森の大男2
短いです。
マイトとのバトルスタートです。
「遊びじゃねぇんだぞ……て言ったとこで無駄なんだろうがな」
大剣を構えるマイト。
ミアは腰に下げていた双剣を抜き、僕は杖を構える。僕たちの様子を見て、彼は不敵に笑った。
「いいだろう。まとめて相手をしてやるよ。二人まとめてかかってきな」
「言われなくても……」
彼の言葉にミアが走り出す。同時に僕は詠唱を始めていた。
「なっ、早っ!」
ミアの動きだしにマイトが驚愕で目を見開く。一瞬で間合いを詰めて斬りかかるミアの短剣を、間一髪のところで避け、追撃の二刀目を大剣を振り回し弾き飛ばす。同時にミアの体も浮き上がったが、彼女は難なく着地していた。
「ミア、さがってて。ストーンエッジ!」
詠唱を終えた僕が魔法を放つ。魔法陣が広がり、石の槍がマイトに向かう。彼の体は僕たちに仕掛けようと向かっていたし、タイミング的にも避けることは難しいタイミングだった。
「どうりゃぁぁああああ!」
にもかかわらず、マイトは大剣を振り回して石の槍に振り下ろす。鈍い音を響かせて、石の槍は粉々に粉砕されていた。
(強い……)
初見でミアのスピードについていける反射神経、動体視力。魔法攻撃をも物理的に無効化する攻撃力と立ち回り。
その言動からは想像できないほど、マイトの戦いは洗練されたものだった。
「今ので攻撃はしまいか? なら、今度はこっちから行くぞ!」
「アースウォール!」
最初のやり取りだけで、僕、ミアとマイトの実力の差を感じた僕は、作戦を切り替える。魔法でマイトと僕たちの間に壁をつくると、高速詠唱を始める。
拳闘士のような一対一での戦いなら、僕たちはマイトの足元にも及ばないだろう。けれど、ハンターにはハンターの、強者に対する戦い方があった。
「めんどくせぇなぁ!」
土の壁まで大剣で粉砕するマイト。壁の残骸を蹴破ったのと、僕の詠唱が終わるのは、ほとんど同時。けれど、確かに作り出した一瞬の時間が、勝敗を分けた。
「ミア、身体強化! 契約執行、30秒間」
ミアの足元に魔方陣が広がり、彼女の体を淡い燐光が包み込む。次の瞬間には、先程とは比べ物にならないスピードで彼女はマイトに肉薄する。
二本の短剣がマイトに迫る。大剣を盾のように構え、なんとかやり過ごそうとするが、大剣ごと軽々と弾き飛ばされた。
「クソッ。これならどうだ!」
体勢を立て直したマイトが上段に構えた大剣を振り下ろす。しかし、ミアはその大剣を軽々と片手に持った剣だけで受け止める。
「マジかよ……。魔法による身体強化って訳か」
マイトの顔が引きつる。対するミアは余裕の表情を浮かべ、マイトの体を蹴り飛ばした。
僕が実行したのは、契約を交わしたパートナーに付与できる身体強化呪文だ。膂力の増強、スピードの向上、防御力の底上げなど、様々な効果を契約者に与えることができる。もっとも、あくまでも常人に倍する力を与えるだけの魔法は、使いすぎれば使用者の身体を蝕む諸刃の剣でもある為、使用は制限時間や状況の制約などがある。
明らかに格上で、30秒という制限時間内でだけ、僕たちは彼を上回ることができたのだ。
(ミア、いつものをやるよ。糸で彼を包囲して)
契約者との思考共有で、ミアに指示を出す。身構えるマイトに向かって跳躍し、上からいくつものナイフを投擲する。しかし、彼女の投げたナイフは、一つたりともマイトには向かわない。代わりに、彼を取り囲むように、地面に突き刺さっていた。
「どこにむかって投げて――」
マイトが言いかけて詠唱を終えようとしている僕に気がつく。だが、もう遅かった。
「術式発動。包囲展開。アイスロック!」
ミアの投げたナイフ一つ一つから、魔法陣が展開する。そして、全ての魔法陣から冷気が迸り、マイトに襲いかかる。両腕を、両足を、銅を、大剣を、何重にも氷が拘束するかのように彼の身体の自由を奪っていた。
「勝負ありだ」
ミアが短剣をマイトの喉元に突きつける。
抵抗しようにも、指一本動かせなかったのだろう。
「参った」とマイトは自らの負けを認めていた。