デキる隊長
あの後、通報を受けた番兵隊が駆けつけた。
そして俺とアーミラ、レントンは番兵たちから親父とゼルの戦いを色々と聞かれたのである。
「……てなわけで、親父さんが悪い魔物をやっつけてくれたんだ!」
レントンは興奮した様子で、『見たまま』を告げる。
番兵は信じられないといった顔で、何度も首を傾げていた。
「なんと……あの怠け者で、飲んだくれで、番兵隊抱かれたくない男ナンバーワンのダリル殿が……」
おいおい、ひどい言われようだぞ親父。
大体合ってるのが更に悲しいけど。
「あぁいや、信じてないことはないんだよ?子供はいえ三人が同時に見たというなら、間違いはないのだろうが……うーん、あのダリル殿がなぁ……」
「おいおい!本当だぜ番兵さん!親父さんスゲェカッコよかったんだぜ!?」
「ふーむ……まぁこの現場を見れば信じるしかないんだが」
荒れ放題となった川べりを見て、番兵は呟く。
激しい戦いで辺りは穴ボコだらけになっていた。
半分くらいは俺の仕業である。申し訳ない。
「……まぁそうだな、ありがとう君たち」
番兵は俺たちに敬礼すると、隊へ戻っていった。
それでも最後は信じてくれたようである。
レントンにあえて戦いを見せたのは正解だったな。
身内である俺とアーミラの証言じゃあ嘘だと思われただろうから。
「おい! もういいだろうが! いつまで俺を犯人扱いしてるんでぇ!」
「ダリル殿、これはただ話を聞いているだけで、別に犯人扱いなどは……」
「うるせぇ! おい、帰るぞお前ら」
苛立ちを抑えきれないといった様子で親父が声を荒げる。
「ちょ、待ってくださいよダリル殿! まだ話は終わっていません! 調書を書かないといけないんですから!」
慌てて番兵たちが止める中、一人の男が近づいてきた。
「やぁ君たち。駄目じゃあないか、街を救った英雄相手にそんな態度をとっては」
少し伸ばした金色の髪を後ろで括った男。
年齢は20くらいだろうか、背は高く、なかなかのイケメンだ。
男は番兵と同じ鎧を着てはいたが、兜には隊長を表す一本の白い線が入っていた。
「こ、これはガエリオ隊長殿!」
それを見た親父は、慌てて敬礼をする。
男――――ガエリオはにっこり笑ってそれに答えると、俺たちの方を向き直った。
爽やかに微笑むガエリオ。うーん、何というイケメンスマイル。
「ごめんね君たち、変なことばかり聞いてしまって。アメをあげよう」
「ちぇ、俺たちのことをアメで釣ろうなんて、安く見られたもんだぜ」
ガエリオの取り出したアメを見て、レントンは不機嫌そうに言った。
「ははは、ごめんごめん。じゃあアメはいらないかな?」
「そこまで言うなら貰ってもいいけどよ……」
でも速攻貰っている。
なら文句言うなよ。
「ほら、君たちも」
ガエリオは俺たちにもアメを渡してきた。
悪意や下心など全くなさそうな顔である。
俺はアメを受け取り、ポケットにしまった。
「ありがとうお兄さん」
「ははは、いい子だなー。でも僕はこれでもダリル殿と同い年なんだ。妻も子もいるしね。おじさんで構わないよ」
「えええっ!?」
俺たちは一斉に驚きの声を上げた。
「親父さんと同じって事は……35!?見えねー!どう見ても20くらいだよ!」
「うんうん、ガエリオさんかっこいいよね!」
「童顔なのは少しコンプレックスなんだが……ありがとう君たち」
やや複雑そうな顔で、ガエリオは苦笑いする。
肩やイケメン妻子持ちの隊長、片や妻に逃げられた哀れなヒラ番兵のおっさん……
はぁぁ、同い年でも差がつくもんだな。
「……んだよ」
「べつにぃ?」
俺がじっと見ているのに気づいたのか、親父はバツが悪そうな顔をした。
「それよりダリル殿!すごいではありませんか!街に侵入した魔物を撃退したらしいですね!」
「は……?」
いきなり褒められ、親父は目を丸くした。
ガエリオはうんうんと頷くと、更に言葉を並べる。
「いやぁ僕はダリル殿は本当は出来る男だと思っていたんですよ!普段の勤務態度はちょっとその……アレですが、実践訓練ではいつも成績上位ですしね。やる時はやる人だと思っておりました。しかし魔物を一人で倒してしまうとは……このガエリオ、感服いたしました」
「あー……いえ、まぁ大した事はありませんでしたがね!ガハハハハ!」
煽てられた親父は、機嫌をよさそうに大笑いする。
本当に単純だな……そしてガエリオも親父の扱い方をよく知っているようだ。
流石上司。
「その時の話、ぜひ詳しく聞かせて頂きたい! 今夜、酒場でいっぱいどうです? 奢りますよ!」
「おお! 了解でありますガエリオ隊長殿! ……いやぁやはり隊長殿は話が分かる! 見せたかったですなぁ、俺の『鬼十字』!」
「ほう……必殺技というわけですか? いいですねぇ。胸躍ります。また改めて手合わせを願いたい」
「ガハハ! 負けませんぞ!」
親父はガエリオに肩を抱かれ、満足そうに隊へと戻っていった。
どうやら親父は『鬼十字』が随分気に入ったようである。




