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身代わり

「うおっ!?ランガにアーミラちゃんじゃねぇか!なんでお前らがこんな所にいるんだ!?」

「親父……!」


 遠巻きに俺たちを見つけ、親父は慌てて駆け寄ってくる。

 殆ど顔の隠れたフルフェイスのメットに全身鎧といういつもの装備。

 どうやら哨戒中だったようである。

 しまったな……他の番兵にならまだしも、親父に見つかっちまうとは……!


「お、おいランガ!あれってお前の親父さんだよな!?」

「まぁ……そうだけど」

「た、助かった!おーい!助けてー!」

「!おう!今行く!」


 助けを求めるレントンに気づいた親父は、急いで川べりに降りてくる。


「てやんでぇ!俺が相手だ魔物め!」


 親父は啖呵を切ると、携えていた槍を突き出した。


「シュルルル……!」


 槍を軽く躱したゼルは親父を敵と認識したのか、触手を伸ばし反撃を繰り出した。

 それを槍で払う親父、ゼルとの戦闘が始まった。


「うおおおおおおお!!くたばりやがれぇぇぇ!!」


 咆哮と共に親父は刺突を駆り出すが、ゼルは全く怯むことはない。

 あっという間に形勢はゼルの優位に傾き始めた。


「くそ、このゼルやたらと強え……!」


 ただのゼルなら親父でも追い払えるくらいは出来るだろうが、相手はアーミラの魔術で強化されている。

 親父は無数の触手に追い込まれ始めた。


「おい!お前ら早く逃げろ!」


 親父が声を荒げると、レントンがハッとなる。


「そうだぞランガ!こっち来い!」

「ん……そうだな……」


 マズイな……レントン一人ならどうとでも誤魔化せたが、親父までいるとなるとな。

 ともあれ俺はレントンに手を引かれ、後ろに下がる。

 岩陰に隠れて様子を伺うが、旗色は悪くなっていた。


「やべぇよやべぇよ……親父さん、押されてるよ……大丈夫かよ……!」


 苦戦する親父を見て、レントンは慌て始める。

 無理もない。今まで自分たちを守っていた『頼れる番兵さん』が魔物にやられそうなのだ。

 しかしそれでも流石は『頼れる番兵さん』と言ったところか、親父は中々折れない。


「く……ぬおおおおーーーっ!」


 触手の一撃を何とか受け止めたものの、後ろには岩壁が迫っていた。

 このままではジリ貧だ。マズイな……何とかしないと……

 レントンもそれを察したようで、立ち上がり駆け出そうとする。


「このままじゃやられちまう!助けに行かなきゃ!」

「私たちが行ってどうなるのです。逃げた方が賢明です」


 それを制するアーミラ。

 正論ではあるが、子供であるレントンにはそれは受け入れ難い。


「だけどよぉ……」

「逃げて、助けを呼びましょう。それが良いです」


 言い争う二人。

 考えろ、何か手はないか……何か……!

 思考を巡らせていた俺の脳内に、電流が走る。

 ――――そうだ!これを使えば……!


「アーミラ、レントンと二人で逃げろ。助けを呼んでくるんだ!」

「何言ってるんだよランガ!お前も行こう!」


 俺は差し出される手を掴まない。


「……レントン」

「あ?なんだよ?早くしろってば」


 急かすレントンだが、俺の真面目な顔に気づいたようだ。

 改まって言葉を待つレントンに、重い口調で言う。


「俺はここに残る。アーミラを頼んだぞ」

「ランガ……お前……!」


 俺が何を言いたいか、レントンはすぐに感じ取ったようだ。

 すなわち、アーミラを連れて逃げろ、と言うことを。

 レントンは頷くと、アーミラの手を取る。


「……おう!わかったぜ!アーミラちゃんこっちだ!」


 そう言って走り出すレントン。

 レントンは単純だが、馬鹿ではない。

 口実を与えてやればやるべき事の優先順位くらいは理解できる。


「ランガ様……」


 心配そうに振り返るアーミラの目を見て、頷く。

 レントンを頼んだぞ、という意を汲み取ってくれたようで、すぐに追いかける。


「……お気をつけて」


 そう言い残して。

 俺は頷いて返すと、親父の方を振り返る。

 そうこうしているうちに親父はかなり追い詰められていた。

 ゼルの触手攻撃を何度も受け、鎧兜はべこべこだ。

 息も絶え絶え、鎧の隙間からは血がにじんでいるのが見える。


「や……ろう……ッ!」


 それでも闘志を失っていないのは流石といったところか。

 親父は未だ倒れずに、ゼルを憎々しげに睨みつけていた。


「シャーーー!!」


 そんな親父目掛け、ゼルは大きく振りかぶった触手を振り下ろす。

 ばきっ!と嫌な音がして、親父は思い切り吹っ飛ばされる。


「ぐはぁっ!?」


 親父は岸壁にぶつかり、土煙を上げた。


「親父さぁぁぁぁんっ!!」


 レントンの声が辺りに響く。

 アーミラもまた、心配そうな視線を向けた。


 ――――よし、いまだ。


 レントンの視線が切れたのを確認した俺は、両脚に力を込めた。

 みしみしと肉が軋む音が鳴り、地面がゆっくりと沈み込んでいく。

 十分に溜まった力をそのまま――――放つ。


 一足にて俺はゼルの隙間を縫い走り、土煙の中に突っ込んだ。

 濛々と立ち込める土煙の中では親父が目を回している。

 フルフェイスの兜を取ると……うん、どうやらまだ息はあるようだ。

 俺は安堵の息を吐きながら、手早く鎧を脱がしていく。


 こんなに傷だらけになって……だらしない親父だと思っていたけど、なんだかちょっと見直した。

 っと、感傷に浸っている暇はない。

 俺は脱がした鎧を――――着けていく。


「ちょっと大きいけど……うん、何とか着れるな」


 親父は小柄だし、俺も10歳にしては背が高い方なのが幸いしたな。

 少し……いやかなりブカブカだが、動けないことはない。

 ならば問題はなし。


 全身を鎧で包み終わった俺は、兜をかぶった。

 体型の隠れる鎧にフルフェイスの兜、手には槍。

 これならば俺の正体は悟られないはず。

 ついでに親父を隅っこに隠して……と。これでよし。


 準備が整ったところで、土煙が晴れてきた。


「シュー……?」


 目の前のゼルは、致命打を与えたはずの獲物が起き上がってきて驚いている様子だ。


「うおおおおおっ!親父さーーーん!」


 遠くでレントンが声を上げる。

 ちゃんと親父だと勘違いしているみたいだな。ならばよし。

 あとは門番、ダリルとしてこいつを倒すだけのこと。

 俺は槍を構え、ゼルに向き直る。

 さて、反撃開始と行こうか。


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