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僕たちのリーダーは異世界からの転生者のようです  作者: ぜっとん
パーティの結成 『救いの手』
21/67

ベルベック市場とマネージメント1

討伐の話が終わって、やや日常パートに戻ってきました。

 ある夜のこと、その日もサイトは自分の部屋で本を読んでいた。転生前から読書好きだった彼の習慣は、この世界に転生してからも変わることはなかった。

 そこへ乱暴なノックの音が響き、ミアが飛び込んで来た。

「なんだミアか。どうした血相変えて」

「大変なんだ。エレクちゃんがトリアの家に住むって」

「あ~……。そうなったか」

 サイトは妹の様子に苦笑する。我が妹のことなので、彼女がトリアを憎からず思っているのは知っていたけれど、ここまで狼狽するとは思っていなかった。

「どうしよう。どうすればいい?」

「まあ落ち着け。何も四六時中二人っきりって訳でもない。トリアの家にはマイトも住んでいるし、すぐにどうこうって話でも無いだろ?」

「そんなの知るか! 兄貴、どうにかしてくれ」

「人にモノを頼む態度じゃないな。ちゃんと額を床に擦り付けてだな……」

 言い掛けたサイトの後頭部にハイキックが突き刺さる。

「どうにかしろ」

「任せろ」

 強迫染みたミアの言葉に、サイトがサムズアップで応える。

 こうして、サイトはまた一計を案じることになったのだった。


 ………………。


 僕たちの住んでいるベルベックの街では、街道沿いという立地上、よく行商の人たちが立ち寄る。

 特に週末になると多くの行商の人々が広場に集まって市を開いている。市役所前の広場を終点に、大通り沿いにたくさんの商店の馬車やテントが並ぶのだ。その中には普段は店で買えない地方の食材や貴重な香辛料や他種族のつくった武具などが並ぶこともある。

 そして、この日の僕はそんな市に行くことになり、ギルドの前で待ち合わせをしていた。

「待たせたか」

 約束の時間よりも少し早く、ミアがやってくる。彼女の格好を見て少なからず驚いた。

「な、何だ。どこか変か?」

「いや。いつもの格好だと思ってたから。その格好も似合ってるよ」

「そうか。おだてても何も出ないぞ」

「お世辞なんか言わないよ」

 ミアはショートパンツに少し長めの黒いソックス。光沢のある革靴。ライトブルーのノースリーブブラウスを着ていた。そして、いつものように髪をポニーテールにはしておらず、肩まで下ろしてヘアピンで顔を出すようにしている。少し化粧もしているのか、リップクリームの光が印象的だった。

「母さんが服を決めたんだ。私はいつもの服でいいって言ったのに」

「僕も今日の服は可愛いと思うよ」

「そうか。なら、いい」

 頬を染めながら髪を指先で触るミア。

「それじゃあ、行こうか。何が買いたいんだっけ?」

「あ、ああ。えっと、新しい双剣を――」

 言いかけたミアが少し固まる。キョロキョロとあたりを見たと思ったら、ぎこちなく笑みを浮かべた。

「何でもない。新しいアクセサリーを見に行きたかったんだ」

「そうなの。僕、あんまりそういうのは詳しくないけど。エレクとか呼んでこようか?」

「いや、いいんだ。トリアが選んでくれ」

「いいけど。あんまり期待しないでね」

 そう言うと僕たちは連れだって市に向かう。ミアはやっぱりどこかぎこちなかった。


「とりあえずは第一段階成功だ、オーバー」

「はぁ。何で俺がこんな出歯亀みたいな真似を」

 そんな二人を見守るように、少し離れた屋根の上に影が二つ。

 サイトとカイゼルが並んでいた。

「しかし、やはり援助についていて正解だったな。服装や化粧など、カイゼルの家のメイドにかなり手を入れてもらったというのに、まさか双剣を見に行きたいと言い出すとは」

「使っていた双剣が古くなっていたのは本当だろう。当然の反応じゃないのか?」

「だったとしても。二人きりで買い物に行くのに、女子の方から剣が見たい、なんて言ってみろ。この後は何があってもいいムードにはならんぞ」

「まあ、その通りだが。しかし伝達魔法まで使う必要があるのか」

「なるべく二人きりの状況を崩さない為だ」

 言いながらサイトは屋根から屋根へ飛び移って二人を追う。さすがに二人の会話は聞こえないが、トリアが何か話してミアが言葉少なめに返事をしているようだった。つまりはいつもの二人だ。

「何している、ミア。腕くらい組め!」

(できるかボケ!)

