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僕たちのリーダーは異世界からの転生者のようです  作者: ぜっとん
トリアートと過去と復讐
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『転生者』を育てた者2

 随分と話しこんでしまい、ミアがサイトたちの元に帰ったのは夕日が沈む頃だった。

「こんな時間までどこにいたんだ」

 ようやく帰って来たミアに、開口一番、サイトが声を荒げる。だが、次の瞬間にはサイトの顔から血の気が引き、ミアの後ろに立つ女性を見て、表情は完全に引きつっていた。

「やあ、久しぶりだな、サイト。どうしたそんな面白い顔をして。私の顔に何かついているのかな?」

「ティ、ティルメシア……。あんたがどうしてミアと?」

 引きつるサイトにしてやったりといった表情のティルメシア。フリーダやエレク、カイゼルから見ても、二人の力関係がハッキリと見えるような気がした。

「なぁに。偶然森で出会ってね。今まで話し込んでしまっていたのさ。それでついついこんな時間になってしまってね。だから、時間が遅くなってしまったことについては多めに見ては貰えないかな?」

「いや、だとしてももう少し早く戻れただろ? だいたいティルメシアは――」

「ふむ。言い方を変えようか」

 何かを言おうとしたサイトに対し、ティルメシアの目がスッと細くなる。

「多めに見ろ、と言っているんだ」

 そして、次の瞬間にはサイトは何も言えずに肩を落とすのだった。

「あの……、サイトさん、紹介をしていただけますか?」

 そんな彼に対しておずおずとフリーダが声をかける。サイトはややげんなりした様子だった。

「こいつが俺の魔術の師匠で……」

「サイトの元嫁のティルメシアだ」

「怖気の走る冗談を言うな。ただの師弟関係だ。で、こいつらが」

「そっちの剣士がカイゼル君で、その眼鏡のメイドがフリーダ君。最後の女の子がエレクトラ君だな」

「何で知ってるんだよ?」

「事前にミア君から話は聞いていたからな。驚くようなことでもない。それより、今夜は時間も時間だ。夕食でもご馳走するから、家の中に入ると良い」

 ティルメシアに促され、サイトたちは家にあがることにする。すぐに夕食が準備されて、しばし夕食を囲みながら歓談するのだった。


「それで? 不肖の弟子が久々に訪ねて来たわけだが、私にからかわれる為に来た訳じゃないだろう。今回はどういった用件で来たんだ?」

 夕食後、出されたお茶を飲んでいると、唐突にティルメシアが切り出す。サイトはようやく話が進められると安心し、ほっと胸をなでおろした。

「俺たちは今、ある魔術書を探している。数年前にベルベックの街で起きた強盗事件で奪われた魔術書なんだが、『光滅の書』というものらしい。本の名前に聞き覚えは無いか?」

「『光滅』ね……。あいにくだが、そんな本は知らないな」

 サイトの言葉にあっさりと答えるティルメシア。だが、何か思うところがあるのだろう。腕を組み、しばし考えるように視線を宙に向けていた。

「何かしっているのか?」

「何、大したことじゃない。本は知らないが、『光滅』という言葉に覚えがあってな。だから、本のタイトルだけで内容を推し量るなら、たいそうな魔術書もあったものだと感心したんだよ」

 ティルメシアはそう言うと、家に置かれている本の中から、赤い背表紙の本を取り出す。それは、ベルベックのあるスピナ王国から海を越えて遙か北に存在する、カートリア聖公国の本だった。

「転生者であるサイトはまあ知らないとして、この中でカートリアについて知っているものはいるか?」

 カイゼルやミアはもちろん、商人として旅をすることもあるフリーダも覚えは無い。そんな中、おずおずと手を挙げたのはエレクだった。

「えっと……。神聖魔法を重要視している国……だよね?」

「エレクさん、行ったことがあるんですか?」

「ずっと小さい頃のことだけど、私に治癒術の才能があるってわかった時に、連れて行ってもらったの。私はそこで神聖魔法の初級魔法を教わったんだよ」

 エレクの話にフリーダやサイトが関心を示す。そんな二人を余所に、ティルメシアは話を進めた。

「『光滅』というのはその国では忌み言葉とされていてな。広義には森羅万象、自然の成り行きに反し、物事を捻じ曲げることを一般にそう言うらしい。そして、一部の地域では『不老不死』のことを『光滅』とも表現するのだよ」

