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僕たちのリーダーは異世界からの転生者のようです  作者: ぜっとん
パーティの結成 『救いの手』
18/67

巨獣『赤灰熊』の討伐4

 朝、目が覚めた時、すっかり雨はやんでいた。

 セーフハウスを出ると、穏やかな木漏れ日があたりを照らしていた。

「で、エレクは何をしているの?」

 振り返ると、まだ目元の赤いエレクが、一生懸命に鞄に鍋や食材を入れようとしていた。

「う~……、やっぱり、置いていくしかないかな?」

「そうだね。サイトがいないと圧縮魔法はできないし、食材はともかく、鍋とかは置いて行くしかないよ」

「そんな。勿体ないのに」

 エレクが困った表情で鞄に鍋を押し込もうとする。そこでいいことに気がついたとばかりに僕を見る。だいたい何が言いたいのかわかったので、先んじて断っておく。

「言っておくけど、僕には圧縮魔法なんて使えないからね」

「私の言いたいことわかったの?」

「だいたいわかるよ。あのね、サイトの圧縮魔法、原理だけ聞いたら滅茶苦茶なんだよ。サイトが使えてるのだって、いまだに理解できないんだから」

「そんなに難しいの?」

 僕がサイトに訊いた原理は、周囲の空間を固めて、モノと空間をひと塊に縮めるイメージでガラス玉を作り出すらしい。認識、固定、縮小を同時に行うと言っていたけれど、それでどうしてガラス玉になるのかが理解できなかった。

「バリア魔法だって出来たじゃない」

「あれは僕なりに原理をアレンジしたから使えただけだよ」

「だったら圧縮魔法もトリア君なりにアレンジすればいいんだよ」

「いや、簡単に言うけどさ」

「大丈夫だよ。トリア君ならできるって信じてるよ」

 僕のことをまっすぐに見つめるエレク。僕は断りきることができない。結局、魔法を使うことになった。

 とは言え、サイトの言った通りにしようと思っても、僕には理解の外にあるから実現なんかできない。僕なりの原理で圧縮魔法を使うしかない。

「まずは……、空間を固定」

 鍋を中心に空間をモノとして認識する。そして、空間を一つの物体として固定する。最後に空間を縮小するようにイメージする。小さく、均一に。そして――。

「凄いよ、トリア君。やっぱりできたよ」

 エレクの言うとおり、僕の目の前には鍋を圧縮した指先ほどの大きさの小さな箱があった。小さくて黒い箱は僕のつくりだしたイメージだ。

「まだだよ。勿体ないけど、一度壊して、中が無事かどうかを確かめないとね」

 言いながら、僕は箱を携帯ナイフの柄でつぶす。元通りの鍋がその場に無事に現れた。

「歪んでないし、壊れてもいないよ。これで圧縮魔法は成功だよね?」

「うん。本当にできるとは思わなかったけど」

 自分のことのように嬉しそうなエレク。僕は内心ドキドキしていたけれど、努めて平静を装う。

 最後の形が違うけれど、僕にも圧縮魔法が使えた。この事実は僕にとって、一つの選択肢を選べるようになったということだった。

「エレク、もうちょっと圧縮魔法の練習に付き合ってもらってもいいかな」

「勿論だよ。それで、次は何を圧縮するの?」

「うん。ちょっと考えてみたことなんだけど――」

 エレクが僕の言葉に目を丸くする。それから、喜んで僕の練習に付き合ってくれた。


 ………………。


 昼近くになり、僕とエレクは森の中を歩いていた。

 目的はもちろんサイトたちとの合流だ。その為に僕たちはあるものを探していた。

 途中、「索敵魔法も使えるかも」なんていうエレクに促されてやってみようと思ったが、そもそも原理も何も教えてもらっていない魔法については使えそうになかった。

「あったよ、トリア君。これだよね」

 エレクが指さしていたのは、緋色の葉をつけた木だった。

「うん、間違いないよ。『アイスニードル』」

 ホールドしていた魔法を気に向かって放つ。氷の針が無数に飛び出し、いくつかの枝が地に落ちる。僕たちはそれを集めると、近くの平野でそれらを薪と一緒に積み重ねた。

 僕たちが集めていたのは緋炎木と呼ばれる木だった。この木の幹にはいくらかの鉱物などが含まれているらしい。これらを薪と一緒に燃やすと緋色の炎がでる。その煙もまた赤く染まる為、僕たちハンターの中では仲間に自分の居場所を知らせたり、合図を送る為の手段として知られていた。

 エレクが火の魔法で薪を燃やす。あっという間に緋炎木の枝にまで火はまわり、赤い煙が空まで立ち昇っていく。

「これでサイトさんたちが見つけてくれれば、合流できるね」

「たぶんね。サイトの探索魔法もあるし、距離が離れていなければ、すぐに来てくれるんじゃないかな」

 火の傍で二人で並んで座る。

 赤い煙の意味することを知っているのか、森も不気味なほどに静かだ。オークやオーガなども赤い煙が上がれば、近くにハンターがいることを学習している。その為、赤い煙を見た知性のある魔物や巨獣は離れて行くのが普通だった。その為、僕たちは油断していた――。

「あ、サイトさんかな?」

 しばらくして、森の木々が揺れる。

「いや、違う。あいつは……」

 木々を薙ぎ倒し現れたのは、傷を負い、隻眼となったレッドグリズリーだった。

 身体には夥しい傷を負い、片目は潰されている。赤い毛皮は黒く固まった血と泥で汚れている。だが腕力や爪、牙は健在。怒りに狂ったような獰猛さで、僕とエレクを狙っていた。

