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僕たちのリーダーは異世界からの転生者のようです  作者: ぜっとん
パーティの結成 『救いの手』
28/67

『魔蟲・アラクネロ』の討伐2

ちょっと間があきました。

ごめんなさい。

 魔物――。

 モンスターや化け物とも呼ばれる存在だ。獣や巨獣とは一線を画し、この世界に多く蔓延っている。

 古くは神話の時代に、魔物の王によって生み出されたとされているが、生物学者たちの間では獣や植物の体に魔力を宿した存在が長い時間をかけて生物として生き残っていったとする説が有力だそうだ。

 魔物は魔蟲、魔草、魔獣などに細分化して分類されるが、それらの共通点は魔法に対しての一定の耐性があることがあげられる。巨獣を含め、多くの獣は魔法には成す術が無いのとは対照的に、多くの魔物は魔法のような力を操ることまで確認されている。

 僕たちが討伐依頼を受注した魔蟲・アラクネロも、その例外では無かった。


「やはり遠出はいいな。心が洗われるようだ」

 カイゼルが街道を歩きながら大きく伸びをする。もともと体格のいいカイゼルが腕を伸ばすと、コキッと小気味いい音がした。窮屈な警護依頼なんかよりは、やっぱり少し遠くへ出かける討伐依頼などの方がやりがいがあるのだろう。彼は誰よりも今の状況を楽しんでいるようだった。

 朝早くからギルドに集まった僕、ミア、カイゼルの三人は、フリーダに勧められた魔蟲・アラクネロを討伐する為に、以前にレッドグリズリーを討伐した渓谷近くまでやって来ていた。

 以前はまる半日かかった旅程だったが、今回は体力のあるミアやカイゼルを先頭に、僕だって少しは遠出に慣れているので、ずっと早くに渓谷近くまでやってくることができた。

「依頼人はこの近くの町の町長だったか?」

「そうだよ。討伐に入る前に挨拶くらいは行っておいた方がいいかな?」

「ああ。依頼完了後は町にやっかいになる可能性もある。先に挨拶をしておいた方がいいだろう」

「なら、先を急ぐぞ」

 話を聞いていたミアが足早に街道を進んでいく。

 やはりミアも張り切っているのだろう。「早くしろ」なんて言いながら一人先を進んで行った。

 そうしている内に街道沿いに小さな町が見えてくる。町の周囲には小さな堀、そして今は木を削って造られた物々しい囲いがぐるりと町を囲っていた。

「魔物対策かな?」

「だろうな。随分前になるが、以前来た時にはこんな囲いはなかった」

 即席でつくられた塀は、ところどころ攻撃にさらされたのか破壊された跡もある。粘性のある糸のようなものが、そこかしこに絡まり付いていた。

「トリア、ミア、武器を取れ」とカイゼルが剣を抜き放つ。

「これだけ厳重な守りを作っているのに、門番一人立っていない。何より、静かすぎる」

 確かに、村の入口らしき場所は誰もいない。門扉は攻撃にさらされたようでぼろぼろで、焼け焦げた様な跡や、糸が特に多く絡まり付いていた。

「慎重に行くぞ。全滅しているとは考えにくいが、魔物が残っている可能性が高い」

 僕とミアも頷くと、カイゼルを先頭に町の中へと入っていく。僕もポーチの中から圧縮魔法陣をいくつか取り出し、短く呪文を詠唱すると、攻撃魔法をホールドしておいた。

 町の中は思っていたよりも被害は少なかったようだ。糸はどこにでも見ることができたけれど、破壊された建物はほとんど無いようだった。

「トリア、人だ」

 最初に村人を見つけたのは目のいいミアだった。

 彼女の指さした先には、通りの真ん中に立ちつくした女性がいた。ただじっとそこに立っているだけだった。彼女もこちらに気がついたようだ。虚ろな表情で振り返り、一歩、二歩とこちらに向かってきた。

「町の人ですか? ここで何があったんです?」

 とりあえず事情を訊こうと歩み寄る。しかし、次の瞬間には――。

「避けろ、トリア!」

 僕はカイゼルに引き戻され、地面を転がる。見れば、彼女の手に握られたナイフが、先ほどまで僕のいた場所を斬り裂くように振られた直後だった。

「何のつもりだ!」

 ミアが双剣を構え、僕たちの前に立つ。彼女は何も答えない。

 それどころか、同じような状態の町の人々らしき人たちが、そこかしこの建物の影や路地から姿を現す。彼らは一様に手に武器を持ち、虚ろな表情で僕たちに向かって来ていた。

「アラクネロだな」とカイゼルが呟く。

「どういうこと?」

「おそらくは傀儡の魔法のようなもので操作している」

 魔物と巨獣の違いに戦慄を覚える。本来なら無関係な人々までが、今や僕たちと敵対している。

「どうする、トリア。気絶させるか?」

「いや、たぶん無駄だ。あの人たち、意識はない」

 それどころか、生きているかどうかも怪しい。

「傀儡の魔術なら、術者をしとめるか拘束して動けなくするしかない。ミア、蜘蛛の糸で動きを制限して。僕は『アイスロック』で一気に固める」

「駄目だ。この人たちを相手に、体力も魔力も使ってはいけない。ここは逃げるぞ」

 僕の指示に被せるようにカイゼルが叫ぶ。

「ミア、蜘蛛の糸で動きを制限。町入り口までの通路を確保。トリアは極力魔力を使うな」

 ミアが逡巡する。だが、カイゼルの剣幕に押されたのだろう。彼女は投げナイフを人々の間に投げると。糸を張って、人々が通れないように妨害する。僕たちはひと塊りになって間を包囲を抜けると、街の外を目指して走っていく。