「『光滅の書』は不老不死に関する書物の可能性がある、ということか」

 サイトの言葉にティルメシアは首肯する。

「じゃあじゃあ、もしかして本を読めば、不老不死になることができるのかな?」

「それは私にもわかりかねる。だが、『光滅』の名を冠した本だ。可能性は高いだろうな」

「凄いよ。不老不死なんて、たくさんの魔術師が研究してるのに」

 エレクは興奮したように表情を輝かせる。その反対にフリーダは表情を曇らせていた。

「そんな本をどうしてトリアさんのお父さんが持っていたんでしょう」

「それはわからないが、本の出所がわかったんだ。カートリア聖公国に行ってみれば、何かしらの手掛かりがあるかもしれない」

「私としては、君たちがカートリアに行くことは賛成しかねる」

「え?」

 ティルメシアの言葉に、サイトを始め、フリーダ達は疑問符を浮かべる。

「どうしてだ。少なくても本は、カートリアに関係しているんだろう?」

「そうだな。君たちの言う通り、本について調べて行けば、その男についても何かしらの手掛かりが見つかる可能性があるだろう。しかし君たち程度の実力では、カートリアでは通用しないだろうな」

「ほう……」

 挑発するかのようなティルメシアの言葉に、今度はサイトが表情を険しくする。

「この俺が行ったとしてもか?」

「そうだな。『転生者』なら生き永らえられることはできるかもしれない。だが、お前だけが生き残っても、他が全滅しては仕方あるまい?」

「それは聞き捨てなりませんね」

 フリーダはそう言うと眼鏡にそっと手を添えてティルメシアを見る。

「診たところ、あなたの魔法力はサイトさんの半分にも満たない。一般的なBランクのハンターでしょう。そのあなたが、どうして私たちが全滅すると言えるのですか?」

「『鑑定』の魔道具か。珍しいものを持っているな」

「どうも。それでどうなんです? 私は一介の事務員にすぎませんが、そこにいるカイゼルさんも、エレクさんも、サイトさんから特別な訓練を受けて、普通のハンターでは手に入れられないような特別な技や技術を持っています。そんな私たちが全滅するとでも?」

「カートリア聖公国は教会の総本山だ。魔術師一人とっても、その能力は桁外れだ。そんな国に禁忌とされる『光滅』の調査に行くんだ。君たちはカートリアを敵に回すことになるかもしれないんだ。君たち一人一人が少し優れた能力を持っていても、圧倒的な力の前では無力だ」

 ティルメシアはそう言うと薄く笑う。そんな彼女の態度に、いよいよフリーダのガマンの限界が来たようだった。

「いいでしょう。そんなに言うなら試していただきましょう」

 満面の笑みを浮かべ、フリーダが告げる。

「そこまで私たちの事を過小評価されるのなら、さぞかしあなたは自分の実力に自身があるのでしょうね? ここは、私たちと一つ、勝負をしていただけませんか」

「ほぅ……。興味深いな」

 フリーダの物言いにティルメシアは不敵な笑みを浮かべる。

「それで? 勝負の内容はどうする?」

「簡単ですよ。サイトさんを除いた、カイゼルさん、エレクさん、ミアさんの三人と、それぞれ勝負をしてください。二対一で私たちが勝ち越すことができれば、カートリアに向かうことを認め、あの国に関する全ての情報を私たちに開示してください」

「なるほど。つまりは自分たちの実力を証明した上で、私からかの国の情報を奪い取る、という訳か」

「そういうことです。まさか、ここまできて勝負を避けるなんてことは無いですよね」

 挑発を続けるフリーダ。どうあっても彼女を勝負の場に引きずり出したいのだろう。何より、『鑑定』を持つ彼女の事。ティルメシアの実力を把握したうえで、勝ち越すことは可能だと予測したようだ。

「いいだろう。勝負を受けよう」

 そうティルメシアが答えると、「計画通り」とでもいったようにフリーダが口の端を釣り上げる。だが、相手はあのサイトですら怖れる魔術師だと言うのを忘れてはいけなかった。

「ただし三回も勝負をするのは面倒だからな。私からも条件を提示させて貰う」

「条件……ですか?」

「何、簡単なことだよ」

 不敵な笑みを浮かべたティルメシアの言葉は、さらにフリーダの神経を逆なでしたのだ。

「三人がそれぞれなんて面倒なことはしない。サイトも含め、君たち全員でかかってくるんだ」


 ………………。


「全員でかかってこいなんて。どういうつもりなんですか!」

「落ち着けよ、フリーダ」

 何度目かになるフリーダの怒りの声に、やれやれとサイトが制止する。

 サイトたち『救いの手』一行は、ティルメシアの家を出て、森の廃墟の近くにある洞窟へと集まっていた。これから戦いを行うに当たり、障害物が無く、広い場所がいいだろうとのティルメシアの配慮したのだ。普段使っている演習場に近い広さがあり、天井も高い洞窟内は、何十年も前は巨大な神殿だったらしい。

