糾弾
以前パーティを行なった砦にて、街の番兵たちが集まっていた。
俺が親父の名を使い、皆を集めたのである。
皆、理由もわからず困惑していた。
「おいおい、誰だよ俺たちを集めやがったのは」
「ガエリオ隊長じゃないんすか?」
「いや、僕は全くわからないが……」
「誰か説明できるやつはいないのかよ。……お、誰か入って来たぞ」
次第に声が大きくなっていく中で、大扉が開いた。
入ってきたのはレヴァノフである。
ゆっくりと左右を見渡した後、中央に歩み出た。
「む……どうしたのかね、こんなに集まって……」
不思議そうに声を漏らすレヴァノフに、ガエリオが駆け寄る。
「元帥殿! あなたが我々を集めたのではないのですか?」
「さぁ、私も呼び出されたものでね」
「なんと、では一体だれが……」
どうやらそろそろ頃合いか。
砦の二階、カーテンの中に潜んでいた俺は、踊り場に進み出ると手を叩いた。
階下の者たちの視線が俺に集まる中、全員に聞こえるように声を上げる。
「――――それは私ですよ」
「ダリル殿っ!?」
全員の視線が、親父の鎧をまとった俺に集まる。
よし、みんな俺を親父だと勘違いしてくれているな。
皆からは距離が遠く、逆光になっているので鎧を着ているだけでわかりはしない。
ちなみに声はアーミラの調達してきた魔道具で変えている。
抜かりはない。
そう、レヴァノフが元帥に化けた魔族だと証明するため、俺は色々考えた。
騎士団元帥として長年生きてきたレヴァノフである。今更そう易々と尻尾を出すまい。
子供の俺が追求したとて鼻で笑われるだけだ。
ならば、今や英雄となり発言権の増した親父ならどうだろうか?
十分な証拠、そしてやり方次第では追い込む事も可能なはずである。
そうとは知らぬガエリオが、こちらを見上げ声をかけてくる。
「一体どういうことですか、ダリル殿? 我々も暇というわけではない。行方不明になった少女を探さねばならないのですよ!」
「その犯人がわかった、と言ったらいかがです?」
「なんと……!?」
俺の言葉に皆がざわつく。
「そ、それは一体誰だというのですか!? まさかとは思いますが……」
「えぇ、そのまさかです。いるんですよ。この中に、犯人が」
「なっ……!」
ざわめきはさらに大きくなり、うるさいほどになった。
その中から一人が進み出て、俺を睨みつけてきた。
「おい! ふざけるなよダリル! テメェまさか仲間を疑ってるのか!? 間違いでしたじゃすまねぇぞコラァ!」
親父の同僚が怒りの表情で声を上げる。
街を守る番兵隊の、自分たちの仲間に犯人がいるなどと言われたら怒って当然だろう。
俺はそれを落ち着かせるべく、すぐに続きの言葉を話す。
「まぁ待ってください。この中の、と言いましたが正確には違います。犯人はこの中の人を殺し、入れ替わった魔族の仕業なのですよ」
魔族という単語に、その場の全員が驚愕の表情を浮かべた。
無理もない。魔族というのは魔界でも深部にいる存在。
基本的に人間界で見ることはないのだ。
「魔族……だと!? し、しかし魔族が侵入すれば気づくはず! 少なくとも大きな騒ぎになるだろうが! お前も番兵ならわかるはずだ!」
「えぇ、ですがその魔族は、正面から堂々と入って来たのですよ。我々の大歓迎を受けながら、ね。……この中に、つい数日前街へ来た人がいるでしょう。そして彼が来てから、誘拐事件が起こり始めた……!」
「まさか……」
皆、それに心当たりがあったようだ。
全員の視線が一点――――レヴァノフに注がれる。
「これをご存知ですかな?」
俺は畳み掛けるように一冊の本を取り出すと、階下へ落した。
ガエリオがそれを拾い、パラパラとめくる。
「この本は……魔界探索記?」
「えぇ、勇者殿が魔界に行った時の事を記した本です」
魔界探索記は魔王を倒し帰還した勇者が書いた、当時の魔界を綴る伝記である。
日々の戦いと様々な魔族の特性、戦闘方法、行動パターン、その他諸々が書かれたもので、読み物としても面白く瞬く間に人気となった。
特に魔物との戦闘がある番兵や騎士団では全員に配布されている。
俺も親父が持っているやつをこっそり読んだが、魔界生物を驚くほど正確に書き記されていた。
十年以上経った今でも書店に置かれている、大ベストセラー本である。
「この中に丁度、記されているのですよ。人を殺し身体を乗っ取る能力を持った魔族がね。どうぞ頁をめくっていって下さい」
俺の言葉の通り、ガエリオは本をめくり始めた。
静寂の中、パラパラと紙をめくる音が響く。
500頁以降は魔族の中でも最上位の者たち。
貴族や部隊長、副官クラスが記されており、アーミラの事も書かれている。
後ろに行くにつれ階位は上がっていき、四天王ランガの項目を通り過ぎた。
「そこです、589頁」
ぱらり、と頁をめくる手が止まる。
そこに書かれているのは魔軍四天王の一人、死王レヴァノフ。
能力欄の一つには、殺した者の肉体を乗っ取り我が物とすると記されていた。
「そう、子供たちを攫い、騎士団元帥と成り代わったのは――――死王レヴァノフ。お前だ!」
俺はゆっくりと持ち上げた右腕を、レヴァノフに向け真っ直ぐに突き付けた。




