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僕たちのリーダーは異世界からの転生者のようです  作者: ぜっとん
パーティの結成 『救いの手』
26/67

ニボックル家にて フリーダの夜

「どこか痒いところはありませんか?」

「いや……、ありませんけど」

「遠慮しないでくださいね。チームメンバーのマネージメントが私の仕事なんですから」

「だからってこんなこと」

「あら。こういうのはお気に召しませんでしたか?」

 時刻は夜。家に帰ってきた僕は、何故かフリーダと二人でお風呂に入っていた。彼女は身体にバスタオルこそ巻いているものの、その下は何も着ていないらしい。僕に至ってはタオル一枚身につけてはおらず、両手であそこを隠している。

 そんな僕の様子を見ながら、フリーダは悪戯っぽい表情をしていた。

 彼女の細い指が僕の髪を洗っている。

「目を閉じていてくださいね」

 言うとおりにしたらお湯を頭から掛けられた。女の子とお風呂で二人きり、どうやってもこれが現実だ。


 ………………。


「僕の家に泊まりたい?」

 街の警護依頼の後、フリーダに声を掛けられた僕は疑問符を浮かべていた。

「聞けば、トリアさんは家にマイトさん、エレクトラさんと一緒に暮らしているとか」

「そうだね。二人とも、元々は街の住人じゃないから、こっちでの生活で僕が部屋を貸しているんだ」

「ええ。それで、できれば私もそこに入れていただけないかと思いまして。知っての通り、私はマキュレイ商会の商隊と一緒に街に来たんですが、商隊も近日中には街を離れるらしく。パーティの事務員として街に定住する為の住居を探していたんです」

「そうだったのか。確かに、こっちでの生活場所は必要だよね」

 もともとマキュレイ商会は王都に店舗を構えている。このベルベックで暮らすには他に宿か家を借りるしかないが、「そんな無駄金使えませんよ。私もパーティのマネージメントをしている内は、実家の資産を当てにしたりはできませんから」とのことだ。

「まあ、そういうことなら仕方ないか」と快諾しフリーダを連れて帰ったのだ。


「と言う訳で、今日からお世話になります。よろしくお願いします」

 夕食の席、僕はマイトとエレクに事の成り行きを説明して、彼女も一緒に住むことを説明する。二人は驚いてはいたものの、概ね彼女の同居は賛成のようで、すっかり歓迎ムードだった。

「そうと決まれば、秘蔵の奴を開けるしかないな!」

 マイトが我先にとキッチンに向かい、戸棚の中からキュールのボトルを取ってくる。エレクも「ようし」なんて気合いを入れると、保存していた干し肉を持って来たりしていた。どれも簡易食材なのだが、所狭しとテーブルに料理が並んでいく。

「ちょっと待ってください」

 その様子を見て、フリーダが待ったを掛ける。その表情がちょっと引きつっていた。

「歓迎していただけるのは嬉しいのですが、皆さんは何を用意されているのですか?」

「えっとね……、これはハムで、こっちは魚の塩漬け、あとは山菜だよ」とエレク。

「固形スープの元にお湯と野菜を入れて、スープをつくったんだけど……」と僕。

「酒だよ、酒。飲むしかないだろ?」とマイト。

 フリーダは頭痛でもするのだろうか、こめかみに指先をあてていた。

「まず、トリアさんとエレクさんはハンターらしいと言えばそれまでですが、それは普通の夕食で食べるものではなく、保存食と言うものです。マイトさんに至っては、宴会とでも勘違いしているんですか? 普通の夕食はどうしました?」

「夕食って……、これだよね?」

「えっと、ごめんね。僕たち簡単な料理もできなくて」

「宴会じゃないのか?」

 何を言ってるんだろう、と首を傾げるエレク。僕は何となくフリーダの言いたいことがわかったので、申し訳なさそうにするしかない。マイトは既にボトルを開けていた。

「わかりました。あなたたち三人には、まず食生活の改善が必要ですね。キッチンを借ります。それから、エレクさんも最低限は料理できないと困ります。教えるのでついて来てください」

