パーティー結成
今回はちょっとコメディパートです。
こういうのも書いてて楽しい。
ちょっと長いですが、お付き合いください。
「名は体を表す、俺のいた世界ではそういう言葉があった」
サイトが今日もよく分からないことを言っている。
「名前はどういうものか教えてくれるってことかな?」
真面目な僕に「そんな感じだ」とざっくり答えるサイト。
「馬鹿だな」なんてミアが言っていた。
エレクは相変わらずの苦笑い。マイトはボケッと話だけは聞いているようで、カイゼルはやれやれと嘆息していた。僕たちは今日も平常運転だ。
カイゼルとマイトの試合から二日が経った。
思ったより二人ともダメージを受けていたようで、エレクに治癒をして貰っても、一日は休息が必要だったのだ。
そして、ようやくパーティー結成条件が満たせそうだと言うことで、僕たち六人はギルドのテーブルに集っていたのだ。
登録用紙を前にして、どうしようかと考えていた。
「当たり前だが、パーティー名がいるんだよな」
と他人事のようなサイト。
「まったく考えてなかったよね」
「何でもいいんじゃないかな」
「興味ない」
僕、エレク、ミアがそれぞれ応える。だが、あのサイトが適当な名前をつけてお茶を濁す何てことはなかった。
「そんなことでどうする。さっき言ったように、俺たちがこれからどうしていきたいかが、このパーティー名に込められるんだ。最高の名前を考えようじゃないか」
「また面倒なことを言い始めたな」
「そうだな」
マイトの言葉にカイゼルも首肯する。何だか最近、仲が良さそうな二人だった。
「サイトがリーダーなんだ。お前が名前をつければいいじゃないか」
「そうか?」
「そうだ。お前のつけた名前なら、よほどでなければ誰も文句は言わんよ」
「それじゃあ……」
カイゼルに言われて、サイトが登録用紙に向かうーー。
「ちょっと待て」
だが、そこでマイトが待ったを掛けた。
「ちなみに、何て名前にするつもりなんだ?」
「実は前から考えていた。『モンスターハンターズ』どうだ?」
「「「「………………」」」」
「ダサいな」
何も言えなかった僕たちを代表するように、ミアがバッサリと切り捨てる。
「なっ……。それじゃあ『モンスタースラッシャーズ』」
「意味がわからん」
「『ハンター魂』」
「全ハンター共通か?」
「『モンスターキラーズ』」
ミアとサイトのやり取りを聞いて、僕たちは顔を見合わせる。これは、自分たちも考える必要がありそうだった。
「それじゃあ、まずはエレクから。何案は無いかな?」
あの後、ネーミングセンスの絶望的なサイトを説き伏せ、もう一度全員で考えることにした。とは言え、何かしら候補があるに越したことは無いので、思いついたものを言って貰うことにしたのだ。
「実はちょっと自信があるの」
エレクはそう言うと胸を張る。
「まず有名どころを例に挙げると、『白銀の虎』『赤銅の蛇』とかは動物をモチーフにした名前だよね」
「あぁ、トップクラスのハンターチームだっけ」
「うん。王都のハンターチームだけど、ベルベックの街でもあの人たちを尊敬して、『青銅の蜥蜴』とか名乗ってる人たちもいるよ。やっぱり、何かインパクトのある人や動物を全面に押し出すのがいいんじゃないかな」
「なるほど。確かに説得力がある」
エレクの言葉に僕やサイトが頷く。
「それで、私が考えたのは――『魔人と聖女たち』――どうかな?」
「ちょっと待て!」
止めたのはマイトだった。
「魔人っていうのはサイトのことだよな?」
「うん。やっぱり、あの時のサイトさんの印象が強烈過ぎて。あれを活かさない手は無いと思うの」
「聖女はエレクのことか?」
「えへへ。聖女じゃないけどね、インパクトはあるよね?」
「俺の存在は『たち』の部分かよ」
「俺や、トリア、ミアも含まれるな。その他扱いか」
カイゼルも眉間にしわを寄せる。
「あれ? 駄目かな」
「駄目に決まってるだろうが」
「何のかんの言いながら、エレクって目立つようなの好きだよね」
「そ、そうかな……?」
僕の指摘に首をかしげるエレク。どうやら自覚症状は無いらしい。
「次はマイト、何かいい案はある」
「ふっ……。訊いておののけ」
「おののかせてどうするんだ」
「馬鹿だな」
カイゼルやミアが嘆息する。最初っから期待はしていないようだ。「う、うるさいな」とつっかかりそうだったマイトに話を続けさせる。
「まずエレクの言っていたように、特徴的なものを前面に押し出すことは有効だ。だが俺たち自身を示すような記号で無ければならないと俺は考えた」
