治癒の少女1
新しい仲間候補の登場です。念願の女の子が書ける。
ちょっと楽しみです。
マイトが僕たちの仲間になってから一週間が経った。
彼はここ数日、ギルドのカウンターで勉強に明け暮れている。曰く――。
「とにかく勉強すればいいんだろ。片っ端から勉強して、さっさとランクアップだ!」
とのことらしいが、一度Eランクと決まった以上、しばらくは勉強と並行して、いくつかの依頼を受注して昇給ポイントをためなければいけない。しかし、サイトはそのことを教えるつもりは無いらしく、マイトの家庭教師を買って出ていた。
そんなふうに二人が忙しくしているため、僕とミアは自由時間ができ、今日は久々に森で採取をしていたのだが……。
森からの帰り道、僕はミアに肩を貸しながら帰路についていた。
探索中、ミアが足を挫いたのだ。怪我の程度はわからないが、歩くと痛みがあるらしい。彼女は自分で帰れると言い張っていたのだが、見るに見かねて僕が連れて帰ることにしたのだった。
そんな帰り道のことだった。街の広場に人だかりができていた。
「どうかしたんですか?」と人だかりの人々に訊ねると、おじさんの一人がこたえてくれた。
「あぁ、ハンターさんか。良い腕を持ってる治癒術師が無料で直してくれてるらしくてね。農作業とか狩りとかで怪我した人たちが集まってんのさ。このご時世に、親切な人もいたもんだってね」
「へぇ……。珍しいこともあるもんですね」
治癒術師――。回復魔法や治癒魔法を主に扱う人たちの総称だが、実は治癒魔法や神聖魔法と呼ばれる魔法は適性が無ければ発動させることさえ難しい。その上、神聖魔法の使い手や資料のほとんどは教会が管理独占しているし、治癒術が使える人の大半は、王都の軍隊で雇われているのがほとんどだ。
それが、王国の片田舎にあるベルベックの街にまで来ているというのは珍しい。けが人や病人が列を作っているのも無理は無かった。
「見たところ、その子も怪我をしているみたいだし、診ていってもらったらどうだい?」
「そうする?」
僕がミアに訊ねると、彼女は頷く。やっぱり痛かったようで、ひょこっと足を引きずりながら僕に掴まって人だかりの中に入って行った。
「治癒力強化、ヒール」
人だかりの中では淡い魔法陣が広がっている。その中心には、両手に白い光を握りしめた女の子が、腕を怪我していた男の子に治癒魔法を使っている最中だった。
金色の髪に青い色の瞳。少し汚れたローブを羽織った女の子。どうやら僕やミアと同じようなハンターか冒険者なのだろう、旅人のような格好をしていた。歳はミアと同じくらいだろうか、小柄で優しそうな印象を与える。どこかあどけなさを持った彼女が治癒魔法を使うのは、一枚の絵画のように様になっていた。
「トリア、どうした。診てもらうぞ」
「あ、うん。行こう」
思わず彼女に見とれていたが、ミアに呼ばれてハッとする。彼女も僕たちに気がついたようで、ミアの様子を見て心配そうにしていた。
「すみません。ここで怪我を治してもらえるって聞いたんですけど」
「はい。ちょっとひどいみたいだね。ここに座ってみせてもらえる?」
ミアは少女の前に座ると足をみせる。足首が腫れて赤くなっていた。
「捻挫だとは思うんですが、一応骨に異常が無いかを見ておきますね」
両手を足首に向けると、両手が緑色に光る。
「これは。なんか……あったかいな」
「えへへ。診察用の魔法なの。怪我の程度とか、目に見えない異常までわかるんだよ。よかったね。骨に異常は無いみたい。普通ならしばらくは安静にしていないと駄目そうなんだけど、これならすぐに治せるよ」
彼女がそう言うと今度は両手が白く光り、ミアを中心に白い魔法陣が光る。
「自然治癒力を強化。傷ついた靭帯や組織を修復……]
彼女が呟いている言葉は半分も理解はできない。だが、ミアの足の腫れはみるみるうちに引いていった。
「はい。これで大丈夫だよ」
「本当に。まったく痛くないぞ」
治癒魔法が終わるとミアはその場で歩き、ジャンプまでしてみせる。その様子を見て、彼女は嬉しそうに微笑んでいた。
「ありがとうございます。あの……お礼とかは?」
「えへへ、そんなのはいりませんよ。それより、お二人はハンターですよね? 動けないと大変だよね。動けるようになって良かったよ」
「まったくだ。一時はどうなるかと思ったぞ。ありがとうな」
珍しく、ミアが人見知りを発揮せずに彼女にお礼を言う。すると少女も嬉しそうに頬を染めていた。
「あたしは治癒術師をしているエレクトラ=アレースです。エレクって呼んでくれたらいいよ」
「僕は魔術師でEランクハンターのトリアです」
「私はミア。双剣士でEランクハンターだ」
「トリア君とミアちゃんだね。二人もEランクなんだ。お揃いだね」
エレクはそう言うと目を輝かせる。正直、僕は彼女がEランクだとは思わなかった。ミアの怪我をすぐに治せるような治癒術師。少なくてもDランク。もしくはサイトと同じCランクくらいだと思っていた。
「私、お仕事でこの街にしばらくいることになったの。良かったら、また会いに来てくれるかな」
「もちろんだ。良かったら私が街を案内してやる」
「わぁ。ありがとう、ミアちゃん」
ミアはよほどエレクが気に入ったのだろう。自分から進んで話をしていた。ミアはきっとどこかのパーティに所属しているのだろうが、彼女のパーティが街に滞在している間は、二人はいい友達になれそうだ。
「こんなところにいたのか。おい、エレクトラ」
「あ……。ザッシュさん」
話している二人の元に、鎧をつけた男がやってくる。黒地に赤い狼の描かれた鎧。歳は20代後半くらいだろうか。彼がちらりと僕を見た瞬間、寒気が走る。赤い瞳をした、どこか恐ろしい男だった。そして、彼の後ろには同じように三人の男が立っている。鎧を着けた剣士が一人、槍使いが一人、そしてもう一人は杖を持った魔術師だった。三人も同じように、黒地に赤い狼の書かれた鎧やローブを身に着けていた。
「またこんなところで魔法を使っていたのか。来い。お前の魔法は慈善活動なんかで使っていいものじゃないんだ」
「ご、ごめんなさい。すぐに行きます」
エレクは荷物をまとめると彼らのもとに行く。その姿はどこか寂しそうに見えた。
「君たちは?」
「僕らはこの街でハンターをやっています。僕はトリア。彼女はミアです」
「へぇ。ハンター……ね。俺たちはDランクハンターのパーティ。闇夜の狼だ。しばらくこの街で厄介になる。一緒に仕事をすることは無いと思うが、よろしくな」
そう言うと彼は値踏みするように僕たちを見る。だが僕たちには興味が無かったようで。すぐに仲間と連れだってその場を去っていった。
「ミアちゃん、トリア君。またね」
そう言うとエレクは手を振って彼らの後を追いかけていく。徐々に離れていく彼女の姿を遠くに感じていた。