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相対

「くっ、くくくっ! ひははははははははっ!」


 狂ったように笑うレヴァノフ。

 そのあまりに異様な迫力に、全員が遠巻きに眺めるしかなかった。

 レヴァノフの笑いは、長々と続いた。


「ひぃ、ひぃ……クヒヒッ! はー、やれやれ、参った参った。よもや貴様のような凡百にワシの正体を見破られようとはな」


 ひとしきり笑い終えたレヴァノフの顔は蒼白く染まり、目は鋭くぎらつき、口は大きく裂け、歪んだ形相となっていた。

 まさしく魔族――――魔軍四天王、死王レヴァノフのものだった。

 その異形に気付いたガエリオが槍を向ける。それに他の番兵たちも続く。


「貴様……何がおかしいッ!」


 ガエリオの問いに、レヴァノフは下卑た笑みを浮かべたまま首を傾ける。


「おかしい……? あぁ可笑しいとも。貴様らの愚かさを笑わずにいられようか! 気づかぬふりをしておればその命、失わずに済んだものを……何故そう死に急ぐのだ? 馬鹿なのか? それとも大間抜けなのかァ!?」


 もはやレヴァノフは元帥としての振る舞いを止めていた。

 挑発するように、番兵らを見渡し嘲笑する。


「何ィ!? どう言う意味だ!?」

「それを言わねばわからぬか? クヒヒッ!」

「き、貴様ーーーッ!」


 激昂した番兵全員でレヴァノフを取り囲み、手にした槍を突きつける。

 逃げ場はない。――――ただしそれは相手が普通の人間であるなら、の話だが。


「全員、あの魔族を捕らえろ! 絶対に流すなッ!」

「クヒャヒャッ! 愚か愚かァ!」


 レヴァノフは笑いながら全身に魔力を込めた。

 と同時に、轟と禍々しい魔力の渦が吹き荒れる。


「うわあああああああああっ!?」

「ぎゃあああああああああっ!!」


 その圧倒的衝撃波に、番兵たちはたまらず吹き飛ばされてしまう。

 堪えているのはヴァーゴとガエリオ、そしてアーミラくらいだ。

 とはいえ熟練ではあるものの、ただの人間である二人は四天王の魔力は重過ぎる。


「っ……! す、すまねぇ隊長殿……!」


 すぐに膝をつき、気を失うヴァーゴ。


「ヴァーゴ……くっ……!」


 ガエリオも立っているのがやっとという状態だ。

 レヴァノフはそんなガエリオの頭を、足で踏みつける。


「が……っ!?」

「クヒッ! ワシは魔軍四天王、レヴァノフ様だぞ? 誇り高き魔族の、更に誇り高き最上位種なのだ! 貴様らのような凡百の雑兵如きがどうにか出来ると思っているのか!? クヒッ!」


 足に力を込めていき、ガエリオは頭を垂れ……ついに地面に押さえつけられた。

 そのままグリグリと踏みにじるレヴァノフ。

 擦れた部分が砂で傷つき、血がにじんでいた。


「愚かよなァ? あのまま黙ってさえいれば、あの男のように死なずに済んだものを……ゲンスイだったか? クヒッ、大した力もない癖にワシを止めようとして、結果このざまよ! 奴の死に際を教えてやろうか? 軍内部に潜り込んでいたワシを見つけ、無謀にも戦いを挑んできたのだよ。勿論勝てるはずもなく、あっさり返り討ちにしてやったがな。しかしワシはそれを不思議に思った。見過ごしておけば無為に死ぬこともなかっただろうにと。死にかけの奴に問うたのだよ。だが奴が言ったセリフが傑作でな。クヒッ、『正義の為に、貴様のような悪党を見過ごすわけにはいかん! 勝ち目がなくとも戦うのが騎士としての務め!』だとよ! クヒヒヒ! ヒハハハハハハハハハ!!」


 レヴァノフの勝ち誇った笑いが辺りにこだまする。

 しばらく馬鹿笑いは続き――――


「……ふっ」


 と、微笑が聞こえた。

 声の主は地に付したガエリオだった。


「……何がおかしい」

「やはり元帥殿は私の思った通りのお方だ、と思ってな」


 ガエリオはそのまま頭を動かし、レヴァノフを睨み上げる。

 ぶちぶちと綺麗な金髪が切れ、頬が土に塗れようと気にする事なく。


「元帥殿の行為はとても立派なものだ! 力及ばずとも騎士として、力の限りを尽くす! それは人として当然のことだ! 私が同じ立場でも同じことをするだろう! ……魔族よ、貴様のような輩に我ら人類は屈しない!」


 そう言い放ち、ガエリオはレヴァノフの顔に唾を吹きかける。

 レヴァノフは一瞬、信じられないといった顔で目を見開くと、左手で頬をぬぐった。

 ぬるりとした感触に、こめかみがぴくぴくと痙攣する。


「……貴、様ァァァァァァァァァ!」


 怒りのままにレヴァノフは、ガエリオの頭を踏みつける。

 何度も何度も、何度も何度も。


「……ッ!」


 見かねたアーミラが飛び出そうとするのを、目で制する。

 まだだ、ここで飛び出せば、ガエリオに俺の正体を見破られる恐れがある。

 せめて、気を失うまでは……それを待つ俺とアーミラを見て、ガエリオは唇を動かした。


「に、げるんだ……! アーミラちゃん、ダリルさん……今のうちに……! 助けを……呼んで……」


 それだけ言って、ガエリオは目を閉じた。

 意識を失ったのだろう。

 満足したように、レヴァノフはガエリオを見下ろす。


「クヒッ、偉そうに言っておきながらこのザマよ! 愚か、愚か、まさしく愚かよなぁ! ……どうれ、次は貴様らの番……」


 レヴァノフは勝ち誇ったように笑いながら、俺の方へ視線を向ける。

 ――――が、既に俺はそこにはいない。


「な……?」


 ガエリオを抱きかかえ、離れた場所へと下ろした。


「かっこいいぜ、ガエリオさんよ」


 最期まで抗おうとする意志、助けを呼びに行かせるべく、時間を稼ごうとする状況判断力。

 まさに番兵隊隊長として申し分ない。

 俺はガエリオに声をかけた後、ゆっくり立ち上がる。


「……ふん、大した動きだが所詮ただの人間……」


 ――――と、そこまで言いかけてレヴァノフは表情を変える。

 すぐに気付く。四天王の魔力の奔流を受けながらも平然と佇む、俺とアーミラの存在に。


「な、なんだ貴様ら! 何故ワシの魔力を受け、立っていられるのだ!?」

「ふ……貴方程度の魔力に臆していては、我が主の横に並び立てませぬ故」


 アーミラが俺の横に立ち、言った。

 それを見てレヴァノフは気づいたようだ。


「貴様ら、まさか……!」

「そういう事だ、久しぶりだな。レヴァノフ――――」


 俺もまた、レヴァノフに応じるべく魔力を開放する。

 制御し、抑え込んでいた魔力が一気に放出される。

 俺とレヴァノフの魔力が混ざり合い、辺りは魔力の激流に飲まれてた。


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