「あいつ、昨日のレッドグリズリーだ。何でここに」

 サイトたちが負けたとは考えにくい。何より、あの傷とここにたどり着くまでの速さだ。可能性があるとすれば、深手を負い、一か八かで僕たちと同じように川に流されてやって来ることだ。

 おまけに、あいつは賢い。ゴーレムのいる場所で僕たちを待ち伏せた。そして、今回は僕たちがサイトたちに向けた煙を見て、僕たちの位置を突き止めた。あいつは今、復讐心で動いているのだ。

「グルォォォオオオオオオオオ!」

 レッドグリズリーが咆哮する。その口元に笑みが浮かぶ。僕たちを獲物として見ているようだった。

「エレクは下がっていて」

 僕は杖を手に前に出る。正面から、あいつと向かい合う。

「トリア君、私も一緒に戦うよ」

「駄目だ!」

 僕の強い制止の声に、エレクの身体がビクリと跳ねる。

「僕たちは最悪を考えなければならない。サイトたちが仕留め損ねただけならまだいい。でも今の最悪は、サイトたちがもうあいつに負けていて、あいつは残った僕たちを始末する為に動いている可能性だ。だったら、ここで僕たちが取るべき行動は逃げること。でも二人では逃げられない。わかるでしょ」

「でも魔法使いが一人じゃ、詠唱している間に倒されちゃう」

「時間稼ぎくらいできる。その間に逃げるか、皆を見つける可能性に賭けるべきだ」

 レッドグリズリーの動きは早い。僕たちの足ではすぐに追いつかれてしまうだろう。もしもサイトたちが無事なら、きっとこっちに向かっている。どちらか一人でもこの場を離れれば、皆と合流して戻れる可能性もある。

「ここで、僕が食い止めるのが最良だ。それに――」

 サイトみたいな悪戯っぽい笑みを浮かべて言葉を続ける。

「僕が倒してしまっても、問題無いんだろ?」

 似合わない強気な言葉。僕は恐怖心を笑顔で殺す。今だけは、サイトのような強さが必要だ。

「行って」

「わかった。サイトさんたち見つけて、絶対に戻るから」

 エレクが全速力で走りだす。レッドグリズリーが後を追おうとするが、その眼前に火のついた枝を投げて牽制する。

「お前の相手はこの僕だ」


 通常、魔術師と巨獣は一対一では戦いにならない。

 詠唱をしている間に、距離を詰められて一方的に蹂躙されるのが目に見えている。

「身体強化、30秒」

 短縮詠唱で僕は自分自身の速度を上げる。襲いかかるレッドグリズリーの攻撃を紙一重で避ける。

 避けながら、次の呪文の詠唱を始める。

『アイスニードル』

 氷の針が現れて、無数にレッドグリズリーの目に迫る。氷の針程度ではダメージにはつながらない。視界を奪うのが目的だったけれど、もう見えていなくても関係が無いのだろう。無茶苦茶に腕を振り回して転げ回り、僕のすぐ傍を牙と爪が掠めて行く。

 まだ十数秒にも満たない。なのにレッドグリズリーと僕の間に距離は無い。近接戦闘になれば、僕が圧倒的に不利だった。今朝方の訓練が無かったらの話だ。

 僕は腰に下げていたポーチの中から黒い箱を取り出す。指先ほどの大きさのそれが僕の切り札だ。

 レッドグリズリーは僕には反撃の手段が無いと思って油断している。

 杖の先で僕は箱を叩き壊す。

「抉れ『ストーンエッジ』!」

 魔法陣が広がる。石の槍が現れてレッドグリズリーの身体を突き上げる。

 僕は続けて三つの箱を放り投げると、右から順番に杖でたたき割る。全ての箱の中に閉じ込められていた魔法陣が広がり、それぞれの魔法が発動する。

「拘束しろ『アイスロック』 広がれ『アースウォール』 押しつぶせ『神殿の石柱』」

 氷の光が右足を縫いつけ、土の壁が周囲を包囲する。そして空中に現れた石柱が、レッドグリズリーの顔面を捉えた。グリズリーはまだ倒れない。戒めに足を取られながら、石柱を砕き、怒り狂う。

 僕のやったことは単純だ。呪文を詠唱した時、その場には魔法陣が現れる。その魔法陣を、僕は圧縮魔法でその空間ごと圧縮したのだ。圧縮魔法の中では時間も経過せず、そのままで保持することができる。そして、圧縮空間を破壊して魔法陣を広げれば、留めていた魔法をほとんど無詠唱で発動できるのだ。

 だから、今の僕に距離や詠唱時間なんてハンデは、圧縮魔法のストックがある限りは関係が無かった。

 通常詠唱で僕は最後の攻撃呪文を詠唱し終わっていた。

「『十の石剣』猛威を揮え」

 上空に現れるのは石でできた十本の大剣。それぞれが回転し、レッドグリズリーに向かって飛翔する。

 アースウォールに周囲を囲まれ、足を縫いつけられたレッドグリズリーに、十本もの大剣を向かい撃つ術はない。僕の使える最大の攻撃力の呪文だ。

 最初の大剣を爪をもって向かい撃つが、次の大剣が腕を貫き、胴を首を足を、次々と貫いて行く。最後に小さく唸りそれ以上動くことは無かった。

 その最期を見届けて、僕は全身を倦怠感に襲われて意識を手放したのだった。

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