特別昇級試験2
王都ギルドに挨拶した次の日、サイト・マイト・エレクの三人はギルドの所持している演習場に集まった。
広い演習場の反対側には、同じようにAランクパーティ『赤銅の蛇』のメンバーたちが集まっている。
そして、二つのパーティのちょうど間には、ギルマスと受付のスピナ―が、そして見学のフリーダが防護壁を張った状態で観覧していた。
「事前に伝えた通り、これから三人には一人ずつ実力を見せてもらう。『赤銅の蛇』のメンバーとの一対一の個人戦闘だ。勿論、勝利をすることができれば最良の結果ではあるが、敗北は必ずしも試験の不合格とはならない。そのことを念頭に置いて、ベストを尽くしてくれ」
演習場に拡声魔法で大きくされたスピナ―の声が響く。レギュレーションについては昨夜のうちにフリーダに聞いていたので、三人に驚きは無い。
但し、チラリとマイトがフリーダの様子を見る。フリーダはニンマリと微笑みを返していた。
マイトの背中をゾクリと悪寒が走る。
「まずは初戦、マイト=レイニーデイ。前へ」
悪寒を振り払うように、マイトは大剣を担ぎあげると演習場の中央へと向かう。併せて、対戦相手も進み出る。マイトは歩みを進めながら、昨夜の事を思い出していた。
………………。
「と言う訳で、試験内容は実戦形式となりました。ここまでで何か質問は?」
試験内容を三人に説明するフリーダ。彼女の問い掛けに遠慮がちに手を挙げたのはエレクだった。
「実戦形式ってことは、勝てないと昇級できないってことなのかな?」
「いいえ。必ずしもそう言う訳ではありませんよ」
「え? でも、実戦なんだよね?」
「そうですね。ですが、考えてもみてください。私たちはDランクパーティで、相手はAランクパーティです。おそらく、『赤銅の蛇』に所属するメンバーは、最低でもCランク以上でしょう。そういった人たちが相手では、勝利の可能性があるのはサイトさんだけになってしまいます」
「だよね。マイト君はともかく、私なんて勝てる自信ないよ」
エレクが嘆息する。その様子を見て、フリーダはやれやれと肩を竦めてみせた。
「大丈夫ですよ。要は、自分がEランク程度ではないと証明できれば、昇級の目はでてきます」
「そ、そうだよね」とエレクが表情を明るくする。
「――と、ここまでが建前です」
しかし、次の瞬間には話の舵がおかしな方向に向く。部屋の中の空気が、フリーダを中心に重くなる。
「ご丁寧にも、Aランクパーティを用意してくださった王都ギルドの皆さまは、全力で私たちを叩き潰しに来るつもりでしょう。随分と『例外』を嫌っているようでしたので。もしも全力を尽くして惜敗したとしても実力不足の烙印を押されて、数年後に正規のルートでの昇級を、と言われるのがオチだと思います」
「フリーダちゃん、怒ってる?」
「ええ、もちろんです」とフリーダが満面の笑みで答える。
「忌々しいことに、相手はそれぞれの対戦相手まで伝えてくださったんですが、マイトさんの相手はCランクの若手剣士、エレクさんの相手はCランクの見習い魔術師、サイトさんの相手はBランクの剣士だそうです。いずれも正規メンバーでは無く、修行中の準メンバーってことですね。これで充分だろって感じで、舐められてますよね~」
三人の背中を汗が伝う。部屋の気温が氷の魔術も使っていないのに、どんどん下がってるようにも感じる。対照的にフリーダの表情はどんどん笑顔になる一方。エレクとマイトは引いているし、サイトまでもがたじろいでいた。
「ですので、私としての指示はたった一つです」
フリーダは親指をたてると、そっと首の前を横切らせる。
「叩き潰してください」
「「「はい!」」」
三人の返事が綺麗に揃う。目の前の彼女に、三人がそろって身体を震え上がらせていた。
………………。
「とにかく、負けたら何を言われるかわかったもんじゃねぇしな」
マイトは呟きながら大剣を構える。相手はマイトと同い年くらいの若手剣士だ。