 サイトの頭の中にミアからの返事が返ってくる。

 ミアはと言えば、ちょっとトリアの腕を気にする素振りを見せていたものの、ブラウスの前で心細げに指を遊ばせていた。


 そんな二人の尾行がついているとも知らず、僕とミアの二人は市の店を見て回る。

 珍しい異国の食べ物や屋台に心惹かれ、ミアと並んで食べ歩きをしながら、目当ての店を探していた。

「このマンゴーというのは旨いな。これなら毎日食べたいぞ」

「南方の果物らしいね。こんど依頼で南方に行くことがあったら探してみようか」

「いいな。できたら苗を買おう。私の家に植えるんだ」

 やっぱり色気よりは食い気なのだろうか。時折、変な行動をしたりはするものの、ミアは異国の食べ物を扱う露天に興味深々といった様子だった。

 そうこうしている内に、僕は一つの露店の前で足を止める。その露店にはいくつもの剣がテーブルの上に並べられていた。

「武器の行商か」

 僕に倣って、ミアも露店の前で足を止める。

「トリアも剣が必要なのか?」

「いや、そう言う訳じゃないけど。ミアの双剣も随分長い間使っていたから、だいぶ痛んでるでしょ。だからいい剣は無いかなって思って」

「……気づいてたのか」

「ミアとも付き合い長いしね」

 僕が苦笑するとミアはまた頬を染める。それから僕と一緒に剣を見始めた。

「なんだい。剣に興味があるのか」

 そうしていると威勢のいい店主らしき男の人に声を掛けられる。恰幅のいい、強面の人だった。

「だったらこれなんてどうだい? 材質は青銅製、坊主のような体格でも振り回しやすい一品だ」

「ありがとうございます。でも、必要なのは彼女なんです」

「は? こっちのいいとこの嬢ちゃんが?」と店主が訝しげな表情をする。

「僕たちはEランクハンターで、僕は魔術師。彼女は双剣士なんですよ」

「見えないもんだな。でもまあ、お客様には変わりない、と」

 言いながら店主が奥から布に包まれた剣を取り出す。布を取ると、豪奢な細工をされた鞘に包まれた双剣が出てきた。

「だったら、こいつはどうだい。東はラグナ王国の山地にすむドワーフの一族が鍛え上げた一品だ。材質のメインは鉄だが、他の金属の配分はドワーフの秘伝。使い勝手がいい刃渡りの両刃に、柄は樫の木でできているからちょっとやそっとじゃ傷つかない。今なら格安で譲ってやろう」

「ドワーフの一品か」

 ミアが言いながら剣をじっと見る。すこし赤みがかった刃の色は鈍い光を宿していた。

 ドワーフは山岳や洞窟に住む一族で、僕たち人間に比べると長寿で小柄な人たちだ。彼らは人間とは違った鍛冶技術を持っているようで、職人ともなればその腕は一流。王国騎士でもドワーフの作った剣を持ちたいという人は多い程、剣では評判の人たちだった。

 まさか、こんな田舎の露店でドワーフの剣を目にするとは思わなかったが。本当なら確かに掘り出し物だ。

「これにしようかな」とミアが呟く。

「やめておいた方がいいですよ?」と、僕が制止するよりも早く、ミアに待ったを掛ける声があった。

 銀色の短髪に白いカチューシャ、緋色の瞳に透き通るような白い肌。濃紺のお仕着せをきたメイドさんがミアの横でメガネに手を添えて剣を見ていた。

「材料は本当に鉄ですか? この赤色は銅の色です。大半は銅で少し品質の悪い鉄が混ざっている状態ですよね。加工はしやすいですが耐久性に脆く、この剣ではすぐに錆びたり、熱に負けて曲がったりすると思います。所謂、粗悪品、という奴ですね」

「な、何だお前は」

 メイドさんの物言いに、店主が顔を真っ赤にして怒鳴る。対する彼女はメガネの奥で瞳に侮蔑の色を込めて店主を睨みつけていた。

「何だ、と言いたいのはこっちの方ですよ。私のマネージメントする商店の剣の売れ行きが芳しくないので調べていたら、近くでドワーフ製を名乗る粗悪品を格安で売っている店がいると聞いて来たんです。そしたら、このハンターの方たちにいかにもな粗悪品を売りつけようとしているじゃないですか。親切心から、彼女たちにアドバイスをしたまでです」

 淡々と答える彼女に気色ばんだ店主が再度怒鳴る。

「うちのが粗悪品だなんて酷い言いがかりだ。そんなことを言うからには、何か証拠があるんだろうな」

「無いとでも思っているんですか?」

「何を馬鹿な」

「ドワーフたちは自分たちの鍛冶技術に誇りを持っています。自分たちは人間に、あくまで剣を使わせてやっているんだ、と言い切るくらいにはね。だから彼らは柄の中の刀身にドワーフの言語で印を残します。あなたがこれをドワーフ製と言い切るのならば、当然この剣の刀身をみせることはできるのですよね?」

「いや、それは。その……だな」

 今度は店主が狼狽する番だった。何だ、何だ、と人だかりが露店の周りに出来上がっている。中には露店で剣を買った者たちもいるようで、何人かが自分の買った剣を見ているようだった。

「行きましょうか?」

「あ、うん。ありがとう」

 僕たちはメイドさんにお礼を言いながら後をついて行く。

 ミアは丁寧にも剣をテーブルに返していたが、何も言い返せなかった店主の様子に、さっきまで客だった人たちが返金を求めて殺到する。あっという間に店主は人に呑まれて見えなくなった。

「ふふっ、自業自得、という奴ですね」

 言いながら、メイドさんが後ろを振り返る。その表情は悪戯に成功した少女のようだった。


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