『転生者』を育てた者1
台風開け、停電あって大変でした。
今日から新キャラ登場です。
お楽しみいただければ幸いです。
状況は最悪だった。
フリーダとカイゼルは石になり、サイトは時間ごと停められている。エレクの頼みの綱の精霊獣・カムイは十字架のような置物に封印され、エレク自身もまるで人形のように無反応にさせられていた。
「ふむ……。この程度か、たいしたことは無いな」
腰に届きそうな程の闇色の髪をなびかせ、艶っぽい溜息を吐くのはティルメシア=ユイガット。サイトに魔術を教えた師であり、魔術書の専門家でもある魔術師だ。
海の底のように深い蒼の瞳に、雪のように白い肌。エレクやミアには無い大人の女性といった落ち着いた雰囲気に、大きく胸元の開いた魔法衣を纏っている。艶やかな大人の美しさを見せながら、どこかサイトのような子供っぽい、悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべていた。
「なんでだ。なんでこんなことを――」
「言っただろう。試してやる、と。さあ、サイトの妹よ、君はどうやって私に抗う?」
背筋に悪寒を感じながら、ミアは双剣を手に走り出す。ティルメシアはニタリと笑みを変えて呟いた。
「可愛い姿を見せておくれ」
ミアがこの状況に陥ったのは今から数時間ほど前の事だった。
………………。
ティルメシア=ユイガットは魔術師にして、あらゆる魔術書や魔法具の専門家だ。
古今東西のあらゆる書物について、解読、解呪、復元、破壊、様々な業務を請け負っているらしい。
とは言え、サイトも恐れる彼女の人となりもそれなりに有名。
国立の専門機関の誘いを蹴り、Bランクハンターとしての活動を放り出し、隣国との国境沿いに居を構えている。
「たぶん、面倒なことになったら、隣国に亡命する為だと思う」とは、彼女をよく知るサイトの言だった。
ベルベックの街から半日ほど馬車で走った森の入り口に、彼女の家は立っていた。何の変哲もない、赤い屋根のレンガの家だ。建てられてから、たいして年数は経っていないのだろう。所々に蔦が這ってはいるが、周りに比べれば随分と新しく見えた。
森に一歩足を踏み入れる。昔、ここにも街があったのだろう。砕けた岩壁の残骸や、昔は舗装されていたであろうレンガ敷の道などが、そこかしこに見ることができる。
国境沿いの街、かなり昔に戦禍で失われたようだった。
「ごめんください。ティルメシアさん、いらっしゃいますか?」
全員を代表して、フリーダが扉をノックする。しかし、二・三度繰り返しても中からの返事はない。外出中のようだった。
「留守のようだな」
「仕方がない。帰るか」
「馬鹿か」
カイゼルの言葉にしめたとばかりに踵を返すサイト。きっちりとミアがハイキックをいれていた。
「仕方ないだろ。まさかこのまま待つつもりか?」
「そうするしかありませんね。もしかしたら、水汲みか買い物に行かれているのかもしれません。少し待ってみて、戻られなければ出直しましょう」
言いながらフリーダは近くの木陰に腰をおろす。カイゼルとエレクもそれにならい、サイトは複雑そうな表情でティルメシア邸の扉の前に腰をおろした。
「ん? ミア、どこか行くのか?」
ふと気がつくと、ミアが双剣を手に森に向かおうとしていた。カイゼルが呼び止めると、いつもの無表情で振り返る。
「少し訓練をするだけだ」
「……そうか。あまり無茶はするなよ」
カイゼルの言葉にミアは一度頷くと森の中へと入っていった。
森の中、ミアは双剣を手に木々の間を器用に走り抜けていく。
特に目的がある訳じゃない。ただの暇潰し、または気晴らし程度のつもりだった。何か獲物がいれば狩って帰ろう。それくらいの軽い気持ち。
随分と広い街が昔はあった森は、そこかしこに廃墟のような建物が残っている。それらの建物を避け、あるいは跳躍して乗り越えていく。
ふと視線を感じて足を止める。見れば、森の中で優雅にお茶をしている女性と目があった。
何を馬鹿なことを、と思ってしまうかもしれない。ミアだって二度見した程だ。だが事実、森の中に残る廃墟の一角、木陰の下にテーブルと椅子が用意されていて、妙齢の女性が紅茶を飲んでいた。
女性は笑みを浮かべてヒラヒラと手をふる。反射的に会釈を返すと、ミアは手招きをされた。
「珍しいこともあるものだな。こんなへんぴな森に来客とは久しぶりだよ。何か用かな?」
人見知りなミアは声を掛けられたのだが咄嗟に返事を返すことができない。女性はそんなミアの心中を察してか、言葉を急いたりはしない。ようやく声が出た時には、ミアの頬は真っ赤に染まっていた。
「わ、私はハンター。『救いの手』に所属するミア=レオンハートだ、です。兄貴の……、サイト=レオンハートの師匠、ティルメシア=ユイガットを訪ねてきた……、です」
「サイトの?」
カタコトで喋るミアの言葉を聞いて、女性はまじまじとミアを見る。
「なるほど。確かに面影があるな。あの馬鹿はこっちにきているのか」
「兄貴ならティルメシアの家にいる……です」
「そうか。しかし、何だ。話しにくいだろう。言葉づかいは普通で構わないよ」
「そ、そうか? 助かる」
ティルメシアの言葉でようやくミアの肩からようやく力が抜ける。そんな様子を見て、彼女はクスリと笑みを浮かべていた。
「あのサイトの妹とは思えないな。どうだね、サイトの妹……、ミア君と言ったな。お茶でもどうかな?」
「それは貰いたいが、兄貴たちが待っていて――」
「なぁに。私に用があって、君と一緒に来たんだろう? なら、君がここにいて、私が君と一緒にいる限りは、サイトも帰るに帰れないだろう。待たせておけばいい。それより、私の知らない今のサイトについて教えてほしい。サイトは今、何をしている?」
「あ、うん。最近は『救いの手』っていうパーティーをつくって――」
ミアはテーブルに着くと、ポツリポツリとサイトとパーティをつくった経緯や、今の仲間の事を話し始める。最初のうちは話しにくそうにしていたミアだったが、聞き上手なティルメシアの雰囲気に呑まれて、パーティーのメンバーの事、サイトがBランクハンターになったこと。そして今、トリアの為に魔術書について調べていることを話してしまうのだった。




