか?」

「助けてくれ! 四天王時代、一緒に戦ってきた仲間じゃあないか! な! 何でもする! だから、命だけは……!」

「一緒に戦ってきただァ……? 後ろで人をいいようにコキ使ってきた、の間違いだろう」

「ち、違う! ワシは後方支援が得意なタイプだから、それで……」

「テメェに足を引っ張られた事はあっても、支援を受けた記憶はないな」


 こいつと戦うと仲間が多く死ぬ、そうさせぬよう工夫して戦えば、命令無視として魔王様に告げ口をされてきたのだ。

 嫌がらせの域を超えた妨害……否、敵対ともいえる行為。

 そんなものを許せるはずがない。

 槍を、レヴァノフの指に突き下ろす。

 太くしわがれた指が吹き飛んで、コロコロと転がっていった。

 苦悶の表情で、声にならない悲鳴を上げるレヴァノフ。


勇者が来た(あの)時、俺をハメたのもどうせテメェの仕業だろうが。使い魔で監視したのがいい証拠、他の奴らの気配はなかったもんなァ?」

「誤解だ! ワシはお前の事を高く評価して――――」

『あの鬼っ子め、本当に気に食わん奴だわい』


 言いかけたレヴァノフを遮ったのは、本人の声だったた。

 アーミラの持つ魔道具、蓄音器からそれは発せられていた。


『だが勇者が何処から来るかわからぬと言って奴の部隊を小分けにさせ、本命の場所にあの鬼っ子を置いた……しぶとかったが、これで奴も終わりじゃろう! 敵の軍勢に突っ込ませても、格上相手にぶつけても、中々死にはしなかったが……まぁこれで奴も終わりじゃの。クヒヒッ、クヒャヒャヒャッ!』


 俺を嵌める為の算段をべらべらと語るレヴァノフの声は、ぶつんと音を立てて途切れた。

 蒼ざめるレヴァノフにアーミラは言う。


「あなたがランガ様を嵌めようとした、悪巧みの一部始終です。あなたがやっていたのと同じように、私も使い魔に見張らせておいたのですよ。そしてこれを魔王様に報告すべく記録していた……尤も使う機会は想定していたものではありませんでしたが」

「ぐ、ぐ、ぐぐぐぐぐ……!」


 悔しげに唇を噛むと、レヴァノフは諦めたように両手を付いた。

 そして、地面に頭を擦り付ける。


「す、すまない……あの時のことは本当に反省しているんだ……だから、頼む……命だけは……」


 声を震わせながらの懺悔。

 俺はしばし無言でそれを見下ろした後、くるりと背を向ける。


「ランガ様!?」

「……魔界に帰れ、そして二度と俺の前に顔を出すんじゃねぇぞ」

「おぉ……た、助けてくれるのか……!? すまん、すまん……!」


 何度も頭を下げるレヴァノフから一歩、二歩、三歩……と歩を進める。

 そこで、ゆらりと魔力が動いた。


「クヒャーーーッ!」


 奇声を上げながらレヴァノフが飛びかかって来た。


「馬鹿め、隙だらけだぞ! 首から腕をぶち込んで、グチャグチャにしながら脊髄引きずり出してくれるわッ!」

「ランガ様っ!」


 アーミラが反応し、咄嗟に俺を庇おうとする、その刹那。

 俺は既にレヴァノフの胴を薙いでいた。


「き、さま……気づいて……?」


 レヴァノフの身体が上下二つに分か断れ、口から大量の血を吐き出す。


「気づくも何もテメェのやり口なんざ、最初からお見通しなんだよ」


 土下座でも何でもして隙を作り、背後から襲う。

 レヴァノフの部下がそうやって敵を襲うのを何度も見て来た。

 部下というのは思った以上に上司に似るものである。


「オオオオオオオオオオアアアアアアアア!!」


 断末魔の咆哮を上げるレヴァノフだが、まだ終わってはいない。

 傷口から溢れ出た黒いモヤが俺から逃げようとしていた。

 アレはレヴァノフの本体ともいえるべき魂。


 無論、逃すはずはない。

 振り抜いた槍を握り直し、手首を返して上段から振り下ろす。

 魔力を込めた槍に触れた部分からレヴァノフの魂は分解されていき、霧散していく。


「……あんたも災難だったな、元帥殿。だがもうゆっくり休みな」


 十文字に切り裂かれた元帥の顔は、どこか安らいで見えた。

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