ー未完成な少女たちー
ちょこちょこ書きつつ、他のも完結しようと思います。
本物にあこがれた偽者は
本物に成りたいわけではなく、ただ傍にありたいだけだった。
けれど、本物の横に立つのに偽者は
醜く小さく、愚かだった。
それでも共にありたいと望んだ結果、
偽者は本物の仲間に成りすますことにした。
綺麗な宝石の中に一つだけのガラス玉。
一生懸命に磨いて、削って。
皹が入ってしまえばそれでお仕舞い。
それでも良かった。
ほんのひと時でも、本物と共に在れるのであればどれだけ己を削ろうと構わないと思っていた。
ただ、本物に仲間としてみて欲しかった。
同じものが欲しかった。
ガラス玉として飾るにはもう身を削りすぎ、脆くなってしまって細工も出来ないほど。
ところどころ細かな濁りもあるけれど、
一瞬だけでも共に在りたい者を見つけてしまったガラス玉。
私はもう歪な塊でしかないけれど、彼女達と共にいられるならどれだけでもわが身を削ってみせよう。
いつか砕け散る運命だとしても、あの輝いた特別なものの中で在れるならどんな傷も受け入れよう。
もしも純粋な心のままだったら、きっと今の誰一人とも親しい友などにはなれなかっただろう。ただ、歪んで捻くれてしまっている自分に何度も何度も後悔して、そうなるしかなかった原因に恨みを向けるることだけはどうしようも無かった。けれどそうして歪んでしまったものは、後は折れるのを待つだけだと思っていたのは間違いだった。歪んでしまったならどこまでも歪んだ、元からそうであったように記憶を書き換えるだけで十分だった。
いつまでも『純粋かこ』を振り返ることは救われない、『歪みいま』を受け入れて青春を謳歌して見せようじゃないか。
※※
第一話:【言わぬが花】
三好 葵3つの好きを抱くその名が重く感じたのはいつからだっただろうか。
いつの間にか「好き」だと言われることが嫌いになっていた。
嫌われることが嬉しいわけではなく、好かれることが嫌なわけではない。好かれること自体は嬉しいのだか「好き」だと言われると怖くなっていた。それは、特に自覚も何も無く、偶然私自身も気づいたことだった。
――ホントいい子ねぇ、お母さんあなたが大好きよ。――
切っ掛けは何だったのかは思い出せないが、きっと気づかないようにしていただけで理由は分かっている。
私には年の離れた妹がいる。
原因は妹ではなく、妹を素直に愛せなかった私だったのだ。
だが、今更気づいたところでどうしようもないほどに私は捻くれてしまっていて、それでも本来なら喜べるはずの言葉を素直に受け取れないことは、どことなく虚しかった。
そして私自身はその嫌いなはずの言葉を多様しているのだから、もう救いようのないほどの愚か者だった。
――私は妹が大好きだから何でも許せるの。――
自ら生み出していくこの言葉は、口にするたびに真っ黒な気持ちにさせていく。
そうなることが分かっていても、口にしなければ生活していけないほどに私は、私の心は
妹のことが 大嫌い だと叫んでいた。
捻くれ者の私は「好き」という言葉と同じ位に「嫌い」だと叫ぶ。
いつのころからか「好き」と言われるたびに本当は「嫌い」だと言われている気がした。
愛して欲しいのに、愛したいのに叫べば叫ぶほど真っ黒になっていく。
素直に言葉に出来ていれば。
いや、言葉にしたら全てが崩れてしまうと分かっていたからこそだった。
『大好きな』家族とずっと一緒にいたいから。
『大好きな』妹と仲良く暮らしていたいから。
嘘をついていたとは思わない。
けれど正直に生きてきた自信は欠片もない。
正直者にはなれなくて、善人でもなかったけれどせめて偽善になれるよう、利己的な優しさで塗り固めた私。
『正直者は馬鹿をみる』
では、嘘つきは幸せになれるのですか?