「……まともなこと言ってる」とエレクが目を丸くする。けっこう失礼だった。
「俺たちが共通して持ち、そして俺たち自身の最終的な目標を入れるパーティ名。それこそが俺たちのパーティ名として相応しいと思わないか」
「す、凄いよマイト。そこまで考えたなんて。それで、なんて名前なの?」
「それはな――『最強の筋肉』――だ!」
「アホか!」
誰かが何かを言う前に、ミアがマイトの後頭部に蹴りを入れていた。
「何すんだよ。いい名前だろ?」
「どこがだ。最強を目指してるのはお前だけだし、だいたいなんで筋肉だ!」
「全員持ってるじゃないか。ほら、エレクだって腕に力入れてみろ」
「えっと……」と顔を真っ赤にしながらエレクが腕に力を入れる。力こぶは見えない。ぷにぷにだった。
「とりあえずお前のは却下だ」
「なんだよ。せっかく考えたのに」
マイトはまだ不服そうに呟いていたが、周りは全員ミアの味方のようだった。
「じゃあ、カイゼルは何かある?」
「そうだな。先達たちの名前を参考に、という考えも重要だと思う。しかし俺たちの目指す姿をパーティ名にすることこそが重要ではないか? そして、俺たちはハンターではあるが、このベルベックの街を起点として街に貢献するパーティでありたいと俺は考える」
「さすがカイゼル、そんな考え方もあるよね」
「あぁ。いずれは遠方に行くこともあるかもしれないが、街の名を背負い、遠方でも活躍すれば、巡り巡って街の為になるのではないだろうか」
「うん、そうなると嬉しいな。責任は重大になりそうだけど、やりがいがあるよ」
僕が同意すると、カイゼルも微笑み返す。さすがはCランクハンター。エレクやマイトは不服そうだが、二人よりも一歩先を考えているようだった。
「俺の考えた名前は――『ベルベック騎士団』――だ」
「えっと……」
あれ? 途中までは凄く共感できていたのに、名前が出た瞬間に急激に冷めた。
「なんか、地味だよね?」とエレクが首を傾げ、
「置きにいった感がすさまじいな」とマイトが呟き、
「文句言うのもなんだかな……」とミアもしかめっつらだった。
「とりあえず、却下かな?」
「何故だ」
「まあ、ありきたりっていうのが一つ。それから、僕たちはハンターで、騎士じゃないってのが一つかな」
「盲点だった。なら、『ベルベックハンターズ』でどうだ?」
「兄貴と同レベルか」
ミアの言葉に僕、エレク、マイトが頷く。どうやらハンターは高ランクになればネーミングセンスを失っていくらしい。
あーでもない、こーでもない、とたかが名前に時間を掛ける僕たち。
そんな中、僕はふと気がついて、何かもじもじしているミアに声を掛けた。
「ミアは、何か案があるの?」
「え……。わ、私は……」
皆の視線がミアに集まる。ミアは言いにくそうにしていたが――。
「とにかく、言ってみたらどうだ」
サイトが彼女の髪をクシャッと撫でる。ミアはコクリと頷いて、小さく呟いた。
「す、『救いの手』はどうだ」
「『救いの手』? 何でその名前を考えたの?」
ミアは顔を真っ赤にして続ける。
「わ、私にハンターをしないかって言ってくれたのは兄貴だ。私は、その時、兄貴が差し出してくれた手を忘れられない。あれから、トリアやエレクちゃんと仲良くなった。マイトとかカイゼルも嫌いじゃない」
エレクやマイト、カイゼルが目を合わせる。ミアにしては率直な言葉に、全員少し照れていた。
「ハンターとしてやっていくからには、討伐や護衛なんかの依頼をするんだろ。私は、その依頼に対しての兄貴の手みたいな存在になりたい。困ってる人たちを助ける『救いの手』。そんだけ」
言いながらミアはぷいっとそっぽを向く。
「どうやら、決まったようだな」
「だね」
ミアの話を聞いて、僕たちの中には彼女を否定できる仲間はいなかった。
「そうだね。私もミアちゃんやサイトさん、トリア君に助けてもらった。そんな風になれるかな」
「俺は別に助けてもらった覚えはないが。トリアに感謝することもあるしな。そうなるのも悪くねぇ」
「俺もだな。サイトの手を握った身だ。今度は俺自身が手を差し出せれば、この上ない」
こうして、僕たちのパーティーは『救いの手』としてギルドに登録された。
登録手続きをするサイトを見ながら、僕自身も思い出す。
小さい頃、塞ぎこみ、暗闇の中にいた自分自身を。そして、そこに手を差し出してくれたサイトを。僕自身も、いつか小さい僕を救ってくれたサイトのようになりたいと考えていた。




