過去との邂逅5
ちょっと更新が遅くなりました。
9月初更新です。数えてみたらもう三ヶ月目!
応援感想をくださった方、ありがとうございます。
これからも頑張って続けていきます。
『過去視』の翌日のことだ。
僕たちはいつも通り、ギルドのテーブルの一角に集まっていた。
そして、フリーダがまとめてくれたそれぞれの情報を確認していたのだが、数人の様子がちょっと変だった。というか、傍から見たら僕自身も様子が変なメンバーの一人だろう。
とにかく昨日の出来事で落ち着かないのだ。
チラリと斜め向かいに座るエレクを見れば、彼女も僕を見ていた様子。目が合った。
エレクは顔を少し赤くしてテーブルに視線を落とすと、そわそわと体を揺らす。その様子が可愛く見えて、僕も彼女を直視できなくてテーブルに視線を落とす。
そんな僕たちの様子を見てか、サイトは呆れ顔。
ミアはいつもと変わらない無表情だけれど、何だか疲れているようで集中は出来ていない様子。おまけにカイゼルまで目の下にクマをつくっているし、変わらないのはぼけっと話をきいているマイトくらいなものだった。
「トリアさん、聞いていますか?」
「え? あっ、ごめん」
そんなふうに周囲を見ていたせいか、フリーダに見咎められる。彼女も思うところがあるようで、「もういいです」なんて嘆息すると、端的に結論だけを宣言した。
「以上を踏まえ、私たち『救いの手』はトリアさんの父、リヒト=ニボックルから奪われた、魔術書を追うことにしたいと思います」
フリーダの宣言に驚いたのは僕だけではない。ミアは勿論、エレクやカイゼルでさえ驚きを隠せずにいた。
「どうかしましたか、皆さん?」
「いや、てっきりフリーダは調査の中止を言い出すと思っていたから」
「ああ、そのことですか」
僕の言葉に彼女は肩を竦めてみせた。
「今回の調査は自由依頼とは言え、一つの契約として『救いの手』が受注したものです。そして、その契約の破棄に対しては、依頼主かパーティリーダーの取り下げが必要条件です。残念ながら、サイトさんについては、依頼を破棄する気は無い。そうですよね?」
「そうだな。俺は引きさがる理由が無い」
フリーダの確認にサイトは頷きを返す。
「そして、聞くまでも無いことだと思いますが、ミアさんは依頼を取り下げる気がありますか?」
僕たちの視線がミアに集まる。彼女は一度目を閉じる。開いた時には僕を見て、今度は決意を込めた目で憮然と答えた。
「取り下げない。私の考えは変わらない」
「――と言う訳ですよ。双方の意志が変わらない限り、私としては依頼の破棄や取り下げに対して文句はあっても事務員の職務を逸脱してまで口をはさむ気はありません。契約に対しては真摯に向き合う。これは私の商人としての矜持でもあります」
「なるほどな。だが、これまで通り、と言う訳にはいかないのだろう?」
フリーダの言に納得しつつも、口をはさんだのはカイゼルだった。
「トリアは俺の危惧していた通り、過去視の影に対しても致死性の攻撃魔法を行使したんだろう。依頼はあくまでも捕縛だったはずだが、これはどうする?」
「そうですね。パーティーのメンバーを少なからず危険に晒すことにもなりました。充分にペナルティを与える条件になると思います。もっとも、判断はサイトさんが担うべきでしょうが」
「ちょっと待って!」
フリーダとカイゼルの言葉に待ったをかけたのはエレクだ。
「危険って言っても、実際の被害は無かったんでしょ。全部サイトさんが防いだんだから」
「エレク、いいんだ」
今にも怒りだしそうなエレクに言う。彼女は僕を見て、意外そうな顔をしていたが、それでも僕が何も言わないのを見て、視線を再びテーブルに落としていた。
「フリーダやカイゼルの言い分はもっともだよ。僕はそれだけのことをしたと思う」
