常勝不敗3
マイトとカイゼルの試合から三日目。
マイトは分かりやすく落ち込んでいた。というか、魂が口から出たような状態でテーブルに突っ伏し続けていた。
「サイトに負けた時にも似たような状態になっていたよね」
「飯でも食えば復活するだろ」
「馬鹿だな」
僕、サイト、ミアがそれぞれ言うと、「馬鹿にしてんじゃねぇ」と力なくマイトは呻いていた。
「あはは……」
唯一、心配そうにしていたエレクが苦笑いをしていた。
「まあ、仕方ないんじゃないか」とサイト。
「トリアとミアに負けた時は二対一っていう状態だったし。俺に負けた時は二人に負けた後で体力も落ちていたっていう状態だったろ。だが、今回はエレクトラに回復をしてもらっていて、万全の状態で完全に負けたんだ。そりゃ、落ち込みもするよな」
『負けた』という文字がマイトに突き刺さったような気がする。マイトがビクッと体を震わせていた。
「あの……、よくわからないけど、そんなに落ち込むことなの?」
「マイトは勝負馬鹿だからな。エレクちゃんは気にする必要無い」
興味が無い話なのだろう。エレクは心配そうにしていたが、ミアは気にもしていないようだ。
「マイト、いい加減突っ伏すのはやめて、気分転換に森にでも行こうよ」
「………………いかねぇ」
「行かなくてどうするのさ」
「………………しらねぇ」
起き上がらせようとしてみるものの、どうしようも無い。困ったな、と僕が嘆息しているのを見て、サイトがやれやれと肩を竦めていた。
「トリアも気にするのはやめたらどうだ?」
「もう……。そういう訳にはいかないよ。ただでさえ、パーティ作りが滞ってるのに、この上マイトまでこんな状態じゃ、依頼も受けられないじゃないか」
「それもそうか」
納得顔のサイト。それから突っ伏すマイトを見て、口の端を吊り上げた。あぁ、悪いこと考えてる顔だ。
「拳闘士と言っても、負ければこんなものか。大したことないな」
そして、あろうことか、マイトを挑発するようなことを言い始めた。
「たかが扱いしていたハンターに一撃でのされて自信喪失。情けないよな」
「ちょっ、サイト――」
「Dランクには勝てても、所詮Eランクハンターってことか。Cランク相手は荷が重かったかな?」
「いや、そこまで言わなくても」
「黙ってろ、トリア。ギルドで仲間に慰めてもらってるのに顔さえ上げない玉無し。五体満足だっていうのに仕事の受注すらしようとしない」
言われっぱなしでさすがにプルプルとマイトの体が小刻みに揺れ始める。そこまできて、ようやく僕はサイトのやろうとしていることがわかった。サイトはとても面白そうに続ける。
「……もういっぺん言ってみろ」
「ん? ムカついたか? 拳闘士は雑魚だと言われて、ムカついたのか? 雑魚キャラマイト」
「サイト、お前――」
「何度でも言ってやろうか。そんな事だから、カイゼルに完敗するんだよ。自称最強。ムカついたら、どうするんだ。こうするんじゃないのかよ!」
言いながらサイトが手の平をクルリと回す。ふわりとマイトの体が反転して浮き上がり、サイトがその尻を蹴り飛ばした。ギルドの扉を突き破り、マイトが表に飛び出ていく。
「サイト!」
「止めるな、トリア」
「違うよ。どうせなら大剣くらいマイトに渡さないと、本調子出ないと思うよ」
「……ハッ」
僕は放置されていた大剣をサイトに渡す。彼は悪戯っぽく笑うと大剣を放り投げる。大剣は消えたと思ったら、通りに吹っ飛ばされたマイトの眼前に突き刺さっていた。
マイトは大剣を手に取り立ちあがる。次の瞬間にはサイトも通りに出て、二人して剣を振り回していた。
「あ~ぁ、また扉壊しちゃったんですね」
二人を余所に、そんなことを言いながら受付のルーシーがやってくる。
