ブルル討伐
一話が原稿用紙で5~6枚程度で続いていくファンタジー系連載小説です。
仲の良い男の子たちやたまに女の子が絡んだり、馬鹿をやったり、たまにシリアスになったり、
そんな話が書きたいな、と思って始めました。
時間のある時にでものんびり読んでください。
木漏れ日の降り注ぐ森の中、衝撃が大木を揺らし、逃げていく鳥の声が響き渡った。
「トリア、そっちに行ったぞ」
獣の咆哮と重なるように聞こえてきたサイトの声。
僕は反射的にホールドしていた土魔法を解き放った。
「ストーンエッジ!」
力ある言葉とともに杖で地面を叩く。瞬間的に淡い光の魔法陣が光ると同時に、目の前の地面が隆起する。天を突くように現れた僕の胴体以上の太さを持った石の槍。この辺りではブルルと呼ばれる巨獣の胴を強かにうちあげて跳ね飛ばした。
ブルルは苦しそうなうめき声を上げながら地面を転がるようにのたうつ。
怒りを宿した黒い瞳。猪のような見た目。そして規格外とも言える体調3メートルはありそうな巨体。
今は魔法で攻撃をした僕に狙いを定め、前傾姿勢で牙を向ける。やっぱり、僕程度の魔法では一発で仕留めることは難しそうだ。
ストーンエッジを放つと同時に詠唱を始めていたが、このままでは先に突撃されて跳ね飛ばされるだろう。僕が一人きりだったらの話だ。
「さがっていろ」
抑揚のない声が聞こえたと思ったら、低く飛ぶ何かが高速でブルルに向かっていく。
右の後ろ足を重点的に削られ、その巨体が叫び声と共に揺らめく。毛皮が真っ赤に染めあがるほどの血が流れ出していた。
「効いたか? もう、そんなに速くは走れないだろ?」
高速で飛びまわっていた影がブルルと距離をとって立ち止まる。両手に短い短刀を持った少女が、無感情な表情で獲物を見ていた。小柄で華奢な体つきの少女。長い髪を後ろで束ね、釣り目がちな鳶色の瞳。ショートパンツにレザーアーマーを身につけている。
彼女の名前はミア=レオンハート。リーダーの妹で、双剣士をしている少女だ。
ミアが足止めをしてくれている間に僕は詠唱を終える。
「抉れ、アイスランス」
空中にいくつもの小さな氷の槍が現れ、ブルルに向かって突貫する。槍は回転しながらブルルの体に突き刺さる。固い毛皮に覆われた皮膚を突き破ることは難しいが、鼻先をこちらに向けていたのが幸いして、何本かが目に向かう。
ブルルはたまらず回避行動をとり、足を引きずりながら逃げていく。
「待て! トリア、もう一発ストーンエッジだ!」
「わかった」
言うが早いか、ミアは森の中を駆けて行く。僕は走りながら呪文の詠唱を始める。
あの人ならこの程度の呪文はもっと強力なものを無詠唱でやってのけるのに……。無い物ねだりをしても仕方が無い。手持ちのカードを元に、追いつめるための策を考える。幸い、足を怪我したブルルは速くは走れない。ミアはともかく、魔術師の僕でも追いつけそうな速さだ。
ただ、あの巨体を止めるのにはミアの双剣では心もとない。彼女の言った通り、僕の使えるストーンエッジなどの威力の高い魔法が必要そうだ。だけど、あの魔法は射程が短く、逃げる相手には使えない。こっちに向かってくるように仕向けるか、動きを制限、拘束する必要があった。
「ミア、クモの巣でブルルの活動を制限できる」
「任せろ。この先につくっておいた場所がある。誘導する」
ミアがブルルを追い越すようにスピードを上げるといくつものナイフを投擲する。ナイフはブルルの鼻先を掠めた。反射的にブルルは進行方向を変え、ミアとナイフから逃げるように走る。
だが、その先にあったのは竹林で、さらに竹と竹の間を縫うようにいくつもの糸が走っていた。これが、ミア得意のクモの巣だった。
ブルルは竹の間の糸を断ち切るかのように進もうとする。だが、糸は切れず、逆にブルルの毛皮の下の肉を切り刻む。さらに竹を蹴るように高く跳んだミアがいくつかのナイフを投擲する。ナイフの柄にはクモの巣に使っている糸が結ばれており、それがブルルをその場に縫いつけるかのように取り囲んだ。
「任せたぞ」
彼女の言葉に背中を押されるように僕は詠唱の終わっていた魔法を解き放つ。
ブルルの真下の地面が隆起し、真下から突き上げるように石の槍が突き抜ける。ブルルは大きな叫び声をあげたと思ったら沈黙する。回避できない状態での直撃。
「やったな」と僕とミアは破顔する。
「だが、確認はしっかりとするべきだな」
声が聞こえたと思ったら、ブルルが雄たけびを上げて上体を起こす。糸がナイフごと剥がされ、怒れるブルルは僕に向かって突撃しようと地面を蹴り上げた。
「ストーンエッジ」
だが、次の瞬間にはまばゆい光を放つ大魔法陣が展開する。そこかしこからブルルを包囲するかのように石の槍が隆起する。一本の槍が足を突き刺し、別の槍が銅を貫く、都合、九本の槍がブルルの体を完全に貫いていた。
「最初の攻撃から追い込み、包囲までの流れは良かったが、詰めがまだまだだな」
そう言いながらへたり込みそうになっていた僕を支えるように隣に現れる。闇色の髪に鳶色の瞳、どこか幼さを残した悪戯っ子のような青年が僕を支えていた。
「サイト、ありがとう。また助けられちゃったよ」
「気にするなよ。途中までは良い線いってたよ」
「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいんだけどね」
「ミアもお疲れ様。またスピード上がったんじゃないか?」
彼の言葉にミアは頷く。当然だろ? とでも言いたそうな感じだった。
僕の支えてくれたのがサイト=レオンハート。ミアの兄さんで、僕たちの頼れるリーダー。そして、嘘か本当か知らないが、前世は全然別の世界で生きていた転生者だそうだ。
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