転校生
「アーミラ=リリンラと申します。皆様、よろしくお願いします」
アーミラがぺこりと頭を下げると、教室が沸く。
レントンは立ち上がり、歓喜の声を上げていた。
やはりというか、アーミラは俺と同じ学校に入る事になった。
教会としても身寄りのない子供を放っておくわけにはいかないのだろう。
これもまた仕方のない事である。
「では席は……ランガ君の隣が空いてるわね。しっかりと面倒みてね」
「よろしくお願いしますね、ランガ様」
俺の隣の席に座ると、アーミラは嬉しそうに笑う。
「なぁなぁアーミラちゃん!また会えたなっ!」
レントンがアーミラの机に自分の机を寄せ、声をかけてきた。
先日、アーミラにスルーされたのは忘却の彼方のようである。
しかも魅了の瞳で操り人形にされていたのも忘れて……能天気で結構なことだ。
だがアーミラはしつこい男をとても嫌う。
昔は今以上の美貌であったアーミラは、軽薄で口の達者なナンパ男がよく声をかけてきたものだが、その悉くを瞬殺、血だるまにしたものだ。
頼むからいきなり流血沙汰は勘弁してくれよ……祈りながら見守る中、アーミラはレントンに向かって微笑んだ。
「あら、レントンさんでしたっけ?」
「おおっ!そうそう!レントンだよっ!憶えててくれたのかっ!?光栄だよー!」
なんと、普通に受け答えをした。
しかもあんなに興味なさげだったレントンの名まで憶えているとは。驚きだ。
「いやーアーミラちゃん、ここに越してくる事になったんだな!運命を感じるぜ!どこ住み?この後遊びに行こうよ!」
と、いきなりナンパを始めるレントン。
バッカこいつ、いきなり地雷を踏み抜きやがった。
慌てて止めようとするが、アーミラは平静そのものといった顔だ。
ったくひやひやさせてくれるぜ……
「ランガ様の家で厄介になっていますの。住み込みでメイドとして働いています」
と思ったら爆弾発言が投下された。
「なにーーーっ!?」
がたん!と椅子を蹴っ飛ばし、立ち上がるレントン。
他の者たちも興味津々といった顔でアーミラに寄ってきた。
「二人は一緒に住んでるのっ!?兄弟とかっ!?」
「兄妹?従姉妹?」
矢継ぎ早に繰り出される質問の数々に、アーミラは再度爆弾を落とした。
「家庭の事情でして、血の繋がりとかは特にありませんが……身も心も捧げた方です」
「「えーーーーーーーーーっ!!??」」
群がっていた全員が驚きの声を上げる。
その中にはクレア先生もいた。
「なになに!?どういうこと!?」
「二人はイケナイ関係なのっ!?」
「イケナくはありません。むしろ健全というか何というか……とても尊い関係なのです」
「じゃあ結婚!?結婚なの!?」
「それは……なんとも恐れ多い事ですが、そのように在りたいなとは常々……ぽっ」
「大人だー!」
騒ぎがえらい事になってきた。
クレア先生は真っ赤な顔で椅子にもたれかかり、目を回している。
「いけません。いけません。まだ年端もいかぬ子供でありながらなんと過激な……私ですら未だ経験していないような事を……あぁ!神よ!お許しください!」
ブツブツと虚ろな目で懺悔を始めるクレア先生。
完全に収拾がつかなくなっていた。
俺、しらねーっと。
■■■
騒ぎは適当なところで収まり、本日の授業は終わった。
クレア先生は終始疲れていた様子だったが……明日には戻っているといいな。
放課後になるや、アーミラは立ち上がり皆を見渡す。
「皆さん、よろしければ一緒に遊んで下さいませんか?」
意外な一言に、全員目が点になる。
俺は特にだ。あのアーミラが皆と遊ぶなんて言い出すとは……それどころか誘われても『お断りいたしますわ』とか言い出しそうなのに……一体どういう風の吹き回しだろうか。
「はいはいはーーーい!俺と一緒に遊ぼうぜ!アーミラちゃん!」
真っ先に手を挙げたのはレントンだ。
「じゃあ私も!」「僕もー!」
次々とアーミラの元に、皆が集まってくる。
おぉ、人気者だ。
「ありがとうございます。ところで皆さん、この学校では普段何をして遊ぶものなんですか?」
「そうだなぁ……色々あるけど、これだけの人数が集まるならやっぱ鬼ごっこだろ!今一番熱い遊びなんだぜ!な、みんな!」
「うんうん」「さんせー!」
レントンの答えに皆が賛成する。
「まぁ、いいですね!楽しそう!」
「じゃあ外に行こう!」
「わーーーい!」
ガヤガヤと騒ぎ立てながら教室を出て行く皆を傍観する俺に、アーミラは手を差し出してきた。
「さ、ランガ様も参りましょう」
「……おう」
皆と仲良くするのは平穏の第一歩。別段断る理由もない。
俺はアーミラの手を取り皆に続くと、今一番熱い遊びに興じるのだった。
■■■
「ふぅ、鬼ごっこ楽しかったですね、ランガ様」
「……まぁな」
夕焼けの中、俺はアーミラと共に帰宅中である。
意外というかアーミラは皆と仲良くし、すぐに溶け込んでしまった。
俺に『ランガ様』というあだ名がついたのは少々計算外の事だったが……
「どういう腹づもりだ、アーミラ?実は子供好きだったのか?」
「子供は好きですよ。無垢で、純粋で、素直で」
アーミラは微笑を浮かべたまま、続ける。
「それ故に染まりやすく、御し易い。ランガ様の下僕として教育するのにうってつけですから」
「おいっ!」
「ふふっ、冗談です」
くすくすと笑うアーミラだが……全く冗談に聞こえなかったぞ。
物騒なのは相変わらずである。