 広間の反対側には、サイトたちと同じように戦闘用のローブに着換えたティルメシアがサイトたちの準備が終わるのを待ってくれていた。

「考えようによっては、かえって好都合だ。俺はもちろん負けるつもりは無いし、エレクやミアも全力はつくすだろう。それでも勝ち越すことができない場合もあるだろう。だが、俺たち全員でかかれば少なくても負けることは無いんじゃないか?」

「それはそうですが……。まあ、そうですね」

 カイゼルの言葉に不承不承と言った様子でフリーダが頷く。

「とにかく対策をたてましょう。全員でかかれば負ける可能性は低いですが、あの人の得意戦法や苦手とするところを抑えておけば、勝利はより確実になるはずです」

「そうだな」

 フリーダの言葉に一同が頷き、そしてサイトを見る。

「え? 俺か?」

「それはそうだろう。何と言っても、あいつはお前の師匠なんだろ」

「それはそうなんだが……」

 言われてみれば、といった様子でサイトが考える。けれどサイトの答えは芳しく無いものだった。

「俺があいつに魔術を教えてもらっていたのは一年くらいだ。それも魔力の効率的な運用や、初級魔法がほとんどで、特別なことは教えてもらっていない。なにより、訓練で魔術で戦ったことはあるが、あいつが本気をだしたところを見たことも無いんだ」

「それじゃあ、得意魔術も戦術もわからない、と」

「そうなるな」

 しれっと答えるサイトを半眼で見るフリーダとカイゼル。

「馬鹿だな」とミアはいつものように呟き、エレクも苦笑していた。

「なら情報が無いならオーソドックスな戦い方をするのが正道です。前衛はカイゼルさんとミアさん、後衛に私とサイトさんとエレクさんでいかがでしょう」

「そうだな。他に手がある訳でもない。役割は対魔術師よりでいいな」

「はい。カイゼルさんとミアさんは詠唱が出来ないように物理攻撃で攻めましょう。私は『鑑定』で彼女の使う魔術を診て、皆さんに指示を出します。エレクさんが治癒術での回復と神聖魔法での防御。サイトさんが魔術で遠距離攻撃。念の為、エレクさんには精霊獣を召喚して貰って、前衛よりで動かしてくれれば、攻撃の幅が増えます」

 フリーダの言葉に、それぞれが頷く。そして、各々が武器を手に配置についた。

「ん……。もう準備はいいのか?」

「ああ、いつでも構わない」

「そうか、それは重畳。それでは始めるとするか」

 ティルメシアはそう言うと硬貨を取り出す。

「それは?」

「合図代わりだよ。わかるだろ?」

 彼女はそう言うと硬貨を弾き飛ばす。真上に上がった硬貨は、回転しながら跳ぶと地面に落ちて、澄んだ音を洞窟内に響かせた。

「精霊獣召喚・カムイ!」

 エレクの目の前で魔法陣が展開し、土でつくられた狼が現れる。

「精霊化!」

 サイトの身体が燃え上がり、炎を纏って宙を浮く。

 カイゼルがショートソードを、ミアが双剣を抜き放ち、それぞれティルメシアに向かって走り出す。

 だが、次の瞬間――。

 彼らの目の前に白い光が現れる。ミアも眩しくなるが、光を避けられず、一瞬彼女から視線を外してしまった。


「まずは、『転生者』を止める。イレギュラーを相手取るなら、これは基本だろう?」

 次の瞬間、ミアが見たモノは、球体の入れ物に閉じ込められ、身動き一つしていないサイトの姿だった。

「サイト!」

 カイゼルが呼ぶが反応は無い。ティルメシアは薄く嗤う。

「無駄だよ。時間と空間を完全に固定させて貰った。これだけでサイトは動けない」

「次は……、君にしようか」

 ティルメシアの目がエレクを捕える。

 最悪かつ最凶の相手が、今『救いの手』の前に立ちはだかる。

「さあ、可愛い姿をみせてくれ。私は可愛いものが好きなんだ」

 そう言うとティルメシアは頬を染めながら杖を彼らに向けるのだった。

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