リローネの村への道3
インフルエンザでしばらく書けませんでした。
ようやく回復したので、再開します。
検問を抜けた僕たちは馬車の護衛をしながらリローネを目指す。
御者席には僕も同乗し、リズは荷物を足場にしながら、器用に周囲を見るように馬車に乗っている。
加えて、馬車の前方には長剣を持った青年と、後方には鎚を持った青年がそれぞれ同行していた。
彼らは元々、護衛依頼を受けていたハンターパーティー『青い斬撃』のメンバーだ。僕とリズが護衛を引き継ぐと聞いて、パーティーのうち二人が同行してくれたのだ。
商人の男性からしたら、人数は多いに越したことはないだろう。
何より、ハンターとは言え、非力そうな女の子二人の護衛より、武装した男の方が見た目にも安心だ――と僕は自分自身に言い聞かせる。
そんな中、後方から笑い声が聞こえる。
見れば、リズか鎚使いの青年と何事か話ながら、コロコロと笑っている。男の方もそんな彼女の反応に気を良くしてか、熱心に話しかけていた。
「あのー、トリアさん……」
「あ、はい。何ですか?」
「トリアさんは普段はどんな依頼をされてるんです?」
不意に声を掛けられたので反射的に返事をする。長剣使いの青年が僕の方を見ていた。
「ええと……、僕……、いえ、私はパーティーメンバーと巨獣討伐とか、後は街の警護とか……」
「そうなんですか。俺も普段は巨獣討伐とか、魔物討伐をしてまして。今度一緒にどうですか?」
「そ、そうですね。機会があれば……」
「あはは、よろしくお願いします!」
青年は顔を真っ赤にしながら照れくさそうにしている。そんな彼の反応を見ながら、僕はたぶん苦虫を噛み潰したような顔になっているだろう。なんだか複雑な気持ちだった。
というか、女の子と話すのに討伐の話とか、どうなんだろう?
共通の話題とは言え、彼の女性相手の経験値を物語っているようで心配になった。
「トリアちゃーん」
「うん? どうしたの?」
振り替えれば、リズかちょっと、と手招きしている。
彼女は顔を寄せると耳打ちをするように囁いた。
「なるべくにこやかに、でもガードはしっかりね」
彼女の表情は先程までと変わらない。
けれど後ろの会話は、なんとかリズをプライベートで誘おうとする青年と、それをかわす彼女といった構図に変わっていた。
「あの……、トリアさんは休みの日はどうされてるんですか?」
そんな後ろの様子を見て、前を歩く彼が僕に訊ねる。僕は精一杯にこやかに微笑むつもりで――、
「氷結魔術を少々」
なんて言いながら、近くの草木を氷結させる。彼が若干ひきつって、僕はホッと一息つくのだった。
………………。
盗賊が襲ってくる馬車には相応の理由がある。
一つは、護衛を雇っていない馬車だ。
小さい商店は護衛を雇う金が無かったり、たとえ雇えても実力の無いハンターしか雇えなかったりして、盗賊の標的になる。
もう一つは、実入りの良い馬車だ。
現金を輸送していたり、商隊を組んでいる馬車。多くの収益が期待できるのであれば、盗賊だって徒党を組んで襲ってくる。ただし、こういう場合はお互いに大きな被害が出る可能性がある。
だから盗賊の被害と言うのは、大抵は少数で小さい馬車への襲撃、前者のようなケースが大半を占める。
もっとも、仮に襲われたとしても必ずしも荷物の全てを盗られたり、皆殺しにあうことは稀だ。盗賊にだって持っていける荷物に限度はある。
素直に投降すれば、身ぐるみはがされることはあったとしても、命まではとられない。仮に、殺しまでしてしまったとしたら、討伐隊なんかが周辺の領主からおくられるかもしれない。
そういったリスクを回避するためにも、盗賊は目的だけを達成したら、余計なことはしない。さっさと逃げるのが常だ。
但し、命が取られなかったとしても、女性が乗っていれば襲われる可能性もあるし、子供なんかはさらわれて人身売買なんてこともあり得る。