誰でもいいのです。
私に疑うべき場所が見つからない、ただただ優しいだけの『言葉』をください。
それを受け取ることが出来なならば、私に心はいりません。
イラナイモノはどこに捨てればいいのでしょうか。
必要の無いものはどうすればよいのでしょうか。
二度と手元に戻ってこないようにするにはどうすれば良いのでしょうか。
『言葉』を手に入れるのが先であったのか、
『虚しさ』を手放すのが先であったのか。
そんな昔でないはずなのに、私にはもう思い出すことも出来ません。
ただ一つ覚えているのは、私は最後に1人の助けになれたこと。
そんなことを思っていた『昔』の私。
今の私の想いに気づくのは一体いつになるだろう。
手に入れたものはなんだったのか、失ったものはなんであっただろうか。
気づいていないのか、気づかないでいたいのか考えることは『この思いは本物なのか』ということ。
でもその想いは今の私に持ち合わせていない。
イラナイモノは捨てました。
イラナイモノをあげました。
貰ってくれたのは誰だったのか。
※※
『喜怒哀楽』
それがどれだけ大切なものなのか知ったのは小学生のころ。
どの小説でに出てくる人物達はとても魅力的で、図書館は私にとっては宝箱だった。
主人公や脇役達、どの登場人物も文字の中で『生きて』いた。ただ表情が見えないということから、思いは想像出来てもどう表せばよいのかは全く分からなかった。
今思えば、このときから欠けていたのだろう。
私の中の『生きる』ための動力が。
当然表情を知らない小学生など異質で、感情豊かな子供は異質を嫌い取り除こうとした。私はクラスの異物だった。
けれどそんな私を身体を張って助けようとしてくれた『ヒーロー』がいた。私と違って外に出ることの好きな彼女は逞しく、身長も高く細身でありながら小学生ながらに武道を習っており心も身体も美しかった。
彼女は私の幼馴染で、とても強く美しい小説の中の主人公のようだった。クラスの男子とも引くことなく、家が近いだけの私を行き帰りを含めてクラスでも守ってくれていた。そんな彼女も中学に入るとクラスも別れて運動部に入り登下校の時間も次第にズレて行き始め、会わなくなり必然的に私は一人になった。それに気づいたのは1人は平気だったはずの自分が、集団の中での孤独に独りきりに耐えられなくなっていた頃。
そんな時に私はクラスの中の彼女達に気付いた。
歯車が欠けているのに動く時計のような、見た目だけが他と同じの何か足りないのに足りないものを感じさせない不思議なものに。
未完成でありながら、完成品な彼女達に出会った。
初めて目に付いたのは、窓際で一人分厚い本を読んでいる少女だった。
一見、クラスに溶け込めず一人寂しく読書をしているように見えたが観察しているとクラスメイトの何人かが彼女に話をふり、それに愛想よく答えているのを見て人付き合いが苦手ではないように思えた。けれど本当に愛想よく答えるだけで必ず誰か特定の友人と話をする様子はもちろん、自分から誰かに話しかけるということは一度も無かった。むしろ極力話すことを短くしようとしているようで、会話の誘導が素晴らしく上手だと感じた。独りでいることを恐れて色んなグループに媚を売っている自分とは違い、彼女は独りを保つために努力しているように思えた。そんな彼女に私は強い憧れを抱き、もっと近づきたいと思うようになっていった。
そして、その思いを抱いた翌日から毎日私は彼女に話しかけるようになった。
最初は私が話しかけるだびに、愛想よくその時々の言葉に対して答えをくれていたが、次第に3回に1回は聞こえない振りをするようになった。そして1ヶ月を過ぎた頃。
「おはよう! 今日は何の本を読んでるの?どんな内容?楽しい本?それとも悲しい本?」
と尋ねると、
『ふふ、見て分からないのは聞いても分からないものよ?それから朝からずいぶん騒がしい子ね、耳が痛いわ。ちょっとは落ち着いたらどうかしら、三好葵さん?』
愛想笑いすら浮かべず、けれども決して突き放すでもない瞳で本から人へと視線を映した彼女はとても凛として美しかった。
それが彼女、
一つ目の完成品である
新島 奈音との始まりだった。
「騒がしかったかな?でも新島さんが私の名前を憶えてくれているとは、思っても見なかったなぁ。」
誰もいない図書室で私は彼女に答えた。
「あら?意外と失礼な子なのね、高々四〇人弱のクラスメイトくらい覚えられないほどの薄情者ににでも見えたのかしら?」
声は軽やかに凛として、けれども教室では見られなかった笑みの無い表情のまま問いかけてきた。いや問いかけているように見えて、答えを引きずり出されているかのような空気だった。