相手の獲物はどうやら長剣らしい。刀身は細いながらも、マイトの大剣よりも間合いが広い。剣の腕が確かなら、間合いに入るだけでも大変そうな相手だ。
『赤銅の蛇』のメンバー・彼の師匠らしき男から声援が送られている。なるほど、弟子の修行程度と考えているらしい。確かにマイトは舐められているようだった。
「はじめ!」
演習場にスピナ―の号令が響く。
先手必勝、とばかりにマイトは地を蹴ると、一直線に彼に向かって突っ込んだ。
剣士同士の戦いなら、まずは間合いを詰めなければ話にもならない。接近戦で、大剣で薙ぎ払うつもりで突っ込んでいったのだ。
だが、相手はそのケースも考えていたのだろう。落ち着いた様子で手に持っていた長剣を地面に突き立てる。その瞬間、剣に施されていた呪文処理が発動し、魔法陣が広がり地面が隆起する。石の槍がマイトに向かって突き出してきた。
「『ストーンエッジ』かよ。面倒くせぇな!」
マイトは大剣で持って石の槍を粉砕する。難なく凌ぐマイトに相手方のパーティメンバーも驚きを隠せないようだが、エレクやサイト、フリーダは当然だな、なんて静観していた。
呪文では効果が薄いと踏んだようで、相手は長剣を突き出してくる。
その剣の切っ先を、マイトは腕を『硬化』『身体強化』を重ねることで、剣の切っ先を殴り返していた。
相変わらずの力押しながら、相手は距離を取ってしきりなおそうとする。追い撃ちとばかりに、マイトは大剣に風を纏わせる。今度はマイトの大剣が呪文を発動させる番だ。
「『風竜の鉤爪』!」
逆巻く竜巻が襲いかかる。彼は顔をしかめながらも寸前で竜巻をかわしていた。
「やるな。さすがはCランクってことか」とマイトがニヤリと笑う。
相手もさすがに余裕は無いようだ。彼は長剣を構えると、小さく何かを呟いていた。
次の瞬間、長剣は一瞬で縮み、ショートソード程度の長さになる。そして、マイトに向かって『速度強化』でスピードを上げた剣士が斬りかかってきた。特別な呪文処理を施された魔法剣のようだ。
相手の間合いの変化に戸惑いながら、なんとか切っ先をかわすマイト。
剣士は長剣の間合いを捨て、速度と連撃の接近戦を選んだようだ。マイトの脳裏にパーティメンバーの騎士志望の姿がよぎり、思わず顔をしかめる。
そんなマイトの様子を見て、超接近戦が苦手と推測したのだろう。ますます速度を上げて彼は連撃を叩き込む。
マイトは余裕を持って彼を硬化した腕で弾き飛ばすと、半身の体勢で大剣を構える。
「こんな時にあいつのこと思い出させやがって……。お返しだ」
マイトはそう言うと地を蹴る。
「見よう見まね、『剛閃剣』!」
突進のスピードのまま、大剣を水平に振り抜く。マイトに追撃をしようとしていた彼は回避行動をとることができない。次の瞬間には、振り抜いた大剣に吹っ飛ばされた彼の身体が、玩具のように宙を飛んで行った。
「今のってカイゼルさんの技だよね?」
エレクが隣で観戦していたサイトに訊ねる。だが、サイトは呆れ顔だった
「いや、あれは全くの別ものだな。そもそも、カイゼルの『剛閃剣は』ミア並みのスピードとマイト並みの攻撃力を兼ね備えた一撃必殺の技だ。マイトのアレは動きは目で追うことができただろ?」
「そう言えば、そうだね。カイゼルさんのはいつ斬ったのかも見えないくらいだったのに」
「だろ。マイトのアレは全力で剣をぶんまわしただけだ。それでも、あたれば一撃必殺だったみたいだが」
サイトの言った通り、マイトに全力で吹っ飛ばされた相手は、一発で昏倒してしまったようだ。『赤銅の蛇』のメンバーが大慌てで介抱し、治癒術を使っていた。
「勝負あり。勝者、マイト=レイニーデイ!」
スピナ―の声が演習場に響き渡る。
マイトは大剣を担ぎニヤリと笑うと勝鬨を上げる。スピナ―の隣では、フリーダが「まず一人……」と昏く呟き、ニンマリと口の端を上げていた。