「カイゼル、どうして?」

「わからないか。あの人たちをどれだけ動けなくしたところで、操っているアラクネロを倒さなければ、根本的に解決にはならない。ならば、体力はもちろん、トリアの魔力も、全てはアラクネロを討伐する為に温存するべきだ。それに、あの人たちはいつからあの状態なんだ?」

 彼の言葉に僕はハッとする。

「依頼が出されたのは数日前だ。最低でも、二三日はあの状態が続いている。体力的にも限界になっているものがいるはずだ。そこに打撃はおろか、拘束用魔法でも衝撃を与えれば、死ぬ者も出てくる」

「だったら、すぐにでもアラクネロを探さないと――」

 僕たちは足早に町の外を目指す。だが、アラクネロは僕たちを逃がすつもりは無いようだった。

 突如、民家の屋根の上から黒い蜘蛛が三匹、通りに飛び降りてくる。身体の大きさは50センチくらい。黒い足に黄色い八つの眼。全身を細い毛が覆っている。獰猛な鳴き声を響かせながら、白い牙の生えた口からは涎のような液体を滴らせていた。

「アラクネロの幼体だな。おそらく、この町に巣をつくって生んだんだ」

「こいつらなら遠慮はいらないな」

「こいつらが町の人たちを」

 僕はホールドしていた攻撃魔法『アイスニードル』を一匹に向かって放つ。併せてミアも双剣で一匹に向かって跳躍し、ナイフを目に突き刺す。

 段違いなのはカイゼルだ。一瞬のうちに一匹の足を片側四本を斬り落として動きを封じると、次の瞬間には蜘蛛の頭にショートソードを突き刺していた。

 断末魔の悲鳴が町に響き、その声に誘われるように更に何匹かの幼体が寄ってくる。

「これ、きりが無いんじゃないか」

「弱音吐いても仕方ないだろ」

「魔法で一度に潰すしかないんじゃないかな」

 僕たちは背中合わせになるように集まる。

「範囲攻撃か。何か有効な魔法はあるのか?」

「出来ない訳じゃないけど。動きを止めるくらいしかできないかも」

「それでも、好き勝手動かれるよりはマシか。頼む」

 僕は一つ頷くと呪文の詠唱を始める。その間に襲いかかってくる蜘蛛たちはカイゼルとミアがそれぞれ妨害してくれていた。

「準備できた。離れて!」

 合図に合わせてミアとカイゼルが退くと、僕の足もとに魔法陣が広がる。

「凍てつく大地よ、降り注げよ百の氷柱よ――『氷点の世界』」

 呪文に合わせて僕の前方にいた蜘蛛たちの足もとが凍りつき、その場に縫いつける。そこに氷柱が雨のように降り注ぎ、僕の前方にいた蜘蛛の団体を刺し潰していった。

「いいぞ。これなら、町の被害も最小限に抑えられる。もう一発撃てるか?」

「もう一回くらいなら……、なんとか」

 僕は倦怠感を覚えながらも答える。『氷点の世界』はレベルの高すぎる大魔法だ。一発撃つだけでも、僕の魔力も精神力も、ごっそり削られたような錯覚を覚えた。なんとか、杖で身体を支えて詠唱を始める。

 しかし、その状況に蜘蛛たちが危機感を覚えたのだろうか。一斉に鳴き声を響かせ始める。

「何だ、こいつら」

「気をつけろ、たぶん親を呼んでるんだ」

 ミアとカイゼルが剣を構えつつ後ずさる。僕はその間も詠唱を続ける。だが、唱え終わるよりも早く、そいつはやってきた。

 屋根の上を駆けてきたであろう蜘蛛は、一メートルを超える大きさで、幼体に比べると更に太い牙を持ち、血を滴らせていた。

「アラクネロの成体。こいつが本命だ!」

 カイゼルの言葉に、ミアがナイフを抜き放つ。しかし、ナイフなどものともしない。どうやら親の身体は固い甲皮に覆われているらしい。

「でも、こいつを倒せば町の人たちを開放できるんでしょ。だったら、一気に叩き潰す!」

 詠唱を終えると、僕は杖を構える。足もとに再び魔法陣が広がる。

 氷が僕の正面に向かって広がっていく。しかし、さっきよりも広がる範囲が狭い。その上、蜘蛛たちの動きを封じるはずの氷も薄く。アラクネロも易々と氷を蹴散らしている。

「『氷点の世界』!」

 気力を振り絞って放った魔法。なのに降り注ぐ氷柱は数も少なく、細いものが多い。何匹かの幼体を仕留めることはできたが、アラクネロの甲皮を貫くことはできなかった。

「トリア!」

 ミアが叫ぶ。僕は魔力の使い過ぎでその場で膝をついてしまっていた。そこにアラクネロの前足が迫る。

 僕が固く目を閉じて痛みを覚悟すると、何かに包まれるような感触を感じながら突き飛ばされる。

 僕が目を開いた時、僕の目の前には痛みに顔をしかめるミアがいた。その腕から血が流れている。ミアは僕を助ける為に、その腕にアラクネロの攻撃を受けたのだ。

「ここまでだ。逃げるぞ!」

 身体強化魔法を使ったカイゼルが僕とミアを抱え上げる。そして、最初の魔法で倒した幼体たちの間を抜けるように、町の外に向かって逃げる。アラクネロたちも追っては来るが、全力で身体強化を使ったカイゼルには追いつけないようだ。

 カイゼルは跳躍すると、町の囲いを飛び越えていく。町や森からも離れ、渓谷へと駆けて行った。


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