パーティ
――――あれから数日、街はすっかり平穏を取り戻していた。
変わった事と言えばレントンがチャンバラごっこにハマったくらいだろうか。
「うおおおおおーーーっ!! 『鬼十字』ッ!」
かきぃぃぃん! レントンが振り下ろす木刀を、俺は軽く受け止める。
そんなわけで今日もまた、俺とチャンバラごっこである。
……ま、俺が相手してやらないと、誰かが怪我してしまうからな。
「あー!おいランガ、『鬼十字』はガード不能技なんだぞー!」
しかしレントンは攻撃を悉く受け止められ不服のようである。
そんな事言われてもな……避けたら避けたで文句言いそうだ。
「ランガ様、そろそろ帰らないと」
遊んでいるのを見ていたアーミラが、声をかけてくる。
「あぁ、そうだっけ」
その言葉で俺は用事を思い出す。
木刀を返し、片づけを始める俺にレントンは不満そうな声を上げた。
「えー、なんだよランガ。まだ早いだろ」
「悪いな、今日は用事があるんだよ」
俺が謝ると、レントンは唇を尖らせる。
「むぅ……仕方ねーな。後で埋め合わせしろよなっ!じゃあな!ランガ、アーミラちゃん!」
レントンに別れを告げ、真っ直ぐに帰宅する。
まだ早い時間にも関わらず親父がおり、珍しく良い服に着替えている。
「ただいまー」
「おう、帰ったか二人とも。それじゃあさっさと着替えちまいな。すぐに出るぞ!」
「うん!」
俺もアーミラも、用意してあった余所行きの服に着替え、家を出る。
向かう先は番兵たちがいつも集まっている砦、今日はここでパーティが行われるのだ。
その主役は何と親父である。
街に侵入した魔物を倒し、子供を守った手柄で表彰されることになったのだ。
「ガハハ、俺に感謝しろよ~二人とも!」
「……はは」
豪快に笑う親父に、俺は乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
■■■
砦に着いた俺たちを迎えたのは、ガエリオだった。
演技がかかった動きで、恭しく頭を下げる。
「おお、よくぞいらした!英雄ダリル殿!」
そう言ってぱちんと片目を瞑った。
芝居っぽい動作も、自然と堂に行っていた。
うーん、イケメンって得だな。
ガエリオに煽てられ、親父は照れくさそうに笑う。
「ちょ……こ、困りますなガエリオ隊長殿……そんなに煽てても何もでませんぞ」
「なーに、そんな事言いながらもやる時はやる、それがダリル殿でしょう? 先日も色々か経ってくれたではありませんか! 魔物相手に子供を逃がすため、押されていたように見せかけておいてからのー……大逆転! 瞬殺撃! いやぁ胸躍りますねぇ!」
「タハハ……全く、隊長殿には敵いませんなぁー……」
「ははは、これからも期待していますよ!」
困った風ではあるが、親父はめちゃめちゃ嬉しそうだ。
あの調子だと相当ヨイショされたんだろうな。
「まぁ話は中で改めてしましょうか。みんな待っていますしどうぞ中へ」
「おおっ、そうですな! ほら行くぞ、ランガ」
「……はーい」
ガエリオに案内され、砦の中に入ると中は煌びやかなパーティ会場となっていた。
大きなホールには丸机が幾つか置かれ、その上には豪華な料理が並んでいた。
「うわぁー……!」
その光景に俺は、親父は思わず声を上げた。
テーブルに乗せられた皿にはマッシュポテトやビーフシチュー、トマトとチーズを交互に並べたサラダ、その中央には大きな海老がどん!と存在感を表していた。
流石にこんなのを見るとテンションが上がるな。
いつも食べているのは簡素な手料理だし。
「さぁ、遠慮せずに食べてください」
「美味え美味え!サイッコーだぜ!」
ガエリオの言葉より早く、親父は料理にむしゃぶりついていた。
ったく、品がないねぇ。
ガエリオはそれを見て、乾いた笑いを浮かべている。
呆れてみていると、俺の横でアーミラがボソッと呟いた。
「それにしてもこういったパーティはよくある事なのですか?」
「いや、俺も来るのは初めてだな」
「ダリル様がだらしなさすぎて、呼ばれなかったのでしょうか……?」
さらっと酷い事を言い出すアーミラ。
ひでーなオイ、気持ちはわからんでもないが。
「今日は王国から偉い人が来ているんだよ」
ガエリオが俺たちの会話に入ってきた。
「国を守っている騎士団の司令官殿が視察に来られていてね。これはその歓迎パーティなんだよ。ダリル殿の事を話すと会ってみたいと言うので、招待したんだ」
「……なーんだ、父さんはオマケだったんだね」
「ダリル殿にはナイショだよ?」
しー、と人差し指を唇に当てるガエリオ。
「美味ぇ!美味ぇ!」
親父は俺たちの会話に気づく事もなく、食事を貪っていた。
ものすごい勢いで、それこそ皿が無くなりそうなほどの。
……ってやべぇ、このままじゃ料理がなくなってしまう。
「あーっ!ぼくも食べるー!」
「ははは、ゆっくり食べておいで」
俺は今のうちにとばかりに豪華な食事を食べ始めるのだった。
「もっふもっふ、おいひぃでふね、ランガふぁま」
口一杯に食べ物を詰め込んだアーミラが幸せそうに言う。
俺もまた、海老を頭から丸齧りしていた。
「んむ、この海老のトゲトゲ感がたまんねえ!」
「……れふねぇ。もくもくもく」
至福のひとときを楽しんでいた俺だったが、不意に背筋に悪寒が走る。
……なんだ今の感覚、昔どこかで感じたような嫌な気配だ。
俺は食べるのを止め、アーミラの耳元で囁く。
「……何か感じなかったか?アーミラ」
「?特には何もですが……ろうかしまひたか?むぐむぐ」
「……なんでもない」
ダメだこいつ、俺以外の気配は感じ取れないらしい。
仕方なく俺が気配を探っていると、壇上の上からコホンと咳払いをする音が聞こえてきた。
「えー、皆さま。パーティ楽しんでいただけているでしょうか」
声の主はガエリオ、よく響くハキハキした声に皆の視線が集まる。
それを確認したガエリオは満足そうに頷いて続ける。
「ご注目ありがとうございました。えー、本日はなんと!王国騎士団司令官殿がいらしております!皆さま、盛大な拍手でお迎え下さい!」
「わああああああああああ!!」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチ。
鳴り響く拍手の中、壇上に現れたのは白髪の老人。
礼服に身を包み、胸には勲章を幾つもぶら下げ、細い目で会場を一瞥する。
俺は思わず目をそらした。
微量に薫る魔力の気配は、過去の俺がよく知っているものだったからだ。
(なんで奴がここに……!?)
その気配に俺は会った事がある
死王レヴァノフ。
魔軍四天王の一人である。