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夜の修行、2

「とりあえず、そのヌメヌメを取らないとな。近くに川があるから行くぞ」

「申し訳ありません。私の不徳の致すところでした。やはり私はまだまだです。もっと修行を積まねば……!」


 アーミラは闘志を燃やしていた。

 変にやる気にさせてしまったかもしれないな。

 ともあれ俺たちは街の近くを流れる川へたどり着いた。


「ほら、入ってきな」

「わかりました。……ところで、見ないでくださいね?」


 言うが早いか、アーミラはしゅるりと衣服を脱ぎ始めた。

 俺の目の前で、である。


「おまっ! 何してるんだよ!」

「何って脱いでおりますが……」


 思わずツッコむが、構わずするすると衣服を脱ぎ捨て全裸となる。


「見るなというなら見えないところで着替えろっての!」

「ふふっ、相変わらず初心うぶですこと。そう言うところも素敵なのですが」


 唇に手を当て、蠱惑的な笑みを浮かべるアーミラ。

 やっぱりわざとじゃねぇかよ。


「はぁ、全く……いいよ、俺が出ていくから」

「あら、残念ですねぇ」


 会話しながらもアーミラは相変わらず全裸のままである。


「お前は少し恥を知れ、恥を」

「ランガ様だけに特別、ですよ」


 アーミラはウインクを一つして、近くの岩陰に入っていった。

 全くもって困ったやつである。

 しばらくすると衣擦れの音が止み、ちゃぷちゃぷと水音が聞こえ始めた。

 水浴びを始めたようである。


「絶対こっち見ないでくださいねー!あとそこから動かないでくださいねー!」


 街の外には魔物が出現する。

 裸とはいえアーミラがここらの魔物に後れを取るとも思えないが、脆弱な人間の身体である。

 万が一という事もある……とアーミラに説得されたのだ。

 故に俺は、岩陰に待機していた。


「見ないでくださいね!私は今隠す場所も隠すものもなく、無防備な全裸を晒しているので、大切な部分や過激な部分が丸見えになっているので、絶対に見ないでくださいねっ!」

「うるせー!見てないだろうが!」


 妙にしつこいアーミラにそう返す。


「……ランガ様は押すなと言われて素直に押さないのですか?見るなと言われて素直に見ないのですか?フラグという言葉をご存じないのですか?」


 不満げによくわからないことを言い出した。

 何言ってんだこいつ。


「何をわけのわからんことを……最初から見ないと言ってるだろう」

「はぁ……おいたわしや……人の気持ちがわからないとは、何とも痛ましい事です。しかし王たるもの、愚民の心など知る必要なしと言ったところでしょうか……」


 大きなため息を吐くアーミラ。

 なんだか馬鹿にされている気がするぞ。


「いいから早く終わらせてしまえ」

「はぁ、そうですね。覗かれないのであれば、いつまで待っていても詮無き事ですし。全く、風情も何もあったものではありませんね」


 そう言うとアーミラは、さっさと上がり始める。

 魔術で濡れた服を乾かし、俺の前に出てきた。

 すぐ出てこれるなら待たせるなっての。


 ■■■


「さて、それでは修行の続きを始める。お前のな」

「はっ」


 改めてアーミラを従え荒野を歩く。

 アーミラは思った以上に魔力の制御ができていない。

 このままでは俺の足を引っ張ることになるだろうし、それはアーミラ自身望むことではないそうだ。

 だから鍛える。俺の平穏の為に。

 しばらく歩くとゼルを発見した、


「さて、お手並み拝見と行こうか」

「わかりました……!」


 そう言ってアーミラは構え、全身に魔力を漲らせていく。


「こらこら、そんなに魔力を駄々洩れにするんじゃない。夜の荒野とはいえ、そんなに魔力を出したら波動を感じ取って誰が来るかもわからんだろう。もっと押さえろ」

「は、はい!すみませんっ!」


 強い魔力を発現させると、離れた場所からでも察知される恐れがある。

 深夜、しかもこの辺境ならばそう感知できる使い手もおるまいが、万が一もある。

 この際だからアーミラに魔力制御も叩き込んでおこう。


「両掌に最小限の魔力を込め、ゼルの攻撃を弾け。身体強化の魔術をかけながらな」

「はい!……ってやぁぁぁぁぁぁ!!」


 元気よく返事をし、アーミラはゼルに向かっていく。

 触手を生やし反撃するゼル。

 アーミラはそれを丁寧に受けながら、ゼルに身体強化の魔術をかけていく。

 1回目、2回目、3回目……まずは順調なようだ。


「く……っ!」


 だが7回目辺りで、アーミラの動きが怪しくなってくる。

 動作は不安定になり、身体を纏う魔力にも安定感が失われ、ゼルの攻撃も捌ききれなくなってきた。

 このあたりが限界のようだ。


「よし、ゼルへの身体強化はそこまでだ!その状態で出来るだけ戦ってみろ!」

「……は、はいっ!」


 ゼルとアーミラのやり取りが始まった。

 触手を魔力を込めた手で叩き落とし、落とし、落とし続ける。

 俺から見ると遊んでいるようにしか見えないような速度だが、アーミラの表情は真剣そのものだ。

 その精度は徐々に落ちていき、次第に防戦一方になっていく。


「はぁ……っはぁ……! はひーっ! き、きついです! ランガ様!」

「まだだ! ギリギリまで粘れ! 限界を越えねば力にはならないぞ!」

「ひぎぃーっ! インテリ頭脳派の私にはしんどいですーっ!」

「いいから頑張れ!気合いだ!」


 泣き言を言うアーミラに俺は活を入れる。

 アーミラはベトベトになりながらゼルの触手を受け続けているが、そろそろ限界が近そうだ。


「おーい、もう無理かー?」

「ですーっ!」

「……わかった。では倒してよし」

「ふぎゅーーーーーーっ!」


 アーミラは情けない声を上げながら、魔力を込めた拳をゼルに叩きつける。

 めりめりめりめりと軋むような音がして、ゼルは遥か彼方へとぶっ飛ばされ、川の中へドボンと落ちた。

 うーん、飛んだな。


「はぁ、はぁ、はぁー……」


 アーミラは地面に身体を投げ出し、ぐってりとなる。


「おい、もうバテたのか?」

「ランガ様の……はぁ、修行は……ぜぇ、少々きつくて……」


 むぅ、だらしないが頑張った方なのかもな。

 俺の修業についてこれる奴は本当に少ない。

 部隊でもアーミラの他に数名しかいなかった。


「まぁ、よくやったよ」


 なので照れくさいが、一応誉めておく。

 アーミラの顔がパッと明るくなった。


「では……その……頭を撫でていただけますか……?」

「それは断る」

「えーーーっ!ひどいですーーーっ!」


 悲しそうな声を上げるアーミラだが、調子に乗りすぎである。

 俺は代わりに額をぺちんと叩くが……それでもなぜか嬉しそうだった。


 ■■■


 しばらくして修行を終えた俺たちが街へ帰る。

 まだ夜中、親父を起こさないように足音を忍ばせて家に入り、床に就く。

 尤も心配する必要もなく、親父はその間もずっと寝息を立てていたが。


「……ダリル様、全く起きる気配がありませんね」

「危機感ゼロだな。あれで門番が務まるんだろうかね」


 まぁ他の門番もいるし、大丈夫だと思いたい。

 布団をかぶるとすぐに睡魔が襲ってきた。

 身体を動かした後はすぐ眠くなるんだよな。


「ランガ様ぁー。夜は長いです。寝かせませんよー……むにゃ」


 アーミラの寝言を聞きながら、俺は寝息を立て始めるのだった。


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