「すみません。扉の修理費はサイトに請求してください」
「そういう問題じゃないんですけどね。請求はしますけど」
ルーシーは言いながら嘆息する。
「あと、通りであれは危ないですから、サイトさんに訓練場に移動するように言ってくれます?」
「伝えておきます」
「あと、吹っ飛ばされた扉の片付けもお願いしますね」
それだけ伝えると、ルーシーは受付に帰っていく。
「ルーシーさん、動じないんだね」と、エレクは目をまんまるにしていた。
「ハンター同士のいざこざなんて絶えないからね。これくらいであたふたしてたら、受付なんて身が持たないんじゃないかな」
「いちいち扉を壊すのはやめてほしい。片付けも楽じゃない」
ミアはさっさと扉の破片を回収に行く。エレクも後をついて行った。
「なんだ。あいつ、ようやく持ち直したのか?」
そんな僕たちのところに、たまたま通りかかったのだろう。カイゼルが声を掛けてくれた。
「持ち直し立っていうか、サイトが喧嘩売ったっていうか」
「あぁ、ハンター式か」
「まあね。ぐだぐだするよりは、あっちの方がマイトの立ち直りは早いとは思うよ」
やり方はもうちょっとなんとかしてほしい。なんて続けると、カイゼルは「サイトだからな」なんて苦笑していた。
「カイゼルはやっぱりサイトのことをよく知っているんですね」
「ん? まあ、そうだな。同じCランクっていうのはあるが、チーム加盟をお願いしたことがあってな」
「そうだったの?」
「知らなかったのか」とカイゼルは意外そうな顔をしていた。
「少々常識知らずのところはあるが、あの剣の腕に魔法まで万能だろ。お前たちとチームをつくろうとしている話はルーシーから聞いているが、いまだにあいつを勧誘しているパーティは少なくない」
「そうだろうな、とは思っていたけど。サイト、その辺は何にも言ってくれないから」
「お前たちに気を使われたくないんだろうな」
カイゼルの言う通りサイトの考えそうなことだった。
「それより、カイゼルさんはさっさと離れた方がいいですよ。今はまだ大丈夫だけど、マイトが見つけたら、また喧嘩を売りに来ます」
「勝算が無くてもか?」
「そういう人ですから」
困ったもんです、と僕が言うと、カイゼルは少し複雑な表情で笑みを浮かべていた。呆れたような、羨望のような、そんな表情だった。
「なら、一つあの馬鹿に忠告をお願いしてもいいか」
「忠告ですか」
カイゼルが頷く。
「この前、俺が使って見せた『剛閃剣』だが、あれはサイトと作り上げた技だ」
「あぁ……、やっぱりですか」
「予想していたのか」
「あんな無茶な身体強化、聞いたことがありませんから」
僕だって魔術師の端くれだ。単純に『超スピードで斬り伏せる』あの技の非常識さはわかっているつもりだ。
ミアを超えるような目にもとまらない早さで、マイトの一撃以上の攻撃を繰り出す。言うのは簡単だが、魔法による身体強化は万能ではない。あんな挙動を続ければ、スピードの元である足はボロボロになり、剣を持っていた手と手首はイカレるし、ハンター生命を縮めるようなものだ。
「あの技が連続では出せない。サイトが言うには、一回限りの必殺技らしい。もっとも、少し休めばまた使えるようになるし、連発できない訳じゃないがな。だから、もしもう一度あの馬鹿が勝負を挑みに来るとしたら、お前からうまく伝えてくれないか。あの技だけは避けろ、とな」
「そんなこと言ったら、カイゼルさんが不利になるんじゃない」
「かまわない。それでも負ける気はしない。ただ、俺もあの馬鹿は憎めそうにないからな」
カイゼルはそう言うと裏口から出て行った。あの人も、ちょっと不器用そうな人だ。
とりあえず、僕は通りで馬鹿騒ぎを起こしている二人に、訓練場まで移動するように伝えに行った。