そして今、僕たちはそんな状況の一歩手前まで来てしまっていた。
「これは……、見られてますね」
リローネの村まであと少しと言った林道に差し掛かった頃。リズリットはそんなことを言いながら、フードをかぶって、自然に荷物の影に身を隠した。
「わかるのか?」
とっくに『青い斬撃』の二人も気がついていたようで、二人とも自然に得物の柄に手を添えている。
手綱を握っている商人のおじさんが不安げな表情をするが、僕が周囲を見回さないように小さく囁いた。相手方に僕たちが気取ったことを察知されると、それはそれで困る。引いてくれるなら言うことは無いが、目を付けた以上、一気に襲ってくる可能性が出てくる。
「どうします? 姿が見えれば、先制攻撃も可能だと思いますけど」
言いながらリズリットが弓に手を添える。
僕も自然とポーチの中から三つほど小箱を取り出していた。
「まあ待て、むこうから手出しをしてこないなら、それに越したことは無い。何より、四人もハンターがいて、相手が襲おうとしてくるんだ。それなりの人数がいるのかもしれない」
鎚使いの彼に止められて、僕たちは攻撃は思いとどまる。
「人数の上で不利になれば、投降も考える必要があるが……」
剣士の青年が商人に視線を送れば、彼はさっと目を逸らしていた。
誰だって、苦労して運んできた荷物を諦めるのは嫌だろう。さすがに彼を責めることはできない。何より、投降した場合、僕とリズリットに対しては、危害が及ぶ可能性が考えられた。
「ここで捕まったら、しばらくは盗賊の慰み者ですかねぇ」
あはは~、なんて軽い調子でリズが言うが、僕としては笑えない。リズを見捨てるなんてことは考えられない。加えて、今の状況では僕だって狙われる可能性が高いってことだ。
「男二人に、女の子二人。相手は積み荷はもちろんとして、二人を狙っている可能性が高いか」
剣士の青年は黙考すると、戦いを決断した。
「いいだろう。リローネの村まであと少しだ、少し速度を上げて突っ切ろう」
「いいのか? 相手を刺激して、襲撃を受ける可能性が上がるぞ」
「覚悟の上だ。前方の敵のみ、俺たちが打ち破れば問題ない。後ろからの追手に対しては、リズとトリアが弓矢と魔法で牽制してくれ」
彼の言葉に頷きを返すと、彼らは得物を手に持って、馬車の前を走り始める。同時に荷馬車も速度を上げ、僕とリズもそれぞれの武器を手に持った。
「追ってきましたよ! 数は……、三人。それぞれ馬に乗ってます!」
「前方も確認、数は二人! 挟撃だ! 作戦通り押し通る!」
雄たけびを上げ、盗賊に向かう二人。僕は詠唱していた呪文を解放する。まだ距離がある彼らに対しては、魔術は届きにくい。『アイスジャベリン』を数発撃つと、氷柱が地面に突き刺さり、彼らの行くてを妨害した。
すかさず怯んだ後方の盗賊たちに対してリズが弓を引く。
まっすぐ飛んだ弓矢は彼らの馬の脚を射て、落馬した盗賊がもんどり打って投げ出された。
「やるじゃん」
「ありがと。次々行くよ」
リズが矢を放ち、彼らの馬を狙う。だが、さすがに警戒されているようで、二射目は盗賊の剣で弾き飛ばされた。
そうこうしている内に前方の盗賊たちとぶつかる。剣士の長剣と鎚使いの鎚がそれぞれ剣を構える盗賊たちを牽制し、あるいは武器をぶつけて押し返す。
「前方の二人だけ退けてくれたら、僕が『アースウォール』で彼らを妨害します!」
「わかった!」
僕の言葉に二人は盗賊を倒すのではなく、馬車を通すことを優先する。だが、そこまでが彼らの罠だった。
荷馬車を引いていた馬の体勢が崩れる。見れば、僕たちの進行方向に小さな穴が掘られている。簡単な落とし穴だ。足を取られた馬には効果は抜群で、荷馬車は動きを止めてしまう。
「最悪の状況だな」
走っていた二人が肩で息をしながら足を止める。僕とリズも荷馬車から降り、それぞれ武器を手に持つ。
背中合わせで立つ僕たちを挟み打ちするように、四人の盗賊たちが武器を手にしていた。