 フリーダはそう言うと、エレクを引きずってキッチンに立つ。しばらくして憔悴したエレクとフリーダが持って来てくれたのは、温かい湯気をたてているポトフだった。

「夕食とはこういうものを言うのですよ。さ、召し上がってください」

 フリーダがよそってくれたポトフがそれぞれの前に配られる。エレクはと見れば、既においしそうにジャガイモを食べてとろけるような笑顔になっていた。

「凄い。我が家にまともな夕食が」

「おぉ、何だよ。悪いな、主賓なのに用意なんかさせて」

 僕たちは干し肉なんかも食べながら、彼女のつくってくれた夕食に舌鼓をうつ。

 そして、マイトの出してくれたお酒のせいで、四人の夕食は騒がしくも過ぎて行った。


「……で、エレクさんとマイトさんは寝てしまいましたか?」

 食器を片づけていると、フリーダがやれやれとかぶりを振っていた。

 マイトはその辺の床で、エレクはソファーで丸くなるように眠っている。二人ともそうとうお酒を飲んでいたので、仕方がないと思う。かく言う僕も、マイトに随分と飲まされたせいで少しふらついていた。

「だらしがないですね。ほら、せめてベッドで寝なさい」

 言いながらフリーダがマイトの顔面に踵を落とす。「うげぇ」と呻いたと思ったら、まったく動かなくなった。まあ、大丈夫だとは思うけど……。

「トリアさんも、エレクさんを寝室まで運んでください。さすがにそのままでは困ります」

「う、うん。『身体強化』」

 僕は魔法で少しだけ力を強化すると彼女を抱き上げる。普段の僕は非力だけれど、魔法を使えばエレクくらいなら運べそうだった。

「魔法は便利ですね、力の向上もできて。ですがトリアさん、襲っちゃ駄目ですよ?」

「しないよ、そんなこと!」

「ならいいですけど」

 ジトッとした目で僕を見るフリーダ。僕は彼女をベッドで寝かせる。そのままだと服が皺になりそうだったけど、それくらいは勘弁して貰おう。ふわっと甘い香りが鼻腔をくすぐって、エレクの顔を見ながら僕の胸は鼓動を強くしていた。

「まあ、反応が無いよりはよかったと思うことにします。トリアさんも男性だった、ということで」

「うわっ」

 いつの間にか背後に立っていたフリーダに驚きの声を上げる。昨日もそうだったけれど、彼女は人の背後をとることが上手すぎる。心臓に悪いようなことをしてほしく無い。

「そんなことよりトリアさん。お風呂の用意をしています。今日は依頼で汗もかいたと思いますし、お風呂に入って来て、ゆっくり疲れをとってください」

「あれ? いいの?」

「たまにはいいでしょう。私もお風呂に入りたいと思っていましたので」

 僕たちの間ではお風呂はとても貴重なものだ。まずお湯を沸かす為の薪の用意や、自分たちが浸かれるだけのお湯を用意するのも一苦労。普段は水浴びなどで済ませることが多いくらいだ。それを、わざわざ風呂の用意をしてくれたのだから、僕には断る理由は無かった。

 彼女に勧められるままにお風呂に入る。湯船に浸かると疲れがとれていくような感覚を覚える。

「お湯加減はいかがですか?」

「ん……、ちょうどいいよ。暑すぎずぬる過ぎず」

「そうですか。それは良かった」

 彼女の声がやけに近くから聞こえる。見れば、浴室に彼女がいつの間にか入り込んでいた。

「少し詰めてくださいますか?」

「あ、ごめん」

 言われて、僕は狭い浴槽内で少し小さくなる。彼女が浴槽に入って来て、僕たちは並んでお風呂に入った。

「じゃなくて! フリーダ、何やってんだよ?」

「何って……。お風呂ですが、何か?」

「いや、そういうこと言ってるんじゃなくて! 僕が入ってるんだよ?」

「私もお風呂に入りたいと言ったじゃないですか」

「僕が変なのか? フリーダは恥ずかしくないの?」

「恥ずかしいに決まってるじゃないですか。それより、髪、洗いません?」

 そして話は冒頭に戻る。僕は彼女に押し切られるように二人っきりでお風呂に入ることになったのだった。


「それにしても、やっぱり人がいいですね。こんなになっても私を追い出したりできないなんて」

「追い出していいの?」

「いいえ。やめてください。それからトリアさんが先に出るのも却下です。そんなことしたら、私の裸、まじまじと見られそうですしね」

 僕は湯船の中で彼女に背を向けて小さくなる。彼女はそんな僕にもたれるように湯船に入っている。お湯のせいだけではなく、彼女の存在で頭が茹であがりそうだった。

「トリアさんは、おかしいとは思いませんでしたか?」

「この状況に?」

「いえ、もっと大局的に。私がパーティーに加盟したことも含めて、です」

「それは……。思った」

 サイトが色々と説明はしてくれたし、結果的に彼女が加盟してくれたおかげでパーティの運営はうまくいきそうだが、彼女がパーティに入る経緯はどこか違和感があったのだ。まるで、サイトの予定に誤差が生じたような、そんな些細な違和感。

