森の大男1
今日はもうアップできないかなぁと心配でした。
日付変わったけど、アップできてよかった。
僕たちがやってきたのは一般的なDランクハンターが狩りや修行なんかで利用する森、街の南に位置するベルベックの森の東側だった。
僕たちが普段活動しているのは街の北にある初級ハンター用の森。あちらは西側が渓谷。東に大きな川が流れており、よほど奥まで進まなければいるのは鳥や小動物がほとんどだ。
しかし、ベルベックの森は西、北を深い山林に囲まれており、小動物を狙ったブルルのような巨獣やオーク、オーガ、ゴブリンなどの魔物も少なからず目撃されている。その為、Dランクハンターは依頼を受注していないときは、森の街に近い場所でオークなどを狩ってギルドに納品するなどしていた。
「さてと……、それじゃあ、例の大男を探すとするか」
サイトは言いながら森の中を歩いて行く。サイトはDランクの時によく来ていたので勝手がわかっているのだろうが、僕は見慣れない森に興味半分、緊張半分でサイトの後に続き。ミアはと言えば、僕の袖に掴まりながら恐る恐るといったようすでついてきていた。
「ミア、これじゃあ歩きにくいよ」
「そ、そんなこと言ったってしょうがないだろ。帰りたい……」
普段は無愛想なミア。しかし、知らない場所や知らない人相手だとこの通り、内弁慶な少女だった。そんなことを言う僕も、初めて彼女と出会った時、慣れてくれるまでには一週間以上かかった。その時のことを思い出して、今の彼女の様子がちょっと懐かしくもあった。
「そろそろ大男が現れるって噂の沢だな」
サイトの言葉通り、森の向こうから水の流れる音がする。森を抜けると広い河原に出る。澄んだ川の中には魚の影も見えて、水を飲みに来た小動物の姿も見えた。どうやら天然の水飲み場になっているようだ。
そんな中、大きな水切り音がする。同時に、馬鹿でかい叫び声のような男の声が響いていた。
見れば、一人の大男が川の中で大剣を振り回していた。少し茶色がかった短い髪、身長は180センチ以上はあるだろう。太い腕に無駄な肉の付いていない筋骨隆々とした体つき。そんな男が腰まで川の中に入って、上半身裸で雄たけびを上げながら大剣を振り回していた。
「馬鹿だ! 馬鹿がいる! 馬鹿が大剣を振ってる!」
ミアは彼を見て少しパニック。僕もどうして川の中で大剣を振っているのかわからない。
「ん……、なんだお前らは」
鋭い目つきで彼が僕たちを見る。大剣を振り回すのをやめて、肩に担ぐ。一メートル以上はあるだろうか。彼の身長の半分はあるであろう大剣をこともなげに扱う彼を見て「期待以上だな」なんてサイトは呟いていた。
「どうして川の中でそんな大剣を振っているんだ?」
「ん~、そんなこともわからないのか。これは俺が考えた最強になるためのスペシャルな修行だよ」
そう言うと彼は不敵に笑う。
「いいか。川の中では身動きがとりにくい。その中で軽々と大剣振り回し続ければ、いずれはどこででも扱えるになる。そして、俺の筋肉もまた一歩最強に近づくって寸法だよ」
「こいつ馬鹿だ」
彼の言葉にサイトの頬に汗が伝う。ミアの率直な感想に、異論は無かったのだろう。
「えっと……。それなら、こんな浅いところで振らずに、せめて肩くらいまでつかる場所で振った方がいいんじゃないかな?」と僕は冷静に思ったことを口にする。彼は少しきょとんっとしていた。
「どういうことだ?」
「いや、だって。確かに川の中だと身動きはとりにくいけど、その高さじゃ動きにくいのは足とか下半身だけじゃない。確かに下半身は鍛えられるかもしれないけど、上半身で必要な力は、陸上で振ってる時とそんなに変わらないんじゃないかな?」
僕の言葉に彼が首を傾げる。それから二三回大剣を振り、驚愕に目を見開いていた。
「ば、馬鹿な。俺の修行にそんな盲点があったとは。そして、それを見抜くお前やそいつらは何なんだ」
「いや、そんな驚く程の事じゃないけど……。僕はトリア。Eランクハンターです」
彼の言葉に僕は素直に名乗り、二人も紹介する。
「それで、こっちの女の子がミア。僕と同じEランクハンターで。こっちがサイト。ミアのお兄さんでCランクハンター」
「Cランク! ついに来たか」
サイトを紹介した瞬間に川の中からとび出る。そして、彼は振っていた大剣をサイトに向けた。
「俺の名前はマイト=レイニーデイ。最強の拳闘士になる男だ。Cランクハンターのサイトと言ったな。この俺と勝負をしろ」
「噂通りだな。そんな風に、このあたりのハンターに片っ端から勝負をふっかけているのか?」
サイトはマイトの言葉に動じた風もなく訊ねる。
「なんだよ。知ってるなら話が早いな」
「ギルドでも噂になっている。そんなことして何になるっていうんだ」
「言ったろ。俺は最強の拳闘士になる男だって。これは、その為の修行だってことだよ」
拳闘士――。それは僕も知識でしか知らないことだ。ここよりずっと離れた王都にある闘技場には、拳闘士と呼ばれる戦士たちがいるらしい。
そして、闘技場で巨獣や魔物、または拳闘士同士で戦い、最強を極めようとする人たちのことだ。最強を極めた彼らは王国での英雄と呼ばれ、多くの人々から賞賛されていた。
「なるほどな。合点がいった。つまり、拳闘士としての修行として、実戦経験の多いハンターとの勝負を繰り返していた、ということか」
「そういうことだ。だが、やっぱりハンターなんてのは口だけで話にもならないやつばかりだった。このあたりには多少なりとも経験を積んだDランクが集まるって聞いていたから期待していたのに、いざ勝負になったら、まったく相手にもならない。大勢が最初の一撃で戦闘不能になる。ましてや、Eランクなんてのは論外。戦うまでもないだろ」
そう言ってマイトは僕たちを見て嗤った。
「だが、Cランクならちょっとは愉しめそうだ。さあ、俺と勝負しろ!」
大剣を構え、今にも斬りかかりそうなマイト。サイトは剣を構えず、僕たちに道を譲っていた。
「そうだな。ハンター全部を馬鹿にするような物言いをされたんだから、相手をしてやりたいくらいだが。俺よりもお前に勝負を挑みたそうな奴がいる。そいつらを倒せたら、俺が勝負をしてやるよ」
サイトの言葉を受けて、僕は杖を構え、ミアは剣を抜き放って前にでる。
「馬鹿は死ななきゃなおらないっていうしな」と物騒なことをいうミアと、
「Eランクが話にならないかどうか、試してみるといいよ」と杖を構える僕。
二人とも、ハンターとして、ちょっとイラッとしていたのだった。