新しい道へ1
盆休み投稿です。
ちょっと短めになりました。
「障壁突破、『ストーンエッジ』」
僕の詠唱と同時に、二つの魔方陣が発動する。隆起した石の槍が土の壁を貫き、壁は音をたてて崩れていく。
「見事だな。二重呪文、かなり完成に近づいたんじゃないか?」
魔術のできに称賛してくれたのはカイゼルだ。ギルドホームの演習場を使って、久々に魔術や剣術の訓練を僕たちは続けていた。
魔蟲・アラクネロの討伐依頼を終えた後、僕達は満身創痍と言っていいような状態だった。
魔力切れで僕が倒れたのはいつもの事として、魔力を吸われたミアは勿論、カイゼルまでが身体強化の使いすぎで倒れたのだ。
僕とミアは二日ほど目を覚まさなかったらしいし、僕たちを連れ帰ったカイゼルも二日は身体がまともに動かなかった。
そんな僕たちの回復を待つ必要もあって、結局、アラクネロに操られていた町の人々を圧縮呪文から解放できたのが昨日のこと。
圧縮中は空間ごと固定されているため時間の経過すら存在しない。だから何日間かそのままでも問題はないし、何なら箱を叩き壊せば圧縮解除されるのだが、今回は中に入っているのが人だ。
万が一にも何かあってはまずいので、昨日は1日がかりで一人一人解放したのだった。
「帰ったぞ」
訓練を続けていると相変わらずの無表情なミアが帰ってくる。その腕には包帯を巻いていて、あっちこっちに擦り傷などを残していた。
「腕の具合はどう?」
「問題ない。大袈裟なんだ、あの医者が」
ミアは何でも無いことのように言ってくれるが、彼女が怪我をしたのは僕を庇ったからだ。医者の話じゃしばらく無理をしなければ問題なく治るらしい。そうでなくても、エレクが帰ってきたら治癒術を掛けて貰えばすぐに治るだろう。
ただ、腕には跡が残りそうらしい。
「そんな顔をするな。名誉の負傷だ」
普段にも増して彼女は気遣ってくれるが、「残るなら残るで、それは嬉しい」なんて言っているミアに何て返せばいいのか僕はわかりかねていた。
「トリアくーん、帰ってきたよ~」
ちょうど僕たちが三人揃ったのを見計らったように、受付のルーシーが僕たちを呼びに来る。僕たちは顔を見合わせると、すぐに彼らを迎えに言った。
………………。
「で、町中凍り漬けにしたわけか」
サイトが僕たちの報告を聞いて、腹を抱えて爆笑する。
ギルドのテーブルを一つかりきって、僕とサイトをはじめ、『救いの手』の七人が久々に勢揃いしていた。
「笑い事じゃあ無かったんだがな」と渋い顔をしたのはカイゼルだ。
「アラクネロの傀儡の魔術。町一つの規模で発生したのは初めて聞いた。実際に操られていたのは半数にも満たず、町を逃げられた人々もいたようだ。だが討伐できていなかったらと考えたら、被害がどれだけ広がったか想像もできん」
「結果的に討伐はできたんだろ?」
「最高評価を貰ったよ。町の人々の解放の件もあって、ギルマスから成功報酬の増額も伝えられた」
「とにかく、皆大したことなくて良かったよ。帰り道で凍り漬けの町の噂を聞いたときは、ビックリしたよね」
何でも、一つの町が魔物ごと凍り漬けになった話は、あっという間にここら一帯の珍事として広まったらしい。
ただでさえ娯楽の少ない片田舎。魔物に町が襲われた話だけならただの事件だ。しかし、討伐されており、方法が常識はずれすぎれば、商人や旅人の盛りに盛った噂話くらいになっているらしい。
「私が最後に聞いた話は、凄腕の宮廷魔術師が町を支配した魔物を一人で町ごと凍り漬けにして、町の思い人を救い出した。みたいなラブロマンスになってたよ」
「原型とどめていないな」とカイゼルが肩を竦める。
「ハンターがただ討伐したよりは、物語性があったほうが娯楽としては最適ですからね。当然と言えば当然の帰結ですよ」
淡々と分析するフリーダは、そんなことを言いながら苦笑していた。
「でも、私はすぐにトリア君がやったんだなぁ、って思ったよ。町ごとは予想外だったけどね」
話を聞いていたエレクがにぱっと微笑む。隣には、すっかり怪我を治癒して貰ったミアが無表情に頷いていた。
「あの場合は仕方ない。トリアに感謝だな」
ミアの言葉にサイトもなるほどと頷く。
「まあ、町中に何匹いるかわからない幼体を全滅させるには、町ごと覆うのが一番手っ取り早いしな」
「……サイトだったら、って考えたら、そうなっただけだよ」
僕はくすぐったさを覚えつつ、返事をするのがやっとだった。
「そんなに強い奴なら、俺も街に残りゃよかったな」
「またそんなことを。そうしていたら、あなたの昇級は無かったと思いますよ?」
「そりゃわかってるがよ。強い魔物とか、テンションあがるだろ?」
「上がるのは脳筋だけですよ」
「なんだと、コラ!」
「黙れ、馬鹿」
マイトの後頭部にミアの蹴りが突き刺さる。サイトやカイゼルは見ながら笑っており、マイトは頭を押さえながら呻いていた。
ようやく「日常」が帰ってきたことに喜びを覚えながら、僕はこのままじゃいけないんだろうな、と考える。
「ねえ、フリーダ」
だから僕は、二人になったタイミングを見計らって、彼女に声を掛けた。
「今夜、僕の部屋に来てほしい」