「そうか」
僕の言葉にサイトは一度頷くと、淡々と処分を下す。
「トリアについてはしばらくはパーティーの活動から離れてもらう。少なくても次の調査については、トリア抜きで行うことにする」
「わかった」
「トリア!」
「トリア君!」
サイトの処分に頷く僕と、僕に何か言いたそうなミアとエレク。だが、僕は二人を手で制止すると、そのまま話の続きができるように水を向けることにする。
「それで、次の調査は父さんが持っていた魔術書を探すことから始めるんだよね?」
「ええ。どういった能力を持った魔術書なのかさえ不明ですが、現状他に手がかりがありませんから」
僕の考えをくみ取ってか、すぐに話を続けてくれたのはフリーダだった。
「ただし、何も情報がない訳じゃありません。『鑑定』で本を見ておいたため、あの本の名前を知ることができました」」
フリーダはそう言うと眼鏡に手を添える。
「あの本の名前は『光滅の書』。さすがに本の名前だけでは私には何を対象にした本なのかはわかりません。ギルドの魔術師の方も同様でしたが、皆さんも聞き覚えはありませんか?」
「残念ながら無さそうだ」
サイトが僕やエレクを見て答える。魔術師の僕たちですら知らない名だ。剣士のカイゼル、マイトはもちろん、ミアだって知らないだろう。
「そうですよね。ですが転生者並みの危険度すら持っている魔術書です。魔術書に対して専門的な研究を行っている魔術師なら、何かを知っているかもしれません」
「そうだな。それでいたのか?」
「ギルドのネットワークを使って、詳しい人がいないかを訊いてみました。そこで紹介されたのがティルメシア=ユイガット、という魔術師です。幸いにも、そう遠くない森に住居を構えているそうで……」
「「ティルメシア……」」
奇しくも、魔術師の名前を呼ぶ僕とミアの声が重なる。僕はどこかで名前を聞いたことがある程度だったのだが、どうやらミアも覚えがあるらしい。しかし、たった一人、聞いたことがある程度では無い、顔面蒼白になっている人がいた。サイトだ。
「ティルメシアだと」
サイトは急に立ち上がり、どこからともなく杖を取り出す。まるで体に刻まれた反射のような行動だった。攻撃魔法が撃ち込まれた訳でもないのに、杖を握る手には力がこめられている。
「サイトさん、知っている方ですか?」
「知っているも何も、そいつは俺の師匠……、俺に魔術を教え込んだ奴だ」
「ああ、そうだよ。ティルメシアさん。何で忘れてたんだろう」
僕とミアは顔を見合わせる。今から何年も前、サイトがまだ魔術を覚えたての頃だ。
ベルベックの街にふらりとやってきたハンターが、話に出ているティルメシアと名乗る女性だった。彼女はサイトの稀有な才能を見出し、当時のサイトに魔術を教え込んでいた。かく言う僕も、魔術を使えないミアの為に契約魔法の魔術書を借り、僕たちが契約をかわすきっかけになったのも彼女だった。
「なら話が早そうですね。サイトさんが仲介して下されば、魔術書についても教えてくださりそうです」
「いやいやいや、悪いことは言わない、やめておけ。専門家なら他にいるだろ」
珍しく狼狽するサイトに全員が怪訝な表情をする。
「どうしたサイト。お前らしくも無い。師に会うのに何を躊躇う。むしろたまには会って、近況の報告でもしたらどうだ。昇級の報告などすれば、祝ってもくれるだろうに」
「する訳がない。あの人はな、あの人自身もBランクハンターであるにも関わらず、ランク自体には興味は無い。むしろ興味も無いのに、様々な功績だけで昇級をしていったのが、ティルメシアって奴なんだ」
サイトの熱弁に、しかしフリーダは頭をふる。
「サイトさんの言いたいことはわかります。しかし、ベルベックの街の近くにいる専門家となると、そう多くはありません。加えて、王都の宮廷魔術師並みの知識と実力を兼ねているのは彼女だけです。他に適任の専門家となると国境を越えるほかは無くなります」
フリーダの説明に何も言い返すことができないサイト。彼自身も、どうすれば合理的なのかは分かっているのだろう。だが、それ以上に、彼の経験が彼女と関わり合いになることに警鐘を鳴らしているのだ。
「どうしてもあいつでなければ駄目なのか?」
「はい。他にいませんから」
縋るようにフリーダに訊ねるが、彼女のきっぱりとした物言いに、サイトはついに折れた。
「わかった。どうなっても知らないからな」
彼はそういうと深々と嘆息する。最後の一言はまるで負け惜しみのようにも聞こえた。
「あのさ、今回の調査、私は街に残っちゃ駄目かな?」
ティルメシアの住まいへの出発が明朝に決まった後、そんなことを言い出したのはエレクだった。
「エレクさん、何かありましたか?」
「えっと。今回の調査はトリア君が参加しないんだよね? 一人で街に残すのはちょっと……」
「なるほど。トリアさんの性格を考えれば、何かしら起こす可能性がありますね」
「何かしらって……」
フリーダとエレクのやり取りを聞きながら、僕は肩を落とす。しかし、サイトやミアも否定はできないようで、「確かに」なんて呟いていた。
「だからね。私が一緒に残って――」
「だとしてもエレクさんが残るのは却下でしょう」
彼女が何か言い終わる前に喰い気味にフリーダが断言する。
「どうして?」
「そんなの。何か起こすにきまっているじゃないですか。羊の番を狼に任せるようなものでしょう?」
「そ、そんなことないよ?」
エレクが僅かに頬を染めながら目を泳がせる。僕まで顔が赤くなりそうだった。そんな僕たちを半眼で見るフリーダは、どこかおもしろくなさそうだ。
「やはり却下ですね。そもそも、そう遠くでは無いですが遠征になります。治癒術の使える魔術師は同行していただいた方が助かりますから」
「それはそうだけど……。ミアちゃんはどうするの?」
留守を却下されたエレクが無表情の少女に訊ねる。彼女は僅かに何かを考える。
いつもの彼女なら、こういう時はトリアと一緒に残ると言うだろう。そもそも、戦闘においてはトリアがいなければミアの力は半減する。だが――
「私も一緒に調査に行く」
「へ?」
断言するミアに、エレクやフリーダ、サイトが意外そうな顔をする。特に驚いてもいないのは、カイゼルくらいのものだった。
「私が行くのがそんなにおかしいか?」
「いえ、別にそう言う訳ではないですが」
「私にも考えたいことがある。だから今回は一緒に調査に行くぞ。身体強化は兄貴、頼めるか」
「それくらいなら構わないが、契約を交わしている訳じゃない。遠隔魔法は使えんぞ」
「双剣が使えれば問題ない」
これでサイト、フリーダ、ミア、エレクの四人が行くことが決まった。女の子が三人にサイトが一人、戦力的には問題ないのだが、面倒事を避ける為にはもう一人くらい男手が欲しいところだ。
「それじゃあ、俺がトリアと留守番してやるよ」
そう言って話に加わったのは、いつもはあまり話に関わらないマイトだった。
「護衛はカイゼルがいれば充分だろ? だったら、俺がトリアを見張っておいてやるよ」
「いいんですか? 相手はサイトさんも敬遠するハンターですよ」
「つっても魔術師だろ? 魔術、魔法を馬鹿にする訳じゃないが、俺は興味ねぇよ」
「そうですか。まあ、そういうことなら構いませんが」
フリーダはあまり納得がいっていなさそうだが、マイトの留守を決定する。
こうして、僕とマイトを残して、サイトたち五人は魔術書の専門家、ティルメシア=ユイガットを訪ねることになったのだった。




