死王、レヴァノフ
死王レヴァノフ。
奴は所謂、高位不死族という魔族だ。
高位不死族とは高名な死霊魔術師が不死を求め自らをアンデッド化した種族で、レヴァノフは更に年月を重ねた存在。
最高位不死族とでも言えばいいだろうか。
俺が生まれるより何百年以上も前から魔軍四天王を務める大古株だ。
魔王様より長く生きているとかいないとか。
性格は非常に生き汚く、とにかく往生際が悪い。
何せ力こそ全てという魔族社会を何百年という間、生き残ってきたのだ。
部下を盾にするなど朝飯前。
生き残るためなら敵に土下座もするし、何百という嘘も平然と並べる。
全滅の戦場からただ一人、生きて帰ったこともある。
生きるが勝ち、が口癖だった。
(多分あの後、勇者と戦ったんだろうが……当然のように生きているとはな)
奴の死霊魔術の一つに他者の死体を奪い、自らの肉体とする類のものがある。
それであの騎士団元帥の身体を奪ったのだろう。
独特の死臭が混じった魔力、間違いねぇ。
どうせ勇者にやられたフリをして、生き延びたんだろう。
(しかしあの野郎、何故この場所に……?)
まさかとは思うが俺に気づいたとか?いやいや流石にそれはないか。
あいつは術者タイプだから遠くから魔力を探知するすべは苦手なはず。
基本的に俺は殆ど魔力を抑えて生活しているしな。
それに魔力を察知して来たならば、俺にすぐ気づくだろう。
気づけば少しは顔に出るものだ。
(ならば本当に偶然……?)
とにかく警戒が必要だ。
アーミラには気取られぬよう普段通りにしておけと指示を出し、俺もまた同様にした。
子供らしく、食事に集中しながら耳だけをレヴァノフへ向ける。
レヴァノフは騎士団元帥として演説中である。
「……であるからして、騎士の栄誉というものは軽々に振りかざされるものではなく――――」
……それにしても大した演技力だ。
本来のレヴァノフとはかけ離れた、柔和で温厚そうな老人をよく演じている。
あれなら誰もが騎士団元帥として疑うまい。
「ふぉっふぉっ、まぁジジイのつまらん話はこれくらいにしておきましょうか。皆、眠くなるだけでしょうしな」
どっと笑いが沸く。
堅い話の中に柔らかい話を混ぜる事で、緩急をつける。
演説のツボもわかっているな。
「……おほん、皆の退屈を吹き飛ばすのは新たな英雄の誕生であろう。丁度この場に街を救った英雄がおられるので紹介したい」
ざわざわと観客がざわめく中、レヴァノフはこちらに向け手をかざした。
「ダリル殿、前へ」
「ふぁっはい!?」
レヴァノフの言葉に、飯を食っていた親父が泡を食ったように立ち上がった。
皆の注目が集まったのに気づいた親父は汚れた口元をゴシゴシとぬぐい立ち上がると、慌ただしく壇上へ向かう。
緊張しているのか、動きがぎこちない。
あーあー、キョロキョロしちゃって。恥ずかしい。
周りからはヤジが飛び、親父はそれに愛想笑いで応えている。
「いやー……参ったなこりゃ。タハハハハ……」
そんな親父にレヴァノフは、咳払いして向かい合う。
懐をゴソゴソと弄り、十字のついた勲章を取り出した。
「……ダリル殿。あなたは街を救う為、子供を助ける為、危険を顧みず魔物を倒した。君のような英雄を誇らしく思う。この勲章を受け取ってくれたまえ」
レヴァノフの差し出した勲章を見た親父は恭しく敬礼をし、ピンと背筋を伸ばした。
「……ハッ!有難く頂戴いてします!」
そして勲章を受け取る。
その一部始終をじっと観察していた俺は理解した。
レヴァノフは勲章に注意の向いた親父を、上から下まで舐めるように見ていたのだ。
(……なるほど、レヴァノフは親父を見に来たんだな……!)
魔物を倒せる人間は少なくないが、単身で、かつ圧倒的な力で倒せる人間は稀である。
例えば勇者、ないしはその仲間となるような力ある者。
レヴァノフとしては、そんな事態を放っておくわけにもいかない。
放置しておけば自身に仇なす存在になるのは明らかだからな。
偶然を装いこの街に訪れ、親父に勲章を与える名目で見に来たのだ。
御しやすそうであれば配下に加え、そうでなければ――――早々殺す。
(レヴァノフの表情から読み取れるのは……)
下等生物への最大限の侮蔑。
嘲るような厭らしい目で一瞥した後、縮こまる親父を見下ろし鼻で笑った。
わずかな仕草だったが間違いない。
あんな下衆い顔をするのは、俺の知る限りレヴァノフくらいだ。
親父の事を何かのまぐれか間違いで魔物を倒したと見破ったようだ。
……まぁ見るやつが見れば親父がただの一般人だなんて、すぐにわかるからな。
レヴァノフはすぐに元帥の顔に戻った。
「……では、これからも街を守るべく、番兵隊の手本となるよう邁進するように」
「ハッ!了解いたしましたぁっ!」
下した結論は、放置。
親父はこのままでいいという判断なのだろう。
壇上から降りた親父は同僚から冷やかされながらも、照れくさそうに笑っていた。
「フォッフォッ、爺がこんなところにいては皆さまお食事に集中出来ますまい。私はこれで失礼いたしましょうかの」
拍手に見送られ、レヴァノフは幕の奥へと消えていった。
「ち、ちょっと僕、トイレ!」
「あ! ランガ君!?」
ガエリオにそう言って、俺は奴を追う。
「私もです!」
「アーミラちゃんまで!?」
そんな俺を即座に追うアーミラ。
「女子トイレはあっちだよー!」
後ろの方でガエリオの声がむなしく響いていた。
俺に気づいてないとはいえ、奴を放置するのは危険だ。
奇妙な因縁を感じながらも、俺はレヴァノフを追うのだった。




