森の大男3
今日の分を更新です。
明日からちょっと忙しくなるのでペース落ちるかもです。
マイトとの勝負が終わった後、大変だったのは彼に使った拘束用の氷を溶かすことだった。
ただでさえ魔法でつくった氷は普通の氷よりも溶けにくいのに、ミアとの連携技で増幅させた特殊な魔法だったのだ。結局、僕の魔法だけでは溶かしきるのがいつになるかわからなかったので、サイトがいくらか手助けしてくれた。
氷がとけ切るころにはマイトの身体は冷え切っていて、ガタガタと震えが止まらないようだった。
「それで? Eランクハンターに負けた訳だが、これでもハンターは話にならない奴ばかりか?」
震えるマイトに悪戯っぽくサイトが訊く。さすがにバツが悪かったのだろう。悪かったと呟いていた。
「負けは負けだ。認めてやる。それで俺をどうするつもりだ? 自警団にでもつきだすのか?」
マイトはすっかり腹をくくったのだろう。大剣を地面に突き刺し、その場に座り込む。
「それもいいかもな」なんてミアが言っていた。
「そんなことはしないよ。それに、僕はハンターとしての戦いをしただけで、本当に一対一の戦いだったら、てんで相手にならなかったと思うしね」
言葉通り、僕たちが勝てたのは二対一、という状況だったからだ。これが一対一だったら最初の呪文を詠唱しているうちに斬り伏せられていただろう。ミアだけでも、たぶん結果は変わらない。
「マイト、俺たちと一緒に来ないか?」
憮然とした表情をしている彼にサイトが言う。
「どういう意味だ」
「言葉通りの意味だ。そもそも俺たちは、別にお前と勝負しに来たんじゃない。森に強い奴がいるから、パーティの一員にするために勧誘に来たんだ」
「冗談じゃない。俺が目指しているのは、最強の拳闘士だぞ」
「そうだな。けれど、トリアやミアと戦ってわかっているんじゃないか? ハンターの経験は拳闘士にとってマイナスにはならない。むしろ、最強を目指すのなら、こんなに条件のいい話はないだろ」
マイトはしばし黙考する。しばらくして、彼は大剣を手に立ち上がった。
「お前も強いんだろ?」
「試してみるか?」
「あぁ。俺を倒すことができたら、パーティの一員とやらになってやるよ」
マイトはそう言うと大剣を構え、振りかぶる。さっきまでと変わらない、力押しの一撃を振り下ろす。
「そういう、直線的なのは嫌いじゃないぜ」
けれど相手が悪かった。十秒後、マイトは地面に大の字になって昏倒させられていた。
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『誰よりも強い男になるんだ』
マイトの覚えている父親は、いつも彼にそう言っていた。
愛用の大剣を使い、何体もの巨獣や魔物を倒し、何人もの拳闘士を返り討ちにしていた。
父親は誰よりも強く、勇敢な拳闘士で、英雄と呼ばれていた。
『お父さんは世界で一番強いんだ』
それがマイトにとっての自慢であり、父親のような英雄になりたいと考えるのは自然なことだった。
『だがな、マイト。世界には俺よりも強い人たちがいるんだ』
『嘘だよ。お父さんより強い人なんている訳ないじゃないか』
『そう言ってもらえるのは嬉しいけどな。世界には、ハンターって言う冒険者がいるんだ』
父親が幼いマイトの髪をクシャクシャと撫でる。
『大きくなったら、マイトも冒険をしてみると良い。父さんも、そうして強くなったんだ』
マイトにとっては英雄と呼ばれる父よりも強い存在なんてありえないと思いつつ、いつかハンターに出会ってみたいとも思うようになっていた。
それは、彼のまだ幼かった、遠い日の記憶だった。
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「良かった。気がついたんだね」
「ここはどこだ」
「ここはハンターズギルド。覚えてる? サイトに思いっきり吹っ飛ばされたんだよ」
あの後、倒されたマイトをサイトが魔法でギルドまで浮かして運び、今は来客室のソファーで寝かされている。マイトは身体を起こすとまだ痛みが残っているのだろう。苦痛に顔を歪めていた。
「あいつは化け物かよ」
「仕方ないよ。サイトは僕とミアの先生でもあるんだ。僕たちなんかより、ずっと強いからね」
「先生? ハンターじゃなくてか?」
「ハンターでもあるんだけどね」
サイトが魔法や剣の才能を持っていること。異世界からの転生者だと言っていることをざっくり説明する。マイトはあまりわかっていないようだったけれど、とりあえず常識外れだっていうのは理解しているようだった。
「それじゃあ、さっそくハンター登録しようか?」
「まぁ、あそこまで叩きのめされたらな。約束通り、お前らの仲間になってやるよ」
マイトは僕の後に続いて受付に向かう。
「だがな。覚えておけよ。俺はすぐにでもCランクになって、あの野郎にリベンジする。もちろん、お前たちにも負けたまんまでいるつもりはないからな」
その言葉に僕はゾッとする。またマイトと戦うことになったら、今度はミアの身体強化などネタもばれているから、きっと対策を練られるだろう。そうなったら、今度は勝てる見込みが薄そうだった。でも――。
「僕だって強くなるからね。次も勝たせてもらうよ」
簡単には負けるつもりはない。一対一でも勝てるだけの実力を、僕も身につけるつもりでいた。
「登録したら、一応はハンターランクがつくんだろ?」
「そうだね。普通はFからスタートだけど、マイトならDとか……、Cがつく可能性もあるかも」
「そうなのか? だったら、再戦の日も近そうだな」
受付まで来ると、マイトはルーシーに登録用紙を貰う。それからランク査定の為に、簡単な筆記や実技に向かうのだった。そして結果は――。
「マイトさんはEランクスタートですね~」
「「「え!?」」」
ルーシーの決定に僕とミア、サイトが固まる。当の本人も困惑顔だった。
「ちょっと待て。Eランクってことはこのトリアやミアと同じってことか?」
「そうなりますね」
マイトの言葉にサラッと答えるルーシー。どうやら間違いではないようだ。
「どういうことか説明してくれ。単純な戦闘力だけなら、Dランクスタートでも妥当なはずだ」
「そうですね。戦闘力だけでハンターがやっていけるなら、Dランクでもいいかもしれません。でも、戦闘力以外の分野が絶望的だと、どうしようも無いと思うんですよ」
言いながらルーシーが筆記の用紙を出す。お世辞にも上手だとは言えない字で、問題に対する回答が綴られていた。
「第一問、ゴブリンの巣を叩く上での注意を述べよ」とサイトが問題を読み上げる。
「群れをつくって暮らしているから、大人数で包囲するように戦う必要があるね」と僕が答える。
「雌、子供を残すと繁殖の可能性があるから、巣の大元を叩く必要がある」とミアが別の答えを続ける。
「片っ端からぶった切る」とマイトが答えた。
「こいつは……」
「馬鹿だ。本物の馬鹿だ」
「ざっくり過ぎるよ、マイト」
サイトが天井を仰ぎみて、ミアが呆れたように呟く。
マイトの筆記はどうやらそんな答えばかりが書いてあるようだった。
「どれだけ戦闘力があっても、これでは……。まずはEランクからスタートして、ハンターとしての常識を身につけるところから初めてください。知識や経験が無ければ、命がいくつあっても足りませんよ?」
「つまり、勉強しろってことだな」
ルーシーの言葉にサイトが「やれやれ」と肩を竦めてみせる。僕たちのパーティ登録は、まだ前途多難のようだった。




