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一ページ目 『怪物よ泣き叫べ』:五行目

「うっ......これは、酷いっすね」

「食いちぎられているからな」


 六畳くらいの簡素な部屋のど真ん中に、一つの死体が転がっていた。

 訂正。

 散らばっていた。

 宿主である男。

 体のあちこちを食いちぎられ、胴体と四肢がバイバイしている。また、お腹に詰まっていたであろう肉のくだが一mくらいはみ出ていた。本来はあと六mくらいあるはずなのだが、そこには無い。いったい何処に行ったのやら。

 もちろん、床は――説明するまでもないのだが――血浸しだった。ガラスの破片が綺麗に散らばっていて、まるで悪趣味なアート作品のようになっていた。

 本当は事件現場なのだが。


「吐きたいなら吐いてこい。画面が青ざめているぞ」

「いや、しかし――わたくしはIsより派遣された刑事ロボット! 『ディスクマン』で、あります! こんなことをしでかした犯人、わたくしの高性能な観察眼アイカメラを駆使し捕獲して見せましょぉ!」


 いかにもポンコツそうなロボットが決めポーズをしながら言った。

 頭部より下はサラリーマンスーツを着こなし、すらっとしている。スーツの後ろにはISのロゴマーク(白くてシンプルな丸。まるで、死んだ魚の目だ)が施されていた。体だけ見れば人間と大差ないのだが、その頭部を見ればロボットだと分かる。パソコンのディスプレイになっているのだ。

 あの映画泥棒を想像してくださると分かりやすいだろう。

 ディスプレイに何か表示されている訳ではない。


 ディスクマンの他に、無数の鑑識ナノロボットが宙を飛び回っている。

 タンポポの綿毛を丸めたような姿だ。


「ふむふむ......。これは、歯形ですかな? ふーむふむふむ、わっかりましたぁ!」


 流石、刑事ロボット。その高性能な観察眼アイカメラを駆使し、もう犯人を特定したらしい。早く事が済みそうで、先生は胸を撫でおろした。


「犯人は即ち――オオカミで、あります! こんな無残な喰い方をするのは、悪くて大きなオオカミに違いありません!」


やはりポンコツであった。


「いや、それはないだろ」

「何ですとおぉぉぉ!?」


 刑事ロボットはオーバーリアクションをとりながら酷く驚いた。よっぽど自分の推理に自信があったらしい。


「そ、それはいったいどういうこと、で、ありますか!?」

「セーフエリアはドーム状の物質消去レーザーによって守られている。外からオオカミ等の野生動物は入ってこれまい。つまり、セーフエリアの内部の者による犯行だ」

「なるほど......。つまり、誰かが飼っていたオオカミによる犯行、で、ありますね!」

「何故オオカミにこだわる?」




 宿主の遺体を見つけた先生はその後、Isへ連絡したのである。先生とシオリは遺体の第二発見者として事情聴取を受けることとなった。第一発見者である女性は――部屋の隅っこでうずくまっており、話が聞ける状態ではなさそうだ。この宿で住み着きで働いているのだろう。

 その後、先生とシオリは早々に宿から出ることにした。

 黙々と荷造りをしていた最中、シオリが唐突に口を開いた。


「おじさん、どうして死んちゃったのかな?」

「......さあな。誰かの恨みを買っていたのかもしれないし、愉快犯に殺されたのかもしれないし、理由なんてないのかもしれない」

「まーたいい加減なこと言って......」

「何を言っているんだ? 俺はいい加減なことは何一つ言ってないぞ?」

「え? それじゃあ、先生はもう犯人分かったの!?」

「んなわけあるか」

「やっぱりいい加減――」

「――被害者である宿主は犯人から逃げきれずに殺されたのだろうな。あの部屋ではないどこかで犯人と出くわした宿主は、犯人から逃れるために部屋に入り鍵を閉めた。しかし、犯人は外から窓を割って侵入。だから部屋中にガラス破片が散らばっていた。気になるのは、なぜ宿主は犯人を見て逃げたか。それには二通りの理由が考えられる。一つは、犯人と『面識があった』から。自分を恨んでいると知っていた宿主は身の危険を感じ、部屋に閉じこもった。そしてもう一つは、犯人が『身の危険を感じる格好』をしていたから。刃物などを持っていたら誰だって逃げるだろうな。しかし......遺体には切り傷などのそれらしい痕跡は見られなかった。あったのは歯形。おそらく『身体』を見て逃げたのだろうな。......ハッ、怪物なんかは適任だな」

「......先生、顔こわい」


 それからしばらくして、荷造りを終えた先生とシオリは宿を後にした。

 彼らには『仕事』が待っている。

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