リローネの村への道1
移動魔法を使ってベルベックに戻った僕とマイト。しかしながら、当初の目的をすっかり忘れていた僕たちを待っていたのは、呆れたように半眼になってリズを見るルーシーだった。
「おかしいですね~、トリア君」
「えっとですね。これにはやむにやまれない事情がありまして――」
そう、そもそも僕とマイトが街から出たのは、ルーシーからの物資の輸送依頼を引き受けたからだ。
「で、どうして女の子を連れて帰ってくることになるんですかぁ?」
なのに僕たちは輸送先のリローネにたどり着く前に、移動魔法を使って帰って来たのだ。ルーシーが呆れるのももっともと言うものだ。
仕方なく、僕たちはリズリットと出会った経緯と、彼女を僕たち『救いの手』に迎え入れることになったことを伝える。
話始めると、リズは落ち着きなくそわそわしていたが、話を終えた頃にはルーシーをみて「いやぁ、そう言う訳で~」などと言いながら照れたような笑みを浮かべていた。
「仕方ありませんね~。トリア君たちに任せて、何事も無く終わるとも思ってませんでしたし」
そんなふうにルーシーは嘆息すると、彼女はもう一度僕たちに向き直る。
「いいですよ。元々、お願いした輸送の依頼は荷馬車で商隊を組めば一週間弱はかかるものですから。今から改めて出発してくれれば、期日までには到着できるでしょう?」
「うん、もちろんだよ」
頷き返すと、「だったら問題ありません」と彼女は笑みを返してくれた。
「だったら、すぐにでも出発しないとな」
言いながらマイトは大剣を担ぐ。しかし、僕たちがリローネを目指すには少しばかり問題があった。
「とは言え、リローネへの道中には、たぶんラインリッヒ家の人たちがいると思うんだよね」
「あぁ、昨日の今日だしね。街道の途中にいるんじゃないかな?」
僕の言葉にリズが頷く。そんな僕たちを見て、マイトが首を傾げる。
「何言ってるんだ? だったら、リローネの街まで移動魔法で飛んで行けばいいんじゃないのか?」
それなら半日でつくだろうし、なんて言いたそうなマイト。
「それはできないんだよ」と僕は返すしかなかった。
「僕の使った移動魔法は行ったことのある場所限定なんだよ。だからベルベックには帰ってこれるし、たぶんDランクハンターの森とかにもいける。昨日キャンプした街道沿いの森にも戻れるとは思うけど、エステルに会う可能性もある。遠回りしてでも、他の道を選ぶしかないと思うんだけど……」
それだと納期に間に合わない可能性も出てくる。
どうしたものかと考えていると、「それならいい方法があるわよ~」なんてルーシーがニコニコと微笑んでいた。
………………。
「で、どうしてこうなるんですか!」
しばらくして、ギルドの受付には羞恥で顔を真っ赤にする僕の姿があった。
チェック柄の赤いスカートに、白いブラウス。旅用のマントを羽織っているが、頭には背中までとどくくらいのウィッグをつけて、ご丁寧に胸にはパッドまで入れている。いつもの杖こそ握っているものの、足元がスースーして落ち着かない。見た目、女の子になってしまった僕だった。
「いやいやいや、普通に可愛いと思いますよ、トリア君」
僕の隣にいたリズは、軽装の剣士服を着せられている。髪を纏め、胸当ても付けた彼女は、美少年と言っても納得できるような状態になっていた。
「やっぱり、似合うと思ってたのよねぇ~」
悪びれもせず、ルーシーがのほほんとそんなことを言う。
「ほらぁ、ラインリッヒ家の兵隊さんたちはリズちゃんと一緒に、魔術師の男の子と大柄な剣士を探しているんでしょ? だったら、ここは変装するのがセオリーだと思うのよね」
「だからって、なんで女装なんか」
「そこは完全に私の趣味よ。あとは……、遅延分の迷惑料として?」
趣味はともかくとして、遅れてしまっているのは事実なので、引き合いに出されれば僕には何も言えない。加えて、確かにこの格好ならリズや僕は正体がばれることはないだろう。
「あはは、トリア、似合ってるぞ!」
マイトは腹を抱えて笑っている。僕はそんな彼を恨めしそうに睨むが、そんな僕の様子を見て「かわいぃ」なんてリズとルーシーが目をキラキラさせていた。
但し、この方法には一つだけ問題があった。それは――
「それで、俺は何に変装すればいい?」
ひとしきり笑った後、マイトがルーシーに訊ねる。しかし、そこで彼女は困ったような苦笑いを浮かべる。
「マイト君は……、お留守番かな?」
「え? 何で?」
「いや、だって……。ねぇ?」
ルーシーが僕とリズに視線を向ける。
「つまり……、マイト君だと女の子に変装したところで似合わないし、商人とかに変装しても不自然。何よりいつも持ってる大剣が目立ち過ぎて、あっさり看破される可能性があるってことですかね?」
言葉を濁すルーシーの代わりにリズがバッサリと切って捨てる。
「まぁ、そうだよねぇ」なんてルーシーは頷き、僕も納得せざるを得なかった。
「マイトが一緒だと見つかる可能性が上がるだけだね。それなら、僕たち二人だけの方が安全か」
「駄目だよ、トリア君。『僕』じゃなくて、『私』とか『あたし』とかにしないと」
「いやいや、ボクっ娘の需要を舐めちゃだめよ~」
リズとルーシーがあさっての方向に盛り上がっていたが、無視することにした。
「いやいや、トリア。俺がついていかなかったら、戦いになったら困るだろうが。前衛無しの魔術師なんて、無防備もいいとこだろうが」
「それも困るんだけどね……。まあ、基本は輸送依頼だし、圧縮魔方陣もあるから大丈夫だよ。いざとなったら、また街まで飛んで帰るし」
マイトはまだ言いたいことがありそうだが、うまく言葉にできないのだろう。頭をガシガシと掻くと、何事か呻いていた。
「実際、私としても何事も無く行ってもらわないと困るのよねぇ」
僕とマイトのやり取りを見ながらルーシーが嘆息する。
「リローネの街に毛皮を届けてもらえないと困るのに、面倒事になるの前提だったり、街に飛んで帰るだの言われてると、私としても心配なのよ」
そんなルーシーの言葉にマイトと僕の頬を汗が流れる。
「こういう依頼は地味だけど、失敗したりすると他のギルドに迷惑かけることになるし、信用問題に関わるのよね。実際、一回は飛んで帰ってこられた訳だし……、失敗未遂っていうか~。サイト君はともかく、フリーダちゃんとかこの事聞いたら、どんな顔するかな」
マイトと僕の冷や汗が止まらない。
フリーダのことだ。「脳筋」とマイトを蔑み、僕には何を要求してくるかわかったものではない。
「わかった! 留守番でも何でもいい! 依頼を成功させればいいんだろ!?」
ルーシーの圧に負けたのはマイトだった。
「こうなったら仕方ねぇ。トリア、リズ、二人で行ってくれ」
「僕は構わないけど……。リズはいいの? その……、昨日会ったばかりの僕と一緒で」
「え? 私は別にかまわないよ」
僕の心配を他所に、リズはあっけらかんと応える。
「輸送依頼とか採取依頼なら、地元で何回もやってるし。二人だけって言っても、トリア君が相手なら、まぁ大丈夫かなぁ、って思うよ」
「そ、そう? そう言ってくれると僕としても嬉しいんだけど」
僕たちは顔を見合わせて微笑み会う。そんな僕たちを見て、マイトは若干引きつっていたが、その後ろを見るとルーシーがニコニコと僕たちに笑みを向けていた。
兎にも角にも、僕とリズの二人だけでリローネへと向かうことが決定した。
そんな僕たちを見て、マイトがボソリと――、
「トリアが知り合ったばかりの女と旅に出たなんて知ったら、あいつらがなんて言うか……」
と引きつった顔に止まらない汗を流していた。