「フリーダは本当にパーティのマネージメントをする為だけに加盟したの?」

「ふふっ。やっぱり、あなたは聡明な方ですね。でも、ちょっと不用意でもあります――」

 彼女の言葉と共に、一瞬の浮遊感を感じる。気がつけば、僕は風呂場の床にうつぶせに倒されていた。右腕を取られ、関節を極められているせいで、身動きが取れない。やわらかな何かが僕の背中に触れていた。

「少しそのままでいてくださいね。でないと……、恥ずかしいですから」なんて彼女が耳元で囁く。

「どういうつもり?」

「どうもこうもないですよ。ちょっと腹をわって話をしようと思っただけです。お互いに、自分の立ち位置をハッキリさせた方が、理解は速いでしょう?」

「何を言っているのかわからない」

「私は、あなたにハンターをやめさせるために加盟した。復讐なんてやめさせるために」

「……っ!」

「これでわかりました?」

 フリーダの細い指先が僕の背を撫でる。

「ヤエトさんの差し金?」

「50点です。あなたはもう少し仲間に思われていますよ。あなたをとても大事に思っているのでしょうね」

 頭の中に寂しそうな表情をするサイトの姿が浮かんだ。十中八九、これはサイトも噛んでいるのだろう。だとしたら、僕の感じた違和感にも合点がいった。

「とてもいい仲間ですよね。今日の夕飯もとても楽しかった。こんな日々がいつまでも続けばいいとは思えませんか?」

 鈴を転がすような囁きを続けるフリーダ。

「あなたはとても真面目な方です。今を精一杯生きている。努力を続け、魔力を磨き、現在をとても護っている。そんな貴方を見て、未来を夢見る仲間も傍にいる。なのに、あなた自身は結局のところ、今も未来も見ていない。過去に囚われて、過去の為に今を犠牲にしようとしている。そんなの、くだらないでしょう?」

「そんなことは無い。僕は――」

「復讐には皆を巻き込まない、ですか? あなたが復讐に身を投じれば、あなたがいる未来は仲間の中から消えるのですよ。それは、仲間を巻き込むこととは言えませんか?」

 彼女の一言が僕の中の何かをひしぎ折っていく。

「エレクさん可愛いですね。まるで押し掛け妻です。良い家庭が作れると思いますよ? マイトさんはとても楽しい方ですね。ルームメイトであり、親友のような存在になりますよ。彼らと歩む未来は選べませんか。それとも――」

 ぴったりと彼女の肌が僕の背中に触れる。彼女の胸の鼓動まで感じてしまう。

「ここで私があなたを襲って、私が孕んでしまったら、人のいいあなたはハンターや復讐の為の努力を続けなくなるでしょうか?」

「『身体強化』」

 僕の身体が燐光に包まれる。彼女を撥ね退けると、僕は距離をとる。

 酷薄な笑みを浮かべてフリーダが、手で身体を隠して僕を見ていた。

「襲われるよりは、襲う方がお好みでしたか? 私はそれでもいいですよ。それとも今からエレクさんの部屋に行きますか?」

「僕は、そんなこと、しない」

 僕の言葉に浴室は静寂に包まれる。フリーダは嘆息すると、僕とすれ違うように浴室から出て行った。

「確信しました。あなたはやっぱり過去しか見ていない。仲間を見ているようで、その実、見ているのは仲間を犠牲にした過去への復讐ですよ。そんなあなたに自由なハンターなんて向いていない。パーティーは私が強くしますよ、だからあなたはハンターをやめる幸せを見つけるといいですよ。復讐なんて忘れてしまって、ね」

 フリーダの足音が浴室から遠ざかる。僕はどうしようもなく情けなくて、壁を殴りつける。強化した拳で浴室の壁にひびが入ったけれど、拳の痛みは胸の痛みまでは消してくれなかった